最後の夢
薄暗い地下道の中、側溝に流れる雨水の音が少し黒ずんだコンクリートの壁に反響し、時にピチャピチャと響き渡っている。ここは幾つもの改札が点在する大手町の地下通路。突如として私達は大自然であった「オーテモリ」から此処に「ワープ」してきていた。
「私とお話してくれるんだよね」と目を瞑りながら何かに問いかける。それを見た奈緒とケイゴは「恐らく」不思議そうな顔をしながらこっちを見ていた。
すると…「その覚悟が本当にあるのかどうか、確かめさせてもらう」と、例の声の主がそう言い放った。それと同時に、今度は台風中継さながらの強風が私達の正面から吹き荒れる。
「ダメだ、飛ばされる…」
そう感じて全力で踏ん張るために思いっきり目を閉じ歯を食いしばる。その直後、不思議な事に聞こえていた強風による轟音や二人の叫び声などが消え、静寂に近い爽やかな空気が辺りを包んだ。その一変っぷりに違和感を覚え、目を開けるのを少し躊躇しつつも「怖いもの見たさ」という人間の性のもと目蓋をひらく。
そこにあったのは、床に受けた朝日の明かりをもっともっと洗練して、写し広げる寝室の天井であった。何を試されるかは全く見当がつかない。それでもただ1つ、私は悟った。「次の夢が最後だ」と。
目覚めた3人には「総意」があった。それは今の私達のソワソワ感では、仕事のない週末まで待つことは絶対に出来ないし、それまでに何が起きるかも分らない。それならば今日は仕事を休んでまでも、お昼頃には地下鉄の1日券を買って集まりたい!というものだ。夢の中では常に「翻弄」された状態での会話になってしまうし、恐らく会社で3人が全員顔を合わせれない事だってある。冷静に話すために一回リアル世界の方でもゆっくり顔を合わせたい。
口裏合わせをしていないのに、ここまで通じあえている事が純粋に嬉しく「人間関係もわるくないな」と、少し思えた。その反面、二人の恋愛関係が「気になって」もいた。そういえばあの後、進展はあったのだろうか…。
隠すことでも無いしむしろ話すべきだと思ったので、先程の夢の中で何があったのかと、地下通路で私が「何」と話していたのかを2人に打ち明ける事にした。
私が感じていた「ソワソワ」と2人が感じていた「ソワソワ」は少し違った。2人は私が思っていたよりも、その事をとても怖がった。
「ちょっと落ち着きたいから、会うのを夕方からにしてもいい?」
奈緒が泣きそうな声で私達に提案する。
私的にそれは全然構わなかった。そういえば銀行などに行きたかった事もふと思い出して「地下鉄共通1日券」を購入して先に一人で大手町周辺に「乗り込み」がてら「街ブラ」をするのも有りだなとも思った。
ただ同時に、個人的にはもう何が起きても驚けないという覚悟も持っていた。
だからよくある「明日死ぬなら今日何食べる?」的な質問が頭にモヤっと浮かぶ。
「これが最後の晩餐ってやつか…。でも文字にするなら(仮)だな」などと、割と「ポップ」な思考回路を私は無意識に張り巡らせる。
万が一は無いと思うが、貯金用の銀行口座のキャッシュカードと暗証番号を書いたメモを、大事な書類等をしまうと決めている引き出しにいれた。用心深い我々家族には、「私に何かあったらココを開けてくれ」と既に前から言ってある。流石に何も無いと思いたい。だからこその反動が先程の「ポップな思考」を生み出しているのかもしれない。
「目をつむるのではなく逆方向に向かうような感覚か」と、地下鉄の共通1日乗車券を自動券売機で購入しながら、私は独り考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます