のめり込む私

子どもの頃見ていた漫画やアニメにあるような、異空間の世界線が確実にある。あの時見た「人間の首を狩るツチノコであろう生物達」による残酷かつ残虐な行為は、言いようの無い程に恐怖であり、おどろおどろしくあった。でもそれと同じくらいワクワクのような「冒険心」をくすぐられる感覚を、私は覚えずにはいられなかった。夢を見たなんていう生半可な感覚ではない。明らかに私達は「体感」したのだ。


そして私は何故か確信していた。今回のループを体験し、世界は現世と合わせ「3つ」あるということを。1つは現在いる「現実」。2つ目はツチノコの願う平和な緑の世界。もう一つは人間に対して「共存」すら許すことのない、2とは真逆に位置するであろう地獄のような世界。


夢という言葉の意味をぼんやり考える。普段から何気なく口にしているが、「同音異義語」の代表的な言葉だ。


将来の「夢」は理想の最果て。

睡眠時に見る「夢」は空想の最深部。


グループ通話の最中も私は一人考えていた。「向こう」の世界との境界線と、その行き来の仕方も含め「夢」が関係しているのではないかと。ここで私はふと奈緒に質問を投げかける。


美「奈緒さっき言ってたけど、二人で電車に乗った時居眠りとかした記憶ある?」

奈「え、よくわかったね。ケイゴと会ってから安心して横で寝ちゃったんだよ。そしたらこっちに戻ってきてた」

美「ケイゴのその後は?」

ケ「俺も多分寝ちゃったんだと思う。ただ奈緒が寝たのは覚えてるんだけど、その時点でウトウトしてたからあんまり記憶にないんだよね」


これで「空間移動」の手段が、私の中でほぼ一つに絞られた。それはきっと手軽に夢と繋がれる行為…そう「睡眠」である。ただこれが1つの確信に変わり思いを巡らせる中で、ある種「ウキウキ」するのと同じくらいの不安が、この時の私を襲った。睡眠が空間の移動手段だとしたら、入眠するたびに向こうに放り込まれるのではないか、と思ったからである。眠りにつく度に悪夢のようなものを必然的に見なければならない。そしてそれは現実にもリンクしていて、肉体的な危機感を体で覚える「体験」もしている。


寝るたびに襲ってくる恐怖体験なんて、人間にとってはシンプルかつ非常に残酷で、それはもう耐え難い拷問に近い。そして「その残酷な拷問くらい」は軽率に超えて来るくらいの「念」を、一連の事で感じざるを得ない、というのも私の気分を暗く悪くした。何にしたって眠くなるのだ。避けようがないではないか。私は怖くて二人に言えなかった。実際まだ予想の段階ではあるし、必要以上に奈緒とケイゴを心配させたくはない。


各人が少し落ち着いたので、前回の教訓を生かし「日中は1時間おきにグループ通話をする」ことに決めてから通話を切った。


数分後、個人で奈緒から着信があり私は電話をとった。すこし気を紛らわせるためにくだらない事を話した後、突然に奈緒は言った。

「こんな時にごめん!ちょっと相談があって。実はケイゴの事少し気になってるんだ…」と。


少し淋かった。それは奈緒の恋心に、とかではなく「ツチノコミステリー」に対する真剣度の違いを感じたから、だと思う。


応援してあげたいし、シンプルに嬉しかった。でも…。この後、私はこのちょっとしたモチベーションのズレにも翻弄されるのだろう。そう思うと何だか更に身構えてしまい、お腹が痛くなってくる気がした。




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