夢
奈緒が受話器の向こうで不気味そうに言う。
「なんか子供が助けてって…」
夢の話をされた時点で「子供」というワードが飛び出すのは予想出来たが、どこまでも不思議に事が進んでいくのに慣れてしまい、感覚が麻痺しているようだ。これくらいのことでは二重幅に少し変化が生じるくらいで大した驚きは無い。
美「中目黒になんかあるのかな?」
奈「え、新橋じゃなくて?」
美「…」
流石にこれにはすこし驚いた。奈緒が見た夢は、私が見た夢と同じような結末だったが場所が中目黒ではなく新橋だったのだ。すこし掘り下げて聞いてみると、彼女にとって新橋は社会人1年目の頃、当時付き合っていた彼氏との思い出の場所らしい。何でも大学時代からの同級生で学生の頃から交際し、互いに就職した別々の会社の帰り道、毎週末のように軽く一杯引っ掛けていたそうだ。となると気になるのはケイゴという事になる。
美「ケイゴにも聞いてみよう」
奈「ちなみにこの流れからしてどこだと思う?」
美「あの人のイメージは池袋だけど」
奈「それ分かる、なんかそんな気がしてきた」
ケイゴは母子家庭で育った。一人っ子でもある彼は「別れた父の分も愛情を注ぎたい」という優しく強い母の元、愛情たっぷり育てられたのだという。実際彼の母にも会ったことがあるがとても優しく「いい親子関係」が二人の会話からもにじみ出ている感じであった。そしてその母によく遊びに連れて行ってもらっていたのが池袋だった、と聞かされていたのでまさかとは思ったが。
ケ「え、みんなは池袋の夢じゃないんだ…」
奈「みんな思い出の街が出てきたんだね」
全員とてもモヤモヤはしていたが、私達は週中の仕事に支障をきたすことなく、無事に土曜日を迎える。そして「何事もなく」ユーチューバーに巻物を拝見させてもらい、何なら「動画を撮り終わって、僕はもういらないので差し上げますよ」とまで言われ、なんとそのまま譲り受ける事にもなった。そして昼食を軽く取った後、その巻物を3人で囲みながら「この前と同じカフェ」で第二回のツチノコ会議が行われた。
「思い出の街と子どものような声」
「すべて東京メトロの路線が走っている駅」
「緑・自然・森」
このあたりが今回の議題としてあがってきた。
前回から比べても物凄くツチノコに近づいていると思う。
美「何かを訴えて来ていると思うんだけど」
ケ「ツチノコが?」
美「うん。あとこれは私の予想だしあくまで仮説なんだけど」
実は此処に来るまでに私には「こうなんじゃないか」という、とあるイメージが湧いていた。ざっくりその内容を説明するとこうだ。
ツチノコたちは東京の地下鉄のトンネルの中で細々と種を繋いできた。息を潜めるように。そして「絶対」に人目につかないように。しかしその種を存続するための努力も遂に虚しく、無情にも絶滅の危機にさらされてしまっているのではないだろうか。そのタイミングで興味を示した私達が現れ、しかも「ご丁寧に」わざわざ探索までしながら存在に近づいてきた。絶滅しては元も子もない。種の存続のためには、絶対に避けていた人間に見つかるかもしれない「リスク」すら侵さないといけない。もう背に腹は代えられぬと、最期のチャンスとして彼ら(彼女ら)が私達に助けを求めて夢というツールを使い、メッセージを発信しているのかもしれない。
恐らくだが普段のノリと関係性でこの事を奈緒とケイゴに伝えたら、取り入ってもくれないだろう。ただ今回はすこし状況が異なる。いつもみたいに「メルヘンなんて」という顔をすることもなく、寧ろ国会において質問答弁中の党首に対し、「そうだそうだ」と後押しする同党議員のごとく、食いつき気味に頷いている。
「でもさ、だとしたらどうするのが良いと思う?」
3人とも同じ様に悩んでいるのは察していたが、上手く答えを紡ぐことが出来ずにいた。
そんな時ケイゴがふと言った。
「夢、また見れると思うんだよね」
この言葉こそがこの時の私達の総意であった。
そしてその待ちの姿勢を採ったのが正解だったか。
早速その晩、私達はそれぞれにまた「とある夢」を見ることとなる。
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