第12話 えっ? 同じ部屋に男子1人と女子2人?

 3台の車が、山奥のロッジの手前で泊まった。

 側面ドアが開くか、横にスライドして、ぞろぞろと出てくる。


 高校生と大学生ゆえ、平均年齢は若い。


 ここは、柳ヶ淵りゅうがぶち村で、唯一の宿泊施設。

 一足先に到着した俺は、このロッジ、竜宮りゅうぐうの主人と一緒に出迎えた。


 ため息をついた西園寺さいおんじ睦実むつみは、俺を見る。


「あのさあ……」


「情報を集めていたんだよ!」


「で?」


「ここの主人、田村たむら東助とうすけさんにも色々聞いたんだけど……」


 傍に立っていた主人は、部屋の案内で忙しいようだ。


 視線を感じて、そちらを見れば、同じ東京国武こくぶ高等学校の先輩――


「2年の風紀委員、相良さがら音々ねねだよー?」


 何か、ネット配信をしていそうなテンションだ……。


(今日もスパチャ、ありがとー!)


 心の中で突っ込みながら、冷静に返す。


「前に会った時と、だいぶ違うと思いますが」


「無断で御刀おかたなを抜いた生徒と向き合っていれば、そりゃね?」


 今にも踊りそうな、音々。


 こちらが素のようだ。


 いっぽう、睦実は無表情。


(何があった?)


 若干だけ引いたまま、預かっていた鍵を差し出す。


「これが、俺たちの部屋のだ!」


「あー、うん。荷物は持ってね?」


 睦実は、不機嫌だ。


 女子2人からスポーツバッグを受け取り、両肩が重い。


 フリーの両手を上にしてリズムよく左右に揺れる音々が、ピタリと止まった。


「ちょっと待って!? まさかと思うけど、1部屋だけ?」


「俺はここの管理人でオーナーの田村さんに頼み、外の倉庫みたいな建物に――」

「い、いやいや! そこまでは言っていないよ?」


 驚いたように、音々が両手を前にした。


「そもそも、ここは……。んんっ! 1人で寝ていたら、襲ってくれと……」


 彼女は、心配そうな顔。


 まあ、過去に防人さきもりが犠牲になったようだし。


 息を吐いた音々は、言い直す。


「それで君が死ぬか再起不能になったら、私は立ち直れないと思う! えっと、西園寺さんは?」


「ボク、駿矢しゅんやに全部見られているんで……」


「そっかあ! じゃ、問題は……はぁあああああっ!?」


 忙しい先輩だ。


 そう思いつつ、訂正する。


「こいつが風呂に乱入しただけなんで――」

「乱交!?」


「乱入です……。というか、そろそろ部屋に行きませんか? 荷物が重い」



 ――国武の部屋


 外観はロッジだが、内装は洋風。

 けっこう金をつぎ込んでいるらしく、古さを感じるものの、チープ感はない。


 ツインで、2つのベッド。

 よく見れば、ソファーと兼用の補助ベッドもあるようだ。


 ベランダに出れば、狭いながらも、ゆっくり寝られる野外用のベッドや、丸テーブルと椅子。


 開けたところのフローリングに、両肩のスポーツバッグを下ろした。

 自分で背負っているデイパックも。


「相良先輩?」


 ビクッとした音々は、俺のほうを見た。


「な、何? 君たちが仲いいのは、分かったけど。い、今は危険な状況だから!」


「ホラー映画のお約束になる気はありませんよ?」

「だいたい、リア充の男女がパンパンしている時に、第一の犠牲者だよね」


 睦実が、生々しい表現で同意した。


 顔を引きつらせた音々に、話しかける。


「俺は、隣の佐木霜さぎしも村にいたんですけど」


「う、うん!」


「とりあえず、情報を共有しましょう」



 ――30分後


「天女伝説を追いますか……。銀山の遊女は考えない方向で」


 俺の提案に、女子2人が頷いた。


「どうせ、この村の先祖が昔の防人を手籠めにしたんだよ」

「うーん? まあ、その人が原因っぽいけど」


 今日の睦実さんは、妙にすさんでいらっしゃる。


 要点をハッキリさせよう。


「その防人が荒神になっているのなら、どうせ出現します。問題は、地元の風鳴かざなり学院における過去の犠牲者です。そちらとは?」


 見るからに動揺した音々は、笑い出した。


「アハハ……。まだ!」


「いや、来る途中で話ぐらいは――」

「先輩が『大学生を彼氏にしたいから!』と、そっちの車を選んだ」


「言ってないよ!? 勝手に、話を作らないでー!」


 焦った音々が叫んだ。


「風鳴を押さえないと、襲ってくるかもしれん」

「今から話す?」


「もしもーし? 先輩で代表の私を無視して、進めないでー?」


「ここの連中は?」

「ひとまず、疑わない! 俺たちに腹芸は、無理だ」

「私を含めないで!」


 睦実は、頷いた。


「ラン&ガン?」

「ああ! 剣的必殺でいくぞ! 村ごと消してもいい」

「良くないよ!?」


 ツッコミ役になった音々に、説明する。


「先輩? ここは、防人がどんどん犠牲になっている場所です。地形を変えるぐらいでやらないと、逆にやられますよ?」


「まあ、地形ごとは誇張しすぎだけど――」

「ボクと駿矢なら、できるよ?」


 精神が不安定になった音々は、笑う。


「ま、またまたー! アハハハハ!」


「じゃ、風鳴の部屋に行くか?」

「中途半端すぎるし、食事のときにしない?」


「ごめん、無視しないで?」


 ガチトーンになった音々が、突っ込んできた。


 その時に、コンコンコンと、ノック音。


『風鳴学院です……。いきなり押しかけて、申し訳ありません。できれば、今後の方針について話し合いたいのですが?』


 1つだけ言えるのは、向こうの代表のほうが優秀ということだ。

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