地下鉄共通1日券と東京メトロ
ビルに入っても異音は引き続き耳の奥に響き渡る。しかも先程より音が大きくなっている気がした。ただ明らかに「音がしない方向」も存在しているのが分かった。罠に囚われた魚や動物が、行く方向を仕組まれているように。それに抗えず私達は走り続ける。
施設に入り再びエスカレーターを降りる。するとコンコースのような広場のある階にたどり着き、その後行く先に突き当たりが現れる。左から例の嫌な音がかなりの音量で聞こえてくる。迷わず右に曲がりそのまま真っすぐ走った。そして突き当たりにあるとある青色の銀行のATM郡を右折、すぐ左手にある階段を降りるとそこには東京メトロの改札が存在する。だがそこからも「猫よけ」よりもずっと高い音が聞こえて私達に侵入を許さない。仕方なく右に曲がり、私は再び真っすぐ走った。
先にあるのは都営地下鉄三田線の改札だ。幸にもそこから音はしない。なんなら寧ろそこに入れと指示をさせるかのように、私達は改札の方に導かれる。
「よし…いくよ!!」
私は二人を引き連れるように先頭で改札を通った。その時、後方で突然ドン!という大きな音がした。振り返るとそこには見たことのない生物…。簡素に記すなら「ツチノコの形をした黒い大きな生き物」が先程の「東京メトロの改札」から、こちらにむかって突進してきていた。
「は、はやく!!」
理由が全くわからないが、とにかく奈緒とケイゴにこっち側に来るように促す。
「ピッ」
「ピンポーン」
一人の交通系ICカードの「残高不足」を知らせる音が自動改札機から聞こえる。
私は共通1日券を2人とも買っていると思っていた。そういう約束だったから。3人の決めた事だったから。だが奈緒とケイゴは「東京メトロ」の24時間乗車券を購入しており、かつ奈緒のICカードには残高が0円で、彼女は改札を通過できなかったのだ。
「どうしたの?!」
となりにいるケイゴに問いかける。
「明日夢が冷めたら二人で出かけようと思って、美鈴には言わずに明日も使える東京メトロの24時間券を買っちゃってたんだ。チャージしておくように言っておいたんだけど…」
バツが悪そうにケイゴが小さい声で話す。
「ドドドドドトド」
けたたましく黒いツチノコが自動販売機などを壊しながら、依然としてこっちに向かってきている。
奈緒が困っているのをみてケイゴはすかさず改札の外に戻った。普通なら、同じ駅の改札から同じICカードをかざすだけでは改札外に出ることは出来ない筈なのだが、こちらの世界ではそれは可能らしい。
私はケイゴを止めなかった。友人が黒い何かに押しつぶされるかもしれないのに、だ。
それ以上に「自業自得じゃないか」という嫌な人間心が、それを超越して私を支配した。
「もういいか…なんでも…」
二人がなにかこっちに言っている気がしたが、黒目の面積が増えた私の耳には何も聞こえなかった。そのまま私は三田線のホームの方にゆっくり走り始めた。自分でもわからない「不透明な涙」を流しながら。
後ろで二人の気配が消えた。
私はどうしようもない白状者だ。
泣きながらそう思った。
目を瞑って思いっきりその涙をハンカチで拭った。
そしてそのままの流れで目を開けると、私はまた身に覚えなく、見たことのない光景が広がる場所に「瞬間移動」していた。
とある空間。左右の壁からは清流の如く綺麗な水が流れこみ、その先では小さな池の様に水が湖面を張っている。そんな湖面の真ん中あたりに、大人1人が大の字に寝そべれるくらいのスペースがある浮島と、それと向かい合う形で「王様の椅子」のようなものが置かれた陸地が存在していた。
当初は遠くからそれを目にしていた私だが、瞬き一回毎に浮島のほうに少しずつ近づいていった。そして最後の瞬きで浮島に乗った時、向かいを見るとそこには先程の黒い大きなツチノコが「でん!」と蛇がとぐろを巻くかのように「鎮座」してこちらを見ている。
そしてこの後、例の試験についての事とツチノコ達の人間に対する要望が、人間代表とされた「私」に伝えられることになる。
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