第9話 御神刀だけに何があってもおかしくない

 生徒会室で、全員が悩ましい顔に。


 伊花いばな鈴音すずねが、周りを見た。


「まず、氷室ひむろくんが強いことは証明されたわ! そこに意見はある?」


 反論はない。


 惨敗した風紀委員の藤林ふじばやし信二しんじは、うつむいたままだ。


 生徒会長の鈴音が、ゆっくりと話しかける。


「藤林くん? 彼と戦って、どんな感じだった? あなたが手加減した様子はなかったと思うけど」


 顔を上げた信二が、自信なさげに話す。


「はい……。僕は、全力で戦いました」


 誰もが注目する中で、再び発言する。


「正式に剣術を習った感じではなく、攻撃を防ぐスタイルでしたね……。最後に斬られたのは、油断した結果です! おそらく、最初から狙っていました」


 悔やむ信二に対して、鈴音は自分の感想を述べる。


「確かに、藤林くんが慎重に戦っていたら勝敗は不明だったかも……。ただね? どうにも、引っかかるのよ!」


 座ったままで腕組みの鈴音。


 それを見た風紀委員長の櫛田くしだ悠史ゆうしも、同意する。


「俺もだ! 藤林は、決して弱くない。それに、風紀委員の顔も知らん奴が、刀剣解放のスキルを事前に知っていたとは思えん」


 困惑した本人が、尋ねる。


「風紀委員長、それはどういう意味ですか?」


「対応できるはずがない。特に、初見では……」


 首肯した鈴音も、続く。


「ええ! それよ、それ! 私が言いたかったのは、氷室くんは刀身が伸びるだけの御神刀で仮に予想できても間に合わないってこと!」


「藤林? お前は上段からの攻撃がダメでも、次の手を考えていたよな?」


「え、ええ……。まあ……」


 風紀委員長の悠史に、信二が答えた。


 鈴音が、氷室駿矢しゅんやの秘密を探る。


「まさかとは思うけど……。あの御神刀って、2つ以上のスキルがあるの?」


「否定しないが、前例に乏しい」


 御神刀ならば、ダブルスキルもあるか?


 全員が思う。


 けれど、本人に聞くのは躊躇われるし、もう1人の西園寺さいおんじ睦実むつみに釘を刺されたばかり。


 まさか、その御神刀を貸して? とは言えない。


 お手上げの鈴音が、呟く。


「うーん? 櫛田くんの発言に従えば……。藤林くんが負けるような原因が……。たとえば、認識阻害とか?」


 生徒会室の雰囲気が変わった。


 風紀委員長の悠史は、同意する。


「あるかもしれんな?」


「しかし、僕は別に……。刃を交えた分には、異常は見られませんでした!」


 実際に戦った信二が、反論した。


 驚いた鈴音は、彼を見る。


「意外ね?」


「正しい情報を伝えただけです」


 この場で中立になっている神宮寺じんぐうじのぞみが、発言する。


「デバフ系で五感や精神に作用する効果であれば、話さないのは当然ですね? しかしながら、周りには私たちがいて、そこまで誤認させるのは不可能かと」


 風紀委員長は、考え込む。


「俺も、異常は感じなかった……。そこまで錯覚させるのなら、まさに神の領域だな? 西園寺の御神刀は、雷のようなスピードで分かりやすかったが」


 生徒会長の鈴音が、話題を変える。


「キリがないわね? 神宮寺さんが提案したように、あの2人にペナルティのお役目を与えましょう!」


 手元に置いたタブレットを触り、東京国武こくぶ高等学校に届いた依頼を見ていく。


「けっこう、溜まっているわね?」

「別に、義務ではないからな……」


 他の面々も、自分のタブレットで連動。


「天女……。え? どうして、人魚!?」


 鈴音の叫びに、全員が詳細データを見る。


「天女伝説は、珍しくありませんが……」

「海がない山奥で、人魚とは」


「この手のふちがある場所って、だいたい厄ネタですよね?」


 風紀委員長が、まとめる。


「氷室の御神刀が精神系であれば、相性がいいか? 西園寺も御神刀だ。2人を派遣して、様子を見させれば……」


 鈴音が応じる。


「ええ! 彼らの実力も分かるでしょう! ただ、それだけでは……」


 頷いた風紀委員長は、注意点を述べる。


「御神刀のスキルを見極める人物がいない。それに、あいつらは入ったばかりの新入生だ。犠牲者が多い現場へ泊りがけで派遣するのは……。相良さがら! 一緒に行けるか?」


 リラックスしていた、2年の風紀委員。


 相良音々ねねは、ギョッとした。


「は、はい?」


「西園寺とコンビを組み、氷室を支援してくれ! あいつらは、風紀委員会に良い印象を持っていないだろう。人当たりのいい相良が、適任だ」


 刀を握るとは思えない指で首筋をさする音々。


「そうですね……。せめて、男子をもう1人」


 首を横に振った風紀委員長が、理由を述べる。


「残念だが、それは無理だ! 氷室と組めるのは藤林ぐらいで、たった今、やりあったばかり……。他の男子にしても、むしろギクシャクするだろう」


 息を吐いた音々は、しぶしぶ同意する。


「分かりました……。ウチの引率者として、現地へ出向きまーす! 逃げ帰ってきても、文句は言わないでくださいよ?」


「現地の学校からも、防人さきもりを出しているようだ。慎重にな?」


 タブレットを触っていた鈴音が、叫ぶ。


「犠牲者は……あら!? 定期的に出しているわりに、長引いているのね?」


 眉をひそめた風紀委員長が、危惧する。


「被害を握り潰している可能性があるな? ともあれ、知ったからにはウチも調査するべきか」

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