ツチノコの書

「あ、普通に僕が持ってます(笑)全然お見せしますよ!」

巻物の件で都市伝説系ユーチューバーにDMをした所、なんと「一往復」で目的が済んでしまった。この人が持ってるんかい!と言う感想の前に、思い通りに行き過ぎる事に「怖っ」となった私がいた。そんなにポンポン進まれると流石に誰かに共有しないと気持ち悪く、一連の「速度」についてケイゴと奈緒に「投げた」。すると、やはり二人も同じ様な違和感を感じていたようだ。


「分からないけど、何かに引き寄せられてる気がする」

普段の返信や喋る時なども、可愛いタイプのいわゆる「犬系」男子であるケイゴが珍しく、ポップな顔文字やスタンプを一切使おうとしてこない。


「ね、なんか嫌な予感がするよね」

勘の鋭い奈緒も同調し、何だか「重い雰囲気」が漂う。


「次回の集合日にその人にアポ取ったから皆で行こう」

この流れにより、次の土曜日は都市伝説系ユーチューバーの元に行くことになった。


その夜、私は再び夢を見た。

場所はオーテモリの「森」の中。実際どこもかしこも見渡す限り緑というわけではなく、余程いい角度でない限り木々の隙間にはビルの一部が伺える。そんな緑の中、私はポツンと立ち尽くしている。すると後頭部に衝撃を感じ、目の前が真っ暗になった後、私は倒れ込んだ。

「いてててて…」

そう言って頭を押さえながら起き上がると、さっきの光景からは一転、ビルの廃墟に蔦が纏わりつき、SF映画である「人類が滅亡した後の地球」のワンシーンのようなそれが広がっていた。また緑がより一層深く、濃くなっている。


それを見た私は理由もわからず走り出す。しかしどこまで走っても景色は廃墟と空虚のままだ。ただその中でも街並みはちゃんと移りゆく。皇居の方には「虚無になった皇居」がしっかりとあるし、東京駅の方を見れば、「数百年後」かとも思える朽ちた赤い駅舎が目に入る。

更に不思議なことに不気味な夢を見ると感じる、あの胸くそ悪さや嫌悪感がこのときは無かった。そして夢の中なのに環境に小慣れはじめ、なんならちょっと探索をしてみたいとも思い始めた私は、その衝動のままにひたすら歩いてみることにした。


とんでも方向音痴「ではない」私は皇居を右手に、東京駅やJRの線路を左手に歩き続ければ、いずれ多摩川にぶつかり神奈川県との県境にたどり着く事くらいは知っている。なのでぐるぐるし続けるよりはいっそ東京の端っこまで行ってみようと思い立ち、一方に向かって歩きに歩いた。その間に体力の消耗と時間の消費を全く感じなくなる。明らかに異空間に紛れ込んでいるという、変な思考と感情が何故か高揚感を掻き立てた。


どれくらい歩いただろうか。ふと見慣れた光景の虚無化された街並みが目に飛び込んできた。幹線道路と上を走る鉄道の高架橋とホーム。そして近くには川が流れている。


「どこだっけ、この駅…」

更にもう1つ。この先には緑が無い事に気づく。その緑のない廃墟や街並みが広がる世界は流石に息苦しく、これ以上歩を進める気にはならなかった。


「あ、中目黒だ」

学生時代に目黒川の桜を友人と毎年見に行くのが恒例になっていた時期がある。なのでよく中目黒まで足を運んでいた。その時の記憶がこの光景と「合致」したのだ。すこし歩いて目黒川の方に向う。ふと渡りかけていた橋の縁に刻まれた「橋の名前」が目に入り呟く。


「日の出橋…」

その瞬間一気に目の前が暗くなり、体が動かなくなった。


「…助けて」

確かにそう聞こえた。男の子か女の子かはわからないが、小さい子供のような声だった。


そして私はここで夢から目覚める。前回の時のような冷や汗などは掻いていなかったが、とても悲しい気持ちが胸を締め付けた。そして私のスマホが奈緒からの着信を告げる。


「夢…見たりしてないよね?」

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