0007・町周辺の狩り事情
朝食を終えたミクは冒険者ギルドへと歩いて行く。特に気にせず周りにも
相変わらす美の女神が作り上げた美貌は怖ろしいものの様だ。魅了を振り撒いて歩く兵器かもしれない。
冒険者ギルドの建物に到着したミクは、入り口の扉を開けて中に入る。昨日見たのと同じ建物だが、中はまるで違っていた。人っ子一人居ないんじゃないかと思うほど、中はガランとして静かだ。とはいえ、朝の冒険者ギルドとはこんなものである。
基本的に狩りをして生計を立てている冒険者は、滅多な事ではギルドに近付かない。獲物を売る時に来るぐらいで、それ以外は用も無いのにギルドに居る事も無いのだ。ちなみに、ギルドに
勧誘は自分のチームやクランへの勧誘を担当している者。予備戦力はその名の通り、何か起こった際の戦力として常駐している。
この星では魔物の亜種というのが割と生まれるのだが、その理由は魔物も自然の存在であり進化するからだ。
その亜種の中には、異常なまでに強い個体が稀に生まれる事がある。それへの対処の為に予備戦力があると言ってもいい。
特にこの町は<魔境>が近く、その手前に<大森林>がある。亜種の生まれる確率は他よりも高いので、予備戦力も強い者が多い。
そんな勧誘や予備戦力をスルーし、ミクは壁に貼られている紙を読んでいく。そこには狩ってきてほしい魔物や、採取してきてほしい植物などが記載されており、それらを持ってくる代わりに金銭を得るのが冒険者である。それ以外にも……。
(あれ? あの盗賊が貼り出されてる。<死壊のグード>……間違い無い。強姦や殺人が121件? 随分と多いね。代わりに報奨金は金貨200枚か……証明出来ないし、別にいいや。それより獲物、獲物)
凶悪犯より凶悪な存在にとっては、こんなものであろう。喰われた肉になど興味は無いのだ。興味があるのは生きている、これから食べる肉の事のみ。ミクはこれから食べるであろう肉の事を調べていく。
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<ゴブリン>。緑の皮膚の人型。新人は主にコイツを狙うらしい。大して強くも無く力も弱いので簡単に倒せる。ただし性格は狡猾で残忍。それと、群れる事が多いので一体しかいない時は要注意。どこかに伏兵がいる可能性が高い。
<ネイルラビット>。これは爪で土を掘り、穴の中に住む兎らしい。新人でも狩れて高く売れるうえ、ゴブリン肉より美味しいそうだ。ゴブリンも美味しかったけどな……?。
<アーマーアント>。硬い甲殻を持つ15センチ位の蟻。背中の甲殻がラメラーアーマーの素材になるらしい。数を沢山狩らないと儲からないんだって。ただし数は多く、頭を潰せば簡単に倒せるとの事。硬いのは背中の甲殻だけみたい。
<ワイルドディアー>。たまに町近くまで来る事がある鹿の魔物。角が大きく凶悪に思われがちだが、最大の脅威は後ろ足の蹴り。横からの攻撃が推奨されている。ちなみに、町の近くでは最も高値で売れる肉。
<アースモール>。大きめのモグラ。厄介なのは地中からでも町に侵入してくる事。見つけ次第、必ず駆除するようにと大きく書かれてる。農家の天敵らしく、【気配察知】が使えるものは優先的に駆除しろと命令口調で書く程だ。嫌われ過ぎでしょ。
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町の近くは主にこういう魔物が現れるようだ。この魔物たちの中で大量に狩っても許されるのは、間違いなくアースモールだろう。ミクはアースモールにターゲットを絞り、町の外で乱獲する事に決めた。
高く売れるものを狩れば、面倒なのに絡まれる事になる。絡んできた者を喰えるなら良いが、町中や人前では食べられない。それはミクにとって極めて多大なストレスとなってしまう。なので、余計な揉め事など起こす気が無い。
冒険者ギルドの目の前にある荷車屋へ行き、中サイズの荷車を借りようと思ったのだが、一日大銅貨2枚だった。持っていない為、已む無く銀貨で払う。大銅貨18枚のお釣りを受け取り、荷車を牽いて町を出る。
木で出来た荷車をガラゴロと牽きながら、適当に【気配察知】を使ってアースモールを探す。すると、早速見つかった。ミクはその場に荷車を置き、剣帯を新しい物に取り替えてメイスとダガーを着けておく。
アースモールの直上まで来たが、高を括っているのか動く気配が無い。バレていないと思っているのだろう。ミクはその場でしゃがみ、地面に手を当てる。そして気配の通りに掌から触手を伸ばし、地面の下を真っ直ぐ突く。
「ん。殺った感触あり。おそらく気配の通り頭を貫いた筈。【落穴】で穴を掘って調べよう」
【土魔法】の【落穴】。落とし穴と言うより穴掘り魔法である。この星でも土木工事で使われており、多くの者に馴染みのある魔法であるが、コレを使えばアースモールには即座に逃げられてしまう。よって奇襲には使えない。
アースモールは臆病な魔物であり、逃げる前提で動いている事が多々ある。農家は基本的に罠を仕掛け、それでアースモールを捕獲しているのだが、罠も見破られると効かなくなるので上手くいっていない。なので冒険者に討伐依頼が来るのだ。
ミクは地面の下にいたアースモールを引っ張り出し、ナイフで首を切ったら指を突っ込む。そして吸えるだけの血を吸うと、【水魔法】の【冷却】を使い温度を下げた。
これは狩りを司る神に教わったものなので、とりあえずやっているだけの様だ。ミク自身は血ごと食べてしまうので、必要の無い処理でしかない。
アースモールを荷車に載せ、再び牽きながら歩いて行くミク。適当ながらも【気配察知】を使い、アースモールを探しては狩るのだった。
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「そろそろお昼だし、町に戻って食事にしよう」
そう言うと、ミクは町に向けて荷車を牽いていく。町の入り口まで戻ったミクは門番に登録証を見せて中に入り、そのまま冒険者ギルドまで荷車を牽いて進む。ギルドの裏まで回り、そこに居る解体担当に荷車を見せると唖然とされた。
「いやいやいやいや。農家の方はありがたいでしょうけど、コレはとんでもないですね。アースモールだけ…………31匹ですか。一度にコレだけのアースモールが運ばれてきたのは初めてですよ。しかも無駄に処理が綺麗だし……」
「無駄……? 教わった通りにしただけなんだけど……」
「誰から教わったかは知りませんけど、十分過ぎるって事です。アースモールは皮を剥いで、腐らせて肥料にするぐらいしか出来ないっていう、肉の不味い魔物なんです。ですので処理が悪くても問題無いんですよ」
「ふ~ん」
ミクは適当に聞いているが、内心では微妙な気分になっている。ミクとしては、そこまで不味い魔物では無かったからなのだが、人間種とは味覚が違うので仕方ないと諦めた。
解体所の者に「アースモール31匹」と書かれた木札を貰い、それを持ってギルドへと入る。ちなみに解体所からギルドに入る扉があるので、それを利用した。
中に入ると美味しい匂いの人が居たので、そこに木札を持って行く。昨日、警戒度を上げたというのに、チャレンジャーなミクであった。
「コレを提出するように解体所で言われたんだけど……」
「はい、確認……。アースモールだけ31匹ですか……【気配察知】が使えますね?」
「うん、使えるけど……。それが何か?」
「いえ、特に問題も何もありません。一応の確認を行っただけです。アースモール31匹で、銅貨62枚となります。大銅貨12枚と銅貨2枚です、どうぞ」
「大銅貨12枚に銅貨2枚……うん、ちゃんとある。じゃあ、これで」
特に何も無かった気もしているミクだが、【気配察知】の事を知った時に受付嬢の顔が少し変わった。その事が頭の片隅に引っ掛かっているミクだった。
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