パラレルワールド

「やっぱり3人とも同じ夢を…」

奈緒から連絡があり、彼女もまた「あの悪夢」を見ていたとの報を受けた。直ぐに3人のグループトーク「東京ツチノコミステリー」の通話機能を立ち上げて話す。


これで3人とも同じ世界線にいることは分かった。だがそれぞれ自宅のベッドの上におり、今すぐ合流したい気持ちは山々たが、そうする事も出来ない現状である。そして勿論の事、あんな血みどろの光景を見せられたあとに、とてもじゃないが外になんか怖くて出れるわけがない。そんな中、可愛い系男子代表?の勇敢なるケイゴが先陣を切って「二人を迎えに行く」と言い出す。それは普段からナヨナヨしている彼を見ている私達でも、流石に内心では「カッコいい」と思うくらいの威勢であった。


と、ここで線路沿いに住んでいる奈緒が、とある音がしている事に気づく。

「なんかさ、、、貨物が走ってる音がするんだけど…」

人の気配と物音が全くしないことから、ある意味この「パラレルワールド」には3人しかいないと決めつけていた私達は、奈緒が聞いた「貨物列車の走行音」に総じて驚いた。そしてここで、何をするにも1人では心もとな過ぎるという理由から、3人はともかく一旦合流するために、とある計画を立てる。


その案をざっくり説明する。私達の務める銀行の支店は実は恵比寿にあり、それぞれ住んでいる街まで電車で30分程度だ。その反面、個々の自宅間は50分〜60分程度を要するという事実もある。なのでケイゴだけを長時間外出させることになる先述の「お迎え案」は危険過ぎるとし却下。そしてその後、採用となったのは、電車が動いている事を確認した上で朝7時に職場の前に集合するというものである。流石に私たちも大人であるし、そこは普段からケイゴに対し、強めの発言をしている「美鈴と奈緒」の、謎のプライドが発揮された結果だったのかもしれない。


現在時刻は午前3時。できる限りの装備や準備をしてその時間に外出すると決め、グループ通話を切りそれぞれの準備の時間に充てる事とした。だが結果としてこれが一つの分岐点となってしまう。割と精神面で自立している私達は、誰かが必要以上に怖がることもせず、何気なくグループ通話を切った。

そう、これによってそれぞれの行動が、各々に分からなくなってしまったのだ。


ひとまず私は、災害対策として自宅に準備していた被災用のリュックの中から救急用グッズや非常食を取り出したり、懐中電灯やヘルメットを用意したりと支度を進めた。そして何故か律儀にも交通系ICカードが、財布に入っているのかも確認した後、5時頃に再びベッドに戻ってグループトークを開く。


「みんな準備は進んでる?」

「進んでるよ!」

「私も!」


準備の進行状況と二人の生存確認を済ませて安心してしまった私は、不覚にもベッドの上に仰向けになり寝転んでしまう。そしてそのまま眠りに入ってしまった。


「はっ!!」

目蓋を開けるとそこにはオーテモリに生きる木々が風でなびく光景が広がっていた。それは「戦慄の中目黒」とは真逆、マイナスイオンたっぷりの健やかな場面だ。いまから生物の種を増やし、成長していくであろうオーテモリ。その力強さを感じ私は涙した。


あぁ、また夢をみているのだろうか…。と思ったが束の間。ぼやっとした意識から現実に引き戻され、朝9時の斜陽と小鳥のさえずり等が私の五感を刺激した。そして外ではゴミ収集車のエンジン音とそこにゴミを投げ入れている、区の方々の「ぶっきらぼう」な掛け声が聞こえる。


「あ、あれ?!」

ポカンとしてしまった私のスマホが鳴る。


「ケイゴと奈緒か」

と思いスマホを見ると、なんと職場からの入電だった。


「もしもし?何かあったのか?お前たち同期三人共々職場に来ていないが」


全く状況が飲み込めない私は分かりやすくスマホを手から滑り落とし、只々座り尽くすしか無かった。

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