第8話 刀剣解放による真剣勝負

 御刀おかたなは、それぞれの魂の形。

 解放すれば、授業で習ったように特殊スキルを使えるのだ。


 俺が不良5人の刀を叩き折ったことから、解放の前後でまったく別物と分かる。


 刀剣解放で分かりやすいのが、炎や氷を出すタイプ。

 見た目も派手で、人気が高い。


 次に、バフ系。

 RPGでいう、自分のスピードや力を増幅する!

 見た目が変わらないことが多く、駆け引きが上手い奴が使えば、前述の魔法タイプよりも怖い。


 それから、デバフ系。

 相手のステータスを下げるか、混乱させるのだが……。


 正々堂々と戦う剣道の名残か、どうにも卑怯である! と見なされやすい。

 絶対にダメだ、とまでは言わないが、一段低い感じ。


 刀の形状が変わるタイプ。

 これも一定数あって、リーチが短い刀身と比べて、有利になる。


 俺はこちらに分類されるが、元々が短く、刀身の長さが普通になるだけ。

 ハズレと思えてならない。

 せめて、刀が十振りぐらいは伸びてくれ!


 最後に、封印されている式神を使うタイプを挙げよう。


 これは大物の妖怪が多く、強い式神とのタッグ戦にもできる。

 ただし、逆に支配されるか狂うことが目立ち、生半可な人間は触ることすら難しい。


 まあ、式神タイプは判明した時点で、防人さきもりを統括している国土守護府の管理下に置かれるが……。


 幼馴染の西園寺さいおんじ睦実むつみが持っている御神刀、千雷せんらいは、スピード強化のバフ系。

 物理的な電撃にもなるようで、それは相手を痺れさせるデバフとしても。


(人気があるタイプを一通りカバーしていて、羨ましい限りだ)


 そう思いつつ、通常の長さにした御神刀、平凪ひらなぎを両手で構えた。


 今は剣道着のような和装で、制服の対戦相手を見る。


 同じく、正眼に構えたまま。


(相手がどのタイプか、だよなあ……)


 と思っていたら、藤林ふじばやし信二しんじが動いた。


「つぁあああっ!」


 相手の切っ先を受け流す。


 先輩の顔を立てる意味を込めて、しばらく防御に徹していた。


(セオリー通りの剣術……。スキルを使っている様子はない)


 風紀委員としての矜持きょうじか、新入生ごときに卑怯な手を使う必要はないと思っているのか。


 手の内を知りたいことで、俺は挑発する。


「先輩? スキルを使ってもらって、構わないですよ?」


 摺り足で視界の外へ回り込む相手に、円を描くように向き合い続ける。


 苛立たしげな信二は、立ち止まった。


 両手で握る刀を立てて、頭の右側に寄せる。

 左足は前。


 八相の構えだ。

 

(やる気だな……)


 ここは、結界の中。

 現実とは違う空間だ。


 そもそも、正眼の構えは剣術として不向き。


 攻撃に移らなければ、睨み合いのままで力尽きる。



 ◇



 西園寺睦実は、結界の外で、生徒会メンバーと一緒にいた。


 近くに立つ生徒会長がチラチラと様子をうかがっているのが、鬱陶しい。


 それをあえて無視した睦実は、防御を優先した剣戟から、いよいよ決着がつく雰囲気の2人を見た。


 次の瞬間に、藤林信二の姿が消えた。

 残像だけ残る。


 よく見れば、いきなり加速したことが分かる。


(あの先輩は、バフ系のスピード強化か……。ボクを避けるはずだ)


 まさに雷である自分と比べて、明らかに劣る。

 戦えば、信二は手も足も出なかっただろう。


 けれど、彼が安牌あんぱいと思った氷室ひむろ駿矢しゅんやは――


 高速道路の車を思わせる信二が上段から振り下ろした横をすり抜けつつ、胴をいだことで決着した。


「な゛っ!?」


 真剣のため、信二の脇腹から横に広がった傷口は深い。

 刀を振り下ろした直後に、そのまま膝をつく。


 すれ違った駿矢が、血を振り払いつつ、くるりと後ろを向いた。


 けれど、痛みとショックで力尽きた信二が刀を手放しつつ、床に倒れ伏す。


「それまで!」


 風紀委員長の櫛田くしだ悠史ゆうしが宣言した。


 結界の中がリセットされ、絶命したはずの信二は起き上がる。


 信じられない、という様子だ。


 いっぽう、片手で血振りをした駿矢も、納刀により制服姿へ戻る。



 首をひねった生徒会長、伊花いばな鈴音すずねは、睦実に尋ねる。


「い、今……。藤林くんにカウンターをしたの?」


「そうじゃないですか?」


 睦実の返事に、鈴音は納得しない。


「でも、氷室くんの御神刀って、刀身が伸びるだけじゃ――」

「会長? 刀剣解放のスキルを問い詰めるのは、良くないと思いますけど」


 やんわりした拒絶に、ハッと我に返る鈴音。


「そ、そうね! ごめんなさい……」



 惨敗した藤林信二は、ショックを隠し切れないまま。


 それに対して、形だけの礼を済ませた駿矢は、立ち会った風紀委員長に尋ねる。


「じゃ、俺たちは帰っていいすか?」


「……そうだな。ご苦労だった」


 生徒会長のほうを見た後で、風紀委員長は同意した。


 近づいてきた駿矢に、睦実は嬉しそうに応じる。


 彼女も社交辞令の別れを告げた後に、武道場から出ていった。



 残された生徒会と風紀委員会の面々は、かなり気まずい。


 その空気を振り払うように、パンッと手を叩いた生徒会長。


「え、えっと……。これ、忘れないうちに話し合ったほうがいいわね!」


 呆然自失の信二を連れて、一同は生徒会室へ戻った。

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