トラウマ
その1時間後、私達はツチノコミステリーにて「定期報告会」を開いた。奈緒がケイゴに好意を抱いている事を知った上で二人の会話を聞いてみると、なんとぎこちない事か。いやそれは良いのだ。いくら奈緒が気を使って喋っていようが、私に対するレスポンスとケイゴに対するレスポンスの質が違かろうが。そうではなく、なぜかお気楽にも感じてしまう二人のテンション感に私は少し苛立っていた。
確かに現実離れ過ぎる体験であったが故に、実感が沸かないのも納得はいく。ただやはりこれに関して「昔から感じている何か」が私の心に突っかかり、心にモヤをかけているのを感じずにはいられなかった。
私は学生時代から協調性に欠けていたと思う。その理由は私自身が一番分かっている。それは「失う」のが怖いからであると。
同級生の意見や友達の考えに対し「嫌なことは嫌」「間違っていることは間違っている」とハッキリと伝える性格だったが故に、割と一匹狼的扱いを受けたりもした。その結果友人関係がしっかり構築される前に破綻したり、仲が良くなっても急に親しい人が近くから居なくなったり、ということが頻繁に起きる時期があった。それがトラウマになったのか、いつからか私は「失うくらいなら最初からいらない」というスタンスを取るようになったのだ。それ以降対人関係において閉所から出ることなく、学生時代の後半を過ごした。それでも社会人になり多少大人になった私は、自分は変わったと信じ、変われたのだと自負してきた。だからこそ二人との関係も深くなってきたと思っていたのだけれど…。
それが先述のモチベーションの差異の件によって、自分の負の部分が変わっていないという現実を突きつけられた様で、とても苦しくなってしまい突然涙がこぼれ落ちた。
「美鈴!?どうしたの?…怖いよね」
違う、違うの。二人の心と私の心が離れていくのを如実に感じた。そして先程とは違い、親しい同僚の恋をすんなり応援できない自分も顔を覗かせた。自らの「器の小ささ」に腹だたしくなり、更に私の気持ちは収集がつかなくなってしまった。そうして私のマインドは再び殻にこもり始めた。二人に睡眠の事を言うこともなく。
「もうどうにでもなればいいか…」
次の報告の時間をスルーした私は「導かれる」ように睡魔に身を委ねた。そして「予想通り」再び異次元に旅立つ。
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