0009・手紙の届け先は?
ミクは手紙を戻すと誰に渡すかを考える。この手紙は迂闊な者に渡せば握り潰されて終わるだろう。それをさせてはいけないのは流石のミクでも分かる。神が喰らえと言った連中を生き残らせてしまう事になるからだ。
(まずは宿のオッサン? 何だか怪しいけど、流石に変な事をしている者ではないと思う。第二は美味しい匂いのするギルドの受付嬢。アレもそこま……そうだ! ギルドの偉い奴に渡せばいい!)
どうやら結論が出たようなので、ミクは開けた場所から出ようとした。その矢先、ミクの耳に何かの走る音が聞こえる。すぐに音の方向を見ると、狼が三頭見えた。
その狼は真っ直ぐこちらに向かっているが、どうやら血の匂いを捕捉されたようだ。
三頭のフォレストウルフが向かってくるが、勢いを落とす事無くミクに攻撃を仕掛けてくる。既に戦いの用意が出来ていたミクは、右手にメイス、左手に逆手でダガーを持ち、左足を前に出して構えている。
先頭のフォレストウルフが飛び上がって咬みつきにきた瞬間、凄まじい速さでメイスが右から左に振られる。
ドガンッ!! という音と共に狼の頭は潰れ、そのまま左に回転しながら飛んでいった。それを確認する事も無く次の狼が右から迫っていたが、冷静にミクは右手の甲から骨を射出して狼の脳をかき回す。
最後の一頭は左に飛んだ死体に急停止しており、ビックリするというか固まっていた。どうやら戦闘中に動けないと死ぬという事を知らないらしい。最後の一頭の頭にメイスを振り下ろし、頭を陥没させて終わらせた。
飛んでいった死体を見て、コレは駄目だと悟ったミクは、最後の一頭以外を喰らった。単純に頭が潰れた死体は怪しまれるし、脳天に穴が空いていて、脳がかき回されている死体など言い訳できない。
よって一頭だけ血抜きをし、冷やしたら荷車に載せて帰り道を進む。
(あの男が持っていたのは短めのロングソードとガントレットだった。ロングソードはともかくガントレットは使えそう。荷車に載せてあるけど、私の物になるなら貰おう。イジって改良したい)
そんな事を考えつつ荷車を牽いて歩き、早々に帰ってきたミクは門番に訝しがられた。それを適当に流し、ギルドの裏の解体所へと持って行く。すると、同じ人物が出てきて査定をしてくれる。
「おっ、フォレストウルフか。綺麗に血抜きしてあるし<良>の字を書いておくよ。それにしても頭が陥没するなんて、凄い威力で殴ったんだなぁ……。ああ、【スキル】の事とかは聞かないから安心してくれ」
そう言って職員は、フォレストウルフ一頭<良>と書かれた木札を渡してきた。それを持って再び建物の中に入るミク。いつもの受付嬢が居たのでそこへ行き、木札を渡す。
「これ、お願い」
「はい。フォレストウルフ一頭で大銅貨10枚ですが、良品ですので12枚となります」
「……うん。ちゃんと、ある。ところで一つ聞きたいんだけど、ギルドマスターに会う事って出来る?」
「………何故、ギルドマスターに面会を求めるのですか?」
「ちょーっと、面倒な事があってね。色々考えたら、ここのギルドマスターっていう偉い人に放り投げるのが一番だと思ったんだ。だから直接渡そうと思ってさ」
「渡す……ですか。分かりました、ついてきて下さい」
血の匂いのする受付嬢は、ギルドの端にある2階への階段へ案内してきた。ミクはこの段階になっても、特に受付嬢に対して危機感を抱いていない。端的に言えば、いつでも殺せると思っている。
そしてそれは、受付嬢ことギルドマスターにとって残酷な事実であった。
ギルドマスターの部屋をノックしてから入るカレン。本来は部屋の主なのだが、あくまでも二人が部屋に入るまでは受付嬢のフリをするらしい。
ミクも部屋に入った後、鍵を掛けてからギルドマスターの執務机の椅子に座る。
「で、私に何の用? 私がバルクスの町のギルドマスターである、カレン・ジューディア・エスティオルよ。冒険者としての二つ名は<黄昏のカレン>。そちらはどう呼べばいいのかしら?」
「??? 別に気にせず、好きに呼べば良いんじゃないの? それよりコレを受け取ってくれればいい。私の用はそれで終わる」
「円筒形の手紙入れねぇ……。これを渡して、貴女はいったいどうする気? 私に何かしら便宜を図れという事かしら?」
「それは、そもそも私のじゃない。ランク5のガンズ? とかいう奴が襲ってきたからブチ殺した。そいつが持っていた物の中にあった物。中を読んだら、代官から<死壊のグード>とかいう奴への手紙だった」
「何ですって!? …………あんの、クソ豚ぁ!! この私の居る町で下らない事をした対価は、高くつくわよ!!」
「じゃあ、そういう事で。私はその面倒くさいのを渡したかっただけだから」
「待ちなさい。私はギルドマスターとして貴女に依頼をするわ。<死壊のグード>を倒してきて頂戴。貴女、かなり強力な【気配察知】が使えるわね? でなければ、あの数のアースモールは倒せない」
「えぇ……そもそも私は関係無いし、ランクも1でしかないから無理。それに何より、面倒くさい」
「私が! 依頼をしているのよ?」
ミクが面倒だと言った瞬間から、部屋中に殺気と殺意が満ち、カレンの目は紅く染まっていた。明らかに吸血鬼の容貌であり、魔力も闘気も隠さなくなっている。一足飛びでミクを殺せるという脅しなのだろうが、甘い。
ミクは即座に自分の体を肉塊にし、<暴食形態>へと移行した。コイツを食い荒らした後は町中のゴミを食べて、その後は他の町に行こうなどと軽く考えている。しかし、カレンは平静では居られない。
「な、何よ………コイツは。化け物じゃないの……。何でこんな奴が、この町に………」
永く生きるカレンは一瞬にして理解してしまった。自分は目の前の肉塊に喰われる運命だと。しかし、神はカレンを見捨ててはくれなかった。血を司る神はミクを止め、ソイツに色々やらせろと命じたのだ。
元々神々はカレンを喰わせる気は無かったので、カレンが死ぬ事は無かったのだが、それでもタイミングはギリギリであった。
喰えない事を理解したミクは途端にやる気を無くし、元の人間形態へと戻る。
「えっ!? どういう事? 何で急に?」
「血の神が貴女を喰うなって。その所為で喰い損ねた………残念」
「は、ははははは……。神よ、感謝いたします」
「代わりに下界のゴミを処理しろってさ。そっちにも伝えているみたいだけど、私と同じ仕事だねえ。アイツらが喰うなって言った以上、無理だし帰ろっと」
「え……あ、はい。ちょっと待って! 神様から、貴女が<死壊のグード>を食べたって聞いたのだけれど!? いったいどういう事!?」
「あー……面倒くさい。結局、面倒な事になってるし。後、この星の連中に言えば間引き出来るんじゃん。何で私にやらせるかな?」
その後、お互いにソファーに座り、二人で様々なすり合わせをしていく。ミクがこの星に下りて最初の日に、盗賊どものアジトを見つけていた事。そこに居たのが<死壊のグード>であり、喰い殺した事などを説明。
更に宿で揉め事を起こしたランク5のガイズの事も話すと、カレンは少し考えている様だった。その間にミクはリュックからガイズの登録証などを出す。すると、そこにはランク3と書かれていた。
「あれ? あの男はランク5じゃなくて3だね。それと、あの男が持っていたガントレットとロングソード、私が貰うけど構わない?」
「え? ええ。それは構わないけれど……低ランクの奴を使って手紙を運ばせ、豚は命令を伝えていた。でも、そのガイズとやらは何故届けなかったのかしら?」
「アジトに行ったら居なかったから、仕方なく帰って来たんじゃないの?」
「ああ、成る程。だから手紙を持ったままだったと。相手はとっくに殺されて喰われた後だった訳ね。それは想像すら出来なかったでしょう。こんな怪物が世の中に居るなんて、誰も思わないでしょうしね」
「酷いなあ。文句なら神どもに言うべきだよ」
「そんな事、出来る訳ないでしょ!」
それなりに良いコンビな気がする二人であった。
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