悪夢
「助けて…」
前回見た夢の中で最後に聞こえた「子どもの声」が響き渡るところから、夢の続きが始まった。私は今回もやけに俯瞰してこの夢に中にいる。
「奈緒とケイゴも同じ夢を見てるんだろうな」
それくらいのことを考えれる程に。
今回の夢は私達の予想通り、この前と同じく「縁のある駅」の光景から始まった。ただ前回と明らかに違うことが幾つかある。まず街に人がいるということ。そしてその街が、廃墟ではなく空虚でもないという事である。それは極論を言えば寧ろ真逆で、私の今回の夢に広がる中目黒には人が「溢れて」いる。以前見た目黒川沿いに咲く満開の桜を目当てに来た人々が沢山いた時のように。とても楽しそうな時間の流れと幸せそうな人々の笑顔が、それを見ている私を包む。だが何故か「包み込まれても」幸福感のそれがこちらに移ることは決してなかった。それは表の綺麗さの中にある、得体も知れない「絶望」を感じていたからなのかもしれない。
当初はそれが何なのかは分からなかったが、しばらく先ほどの光景を見ていると、とある変化に気づく。鎌のようなものを持った蛇にも似た不思議な生き物達が、人々の首付近を漂い始めた。またそれをしばらくぼーっと見ていると、先程までの騒々しさから一転、急に辺りを静寂が支配する。
「やめて!!」
そして私は何故か無意識に叫ぶ。次の瞬間だった。その生き物たちが手に持つ鎌を容赦なく一斉に振りかざし、辺り一面が首の無くなった胴体が点在する、真っ赤な血の海と化していったのだ。それは本物の海のようにうねりながら、私を無慈悲にも飲み込もうとする。あまりの「悪夢っぷり」に冷や汗を飛び散らせるぐらいの勢いで、私は慌てて飛び起きた。そしてとっさに2人からの連絡が無いかを確認するため、スマホに目をやる。が、連絡は来ていない。もっといえば来る気配すら無いようにも感じる。そしてそれはとある二文字を目にすることで確信に変わる。
「圏…外…?!」
私の家は使っている携帯会社の基地局から割と近いらしく、ココ数年で圏外になったことは一度も無かった。だからこその確信と絶望が私を突き刺す。その後、数分間放心状態に陥るも、深呼吸を重ねて少し我を取り戻した私は恐る恐る外の光景を窓から覗いた。
「明るい…」
寝室に置いてある「24時間表記のデジタル時計」は02:03を表示しているが、外の明るさは半日後の午後2時における斜陽と言わざるを得ないくらいであった。そして常識的な思考から得ていた確信すらも覆すほどに、不思議な出来事は続く。
圏外となっているスマホから着信音が聞こえ始めた。恐る恐る画面を見ると依然としてアンテナは立っていない。それでも発信元が「ケイゴ」と表示されただけで、色々な感情が湧き溢れ私は泣きそうになる。
「ケイゴ…?」
「美鈴!無事か?!」
ここから迷い込む異空間の東京。
私達は一体どうなってしまうのだろうか。
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