0010・協力者と対価
「もう一度聞くんだけど、貴女はこの星のゴミを喰らいに来た。それだけであって、普通の人を喰い荒らしに来た訳ではない。それは間違い無いわね?」
カレンが再度重要な事としてミクに聞いている。そのミクはロングソードやガントレットなどを肉に埋め込み、本体へと転送していた。その光景を見ながら、内心「うわぁ……」と思うカレンだった。
「そうそう、間違って無いよ。あの連中に実験されたり、教育されたり、実験されたり、修行させられたり、実験されたのが私。で、星に住む人間種の中のゴミどもを喰らってこいってさ」
「そうなの……やたら実験が多かったのは怖いから流すとして、それよりもクソ豚……代官を潰す為に協力してくれない? お礼はちゃんとするわ。仮に手紙などを運ぶ際でも、貴女なら確実に届けられる筈だし」
「んー……私じゃなきゃ駄目? 正直に言って面倒くさい。それにランク1がウロウロしてても良いものなの? 怪しまれない?」
「別に怪しまれはしないわよ。登録だけしてダンジョンに潜ってるのも居るし、ランクだけでは実力は計れないんだけど、ランクで物事を考える馬鹿は居るのよね。高ランクになるには実力が要るから、当然の事ではあるんだけど」
「ふーん。その言い方だと、実力があるのに低いランクの奴は居るけど、実力が無いのに高ランクな奴は居ないって感じだね」
「稀に居るけど、まず居ないと言って良いわね。何処かの支部が手心を加えるか、金に靡いたか、それとも貴族が介入してきたか。大体このどれかよ。普通は弱いのに高ランクになるなんて、あり得ないもの」
「まあ、それはそうなんだろうね。ところで、もう帰っていい? 私がここに居る意味って無いよね?」
「あるわよ。ゴミを処理する為にも協力してもらわなきゃ困るの。お礼もするから、助けて!」
「うーん………分かった。ただし、対価は男二人に女二人ね。それなら私も受けていいよ」
「………いや、確かに貴女は<喰らう者>でしょうけど、流石に生贄を捧げるのは無理よ。罪の無い者を生贄には捧げられないし、罪の有る者なら良いけど、急に用意するなんて流石に無理だわ」
「??? ……私がそいつらを食べると思ってる? 私が求めているのは誘惑方法。私は男の体にも女の体にもなれる。だから誘惑して食べるつもりなんだけど、どうすればいいのか何となくでしか知らないの。だから聞きたい」
「あ、ああ……そういう事ね。誘惑……駄目ね。貴女は適当に聞く気でしょうけど、それは貴女の事をバラす事になってしまうわ。聞いて黙れる者は多くないわよ。人間種という者は簡単に口を割ると考えなさい」
「むう……困ったね。誘惑して適当にヤらせている最中に喰えばいいやと思ってたけど、少し訂正する必要がありそう」
「何て事を考えるの……これは駄目ね。貴女には先に常識というものを教えた方が良いみたい。それと誘惑方法も含めて教えてあげるわ。男の姿になれるって言ってたけど、メインはその姿なんでしょ?」
「女の姿の方が腐った奴が近付いてくるって、神連中が言ってたからそうしてる。確かに効果あったし」
「神様は何を教えているのよ……まあ、いいわ。誘惑方法と常識を教える。後は通常の報酬で受けてくれるかしら?」
「分かった。それなら良い」
どうやら二人の間で取引が成立したらしい。書面にも出来ない契約であるが、それが裏切られる事は無いだろう。ミクに裏切る気は無く、カレンはそんな怖ろしい事は絶対にしない。というより、出来ないと言うのが正解だ。
永く生きるカレンにとっても、大事な物や人というのは有る。だからこそ、それらを喰らい尽くす怪物を裏切る事はできない。そう考えた時に彼女は深い溜息を吐き、ミクを自分の屋敷に誘う事にした。
「今日はもう夕方が近いし、この先の話は私の屋敷でしましょうか。宿代も浮くんだから丁度良いでしょう?」
「私はどっちでもいい。特に寝床なんて気にしないし、そもそも寝る必要が無い。本体はずっと起きてるし、この体は端末というか本体の一部だから」
「………何かしら、更なる化け物の情報が聞こえたわね。………あー、つまり何? 今ここに居る貴女を仮に倒せたとしても、それは貴女の一部でしかないと……?」
「そう。だから襲われて殺されたとしても、本体の一部が欠けた程度。人間種なら髪の毛の先が切られたとか、爪が削れたという程度でしかない」
「思っていた以上に化け物すぎる。こんなのを、どうして私達の下に送ったのですか、神様!」
「この星に腐った汚物が多い所為だと思うよ? 戦いの神とか激怒してたし。何でも、別の星から送った奴等を奴隷にしたとか何とか……」
「<神聖国>のゴミどもね!! 碌な事をしない奴等だけど、神を激怒させるとか頭が狂ってるとしか思えないわ! 何が「我等は敬虔な神の使徒」よ! 本物の神の使徒は、ここに居るじゃない!!」
「えー……アイツらの使徒とか、何かヤダ。私は食べられるから言う事を聞いているのと、流石に奴等には勝てないから聞いてるだけ。私の肉を千切って何百回も実験したのは絶対に忘れない!」
ミクの恨みは、主に死を司る神の所為であった。
「まあ、ここで話していても仕方ないから、後で私の屋敷に来て。この町で一番大きな屋敷だから、説明しなくても分かるでしょう。もし分からなかったら、道を歩いている人に聞きなさい」
「りょーかい」
やる気の無い声と共に、ミクはギルドマスターの部屋を出て行く。それを見送り、扉が閉まると安堵の溜息を吐いた。カレンはようやく落ち着く事が出来たようだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ふぅ……あんな化け物の相手を、これからしなきゃいけないなんてね。私の永い生は何処で狂ったのかしら」
『諦めろ。アレは存外に貴様を気に入ったらしい。アレを作った者はおそらく、星の破滅を願って作ったのだろうが、我等が改良し過ぎたからな。もう別の存在と言ってもいいモノだ。それより星の汚物の処理、頼んだぞ』
『はい。私は永遠を生きる者。必ずや神命を果たしてみせます』
それにしても、昔アレを喰らい高位吸血鬼になった際、一度だけ邂逅した神に再び会う事になるなんて。しかも、あんな化け物が原因で会う事になるなんて、夢にも思わなかったわ。自分が今正気なのかすら疑わしいほどよ。
とにかく化け物……いえ、ミクには常識を覚えてもらわないと。流石に神も下界の常識なんて教える事が出来なかったみたいだし。まあ、仕方ないのでしょうけれど。
とにかく早めに屋敷に戻って……いえ、【念話】で指示を出しましょう。夕食とか、ベッドの用意とか……。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
(やれやれ、やっとあの部屋を出られたよ。確か大きな屋敷に来いとか言ってたから、荷車を返してからじゃないと行けないね。分からなきゃ町の人に聞けば良いらしいし、迷う事は無いでしょ。たぶん)
ミクは冒険者ギルド内にある解体所への扉から出ると、置いてある荷車を牽いて移動する。冒険者ギルドの目の前にある荷車屋へ返すのだが、【生活魔法】の【清潔】を使い綺麗に汚れを落としている為、文句を言われる事も無かった。
この星に【生活魔法】という種類の魔法は存在しないが、各魔法の中でも簡単で生活の役に立つ魔法を、【生活魔法】と呼んで分けているだけである。
綺麗にして返した荷車屋を後にし、ミクは町の奥にある大きな屋敷を目指して歩いて行く。
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