第13話 最初の犠牲者になりそうな奴

 風鳴かざなり学院との話し合いだ。


 ロッジ竜宮りゅうぐうの広い場所に、制服姿の防人さきもりが集合。

 本当は会議室で話したいが、山奥の寒村にある民宿に望むべくもない。

 

 宿泊する部屋も無理!


 消去法で、洋風のダイニングリビングにある、大勢で座れるソファーへ。


 男女の高校生が集まり、合コンのような光景とも言えるが――


「東京のもんが、ここに何の用だ?」


 ゴツい男子が、腕組みをしたままで、脅してきた。


 本人的には、普通に聞いたのかもしれん……。


 いっぽう、俺たちを引率している相良さがら音々ねねが、毅然と答える。


「東京国武こくぶ高等学校に届いた荒神退治の依頼で、来ました」

「いらねえよ! 余所者は、とっとと帰れ!」


 息を吐いた音々は、妥協する。


「邪魔をする気はありません。今は、お互いが動きやすいよう、話し合いの場を設けていると思いますが?」


「ほー? 殊勝なこった……。じゃあ、そっちの女子2人は俺につけ! お前は勝手にしろ」


 ニヤニヤした男子が、俺たちに命令した。


 閉口した音々を見て、俺が言い返したほうがいいな、と思い――


「いい加減にしてください、水島みずしまくん……。あなたに、他校へ命令する権限はありませんよ?」


 文系のお嬢さまという感じの女子が、言い捨てた。

 風鳴学院の制服だ。


 長い黒髪で、まとめるためか、ヘアバンドも。

 海のような青色の瞳で、アンダーリムの眼鏡をかけている。


 俺たちの部屋まで呼びに来た女子。


(上にいる雰囲気だったが、実際にそうだったと)


 俺が感心していたら、その水島は苛立った様子に……。


「うるさいぞ、久世くぜ!」

「あなたも、後がないことを自覚してくださいね? 私をどうにかしても、同じことです」


 顔の上半分に影が差しているような凄味で、久世と呼ばれた女子が言い切った。


 水島は、顔を歪めたまま、反論する。


「お、俺がいなければ――」

「であれば、私たちは帰るだけ……」


 沈黙。


 すると、木のトレイを両手で持った管理人、田村たむら東助とうすけがやってきた。


「コーヒー、いかがでしょうか? サービスですよ」


 30代と思われるが、ずいぶんと達観している感じ。


 場の雰囲気が和んだ。


 久世が代表して、答える。


「ありがとうございます」


「はい」


 各自の前にあるテーブルに、コーヒーカップが置かれていく。

 個別包装のお菓子を添えつつ。


 不貞腐れた様子で、水島が立ち上がった。


「俺はいらん!」


 ドスドスと足音を響かせつつ、リビングダイニングと廊下をつなぐドアから出ていった。


 気まずい空気になり、久世がすぐ謝罪する。


「申し訳ありません。あとで、言っておきます……」

「いえいえ! 私も、学生のときにヤンチャしましたから! ハハハ」


 空気を読んだらしく、管理人は奥のキッチンへ引っ込んだ。

 

 夕飯の仕込みをしているようで、包丁とまな板がぶつかる音やグツグツという音が聞こえてくる。


 気を取り直した久世が、俺たちを見た。


「うちの水島が失礼しました……。打ち合わせを続けても?」


「は、はい! どうぞ……」


 こちらの先輩である音々は、何とか反応した。


 お互いの自己紹介を済ませ、さっそく意見交換。


 久世果歩かほは、風鳴学院の代表。

 ただし、先ほどの水島空太くうたが、荒神退治における最大戦力だそうだ。


「水島は、流水系のスキルを持っています。そのため、ここの湖……というか沼や、渓谷の中を調べさせる予定です」


 音々が、問いかける。


「相性がいいと?」


「はい! この柳ヶ淵りゅうがぶち村には天女伝説がありますが、他と比べて異質です」


 果歩の説明によれば、なぜか人魚と混ざっているそうだ。


「羽衣を奪われた天女が村で子供を作り、飢饉に苦しむ人々を救うために湖へ身を投げ、そのまま人魚になったとか……」


「溺れて死んだほうが、綺麗にまとまると思うけどな?」


 思わず、口を挟んでしまった。


 全員の視線が、俺に集まる。


 座ったままで身じろぎした果歩は、すぐにフォローする。


「そうですね……。ともあれ、その天女の自己犠牲により、村は豊作となり救われました」


 ここで、大人の男の声。


「ええ、人魚伝説とも言われています。ウチから見える湖、いえ沼がそうですね!」


 ここの管理人だ。


 どうやら、俺たちの話が聞こえたらしい。


 果歩は、管理人に尋ねる。


「田村さん? 過去にやってきた防人は、あの沼に潜りましたか?」


「いえ……。まったく整備しておらず、とても泳げる場所ではありません! 間違っても、入らないほうがいいですよ?」


 観光客の死亡事故もあった。


 それを聞いた果歩は、質問を続ける。


「どうして、湖から沼に変わったんですか? 伝承では――」

「田村さん……。あなたが犯人ですね?」


 俺の発言に、誰もが唖然とした。


 言われた本人は、口を半開き。


「謎は全て――」

 パアンッ!


 スリッパで、頭をはたかれた。


 痛みを感じつつ見れば、隣に座っている西園寺さいおんじ睦実むつみの仕業だ。


「ほんとーに、すいません! ほら、謝って!」


 ぐいぐいと頭を押さえつけられ、仕方なく謝罪。


「すみません……。つい最近に、こういうペンションに泊まる殺人事件のゲームをやっていたんで」


「ア、アハハハ! びっくりしましたよ! あそこは溜め池みたいなもので、予算と人手不足で放置した結果ですわ! せっかくの風景で人魚の住処だから、底を漁って綺麗にしてやりたいとは思っているんですけどねえ」


 動揺したのか、最後には愚痴も言いながら奥のキッチンへ戻っていく管理人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る