対話
私は二人の生存を確認した。特に大きな異常はなく奈緒もケイゴも直ぐに意識を取り戻し、私達は再会を喜んだ。
「二人とも!!心配してたんだよ!!」
「美鈴こそ急に居なくなるんだもん!でも無事で良かった」
「…ごめんね」
「大丈夫!」
数回しかない会話のラリーの中に、時間を重ねて培った沢山の優しさと友情が詰まっていてとても心地が良い。その柔らかさは何というか…例えるならば、日本料理でいうところの「ダシ」のようなものであったと思う。日本独特の概念とも言われている「旨味=umami」は、主に出汁を取るという文化があるからこそ存在していると思う。時には第六の味覚とも呼ばれ日本食のクオリティを底上げしてくれる存在だ。いわばそれは、じっくり煮出して抽出された魚・肉・野菜が与えてくれる幸せの贈り物でもあると思う。そんな一口だけでも感じることができる「良質なダシ」のような奥深さを、数回の会話のスープの中から汲み取ることが出来た今の瞬間、私はこの「関係」に対し、とんでもない幸せを感じたのだった。
「ここは…」
「多分夢の中にあるオーテモリの更に奥。きっとツチノコの世界だと思う」
自分でも驚いた。無意識に口をついて出た「オーテモリの奥にあるツチノコの世界」なんて、そんな言葉を発したことも無ければ、ここがそうだなんてこの一瞬までに微塵も思ったことすら無かったから。
「少し、歩いてみよう」
「そうだね」
腰を上げようとした時だった。
「お前は独りでいい」
「私達の仲間を…。お前らだけ仲間と幸せなんか許さない」
「独りになる覚悟をしろ」
「対話を要求する」
「仲間と来るならば命はないと思え」
「我々と同じ苦しみを味わえ」
「お前との対話を望んでいる」
何故かあの子供の声がした。それも上記の様な言葉達を重複させながら訴えかけてくる。その優しそうな「か細い」声と、言っている内容に明と暗の差がありすぎて私の頭は混乱し、何が何だか理解が追いつかない。次第に全身の力が抜け、頭の重さとそれを引く重力に体を任せるように、私は草むらの上に顔面から倒れ込んだ。
「美鈴!?どうしたの」
「大丈夫か?美鈴!」
意識はあったが自分自身の怪我なんかよりも、二人にはその声が聞こえていない様子の方が私は気になってしょうがなかった。
「なんで私だけなんだろう…。それになんでこんな酷いことを言うんだろう…」と。
人間は少なからず何かに依存して生きていると思う。それは人かもしれないし、物かもしれない。はたまた音楽のような形の無い「事」の場合だって有るかもしれない。その一種の執着にも似た思いを示してる「もの」や「こと」を失った時に襲ってくる絶望が、私は心底苦手で嫌いだ。だからこそある程度自ら「心を閉ざす」ことで興味を減らし、失うなら最初から手にしないという対処を講じて生きてきた。だからこそ、その「失った時」にしか顔を出さない哀しい感情の冷たさと怖さに対し、私は人一倍敏感であり、出来ればそれには今後一切触れることなく息絶えたいと思っている。そしてどうやらこの「捻くれた」「閉ざした」人間心を持つ私をピックアップし、欲している生物がいるようなのだ。
「お話をして解決するなら私が協力するよ」
そう呟くと、舞台の場面転換が如く周りが一瞬で暗闇に包まれた。その約1秒後、辺りの景色がガラリと一変する。
「大手町…?」
東京駅にも通づる、大手町周辺に広がる巨大な地下通路。私達3人は突如としてそこに放り込まれていたのだった。
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