第17話 着やせするタイプですから

 あとに残されたのは、あちこち擦り傷だらけの俺と、メイド服をぼろぼろにして血まみれになっているエリシア、気を失って草むらに倒れているメロ。


 メロは……大丈夫だ、息をしている。

 顔色も悪くない。


「おい、メロ、起きろ!」

 

 身体を軽く揺さぶってみると、


「あと五分……もうちょっと眠らせてよぉ~」


 なんて寝言まで言っている。

 ひとまずは大丈夫そうだ。


「今のは……」


 エリシアが呆然として呟く。


「実はな、メロは……世界最強クラスの魔力を持っているんだ……まさかこんな形で覚醒するとは……」

「まだ十一歳であれだけの魔力なんて……信じられません……」

「ああ、まだこどもだったからこれで済んだ……あと五年くらい成長したあとだったら世界を滅ぼしにかかっていたかもな」

「まさか、そんな……」

「本当のことなんだ」


 とりあえず、タイミングが今でよかった。

 まだメロは十一歳、将来の大魔王とはいえ、まだまだこどもの力。

 俺たちだけでなんとか抑えることができた。

 だけど、メロはこれから成長期だ、大人になったらどれだけの力を発揮するのか、考えるだけでもおそろしい。


「きっと命の危険を感じるとあの魔力を解放するのかもしれない」

「二度とお嬢様に戦闘訓練など勧めませんわ……」


「とりあえずさ、家に帰ってシャワー浴びようぜ……エリシア、傷がひどいな……。治癒魔法とか使えるか?」

「一番簡単なのなら使えます。このくらいなら傷を残さず治せますわ。でも、わたくしの前にまずはお嬢様を回復してあげないと……」


「そりゃそうだな。気を失っているだけっぽいけど、かなり消耗しただろうからな」

「あんな魔力は本当に見たことありませんでした。こどもの身体であれだけの魔力を放出するなんて、相当の負担があったはずです。とにかく、回復させてあげましょう」


 エリシアはそう言って草むらに横たわっているメロの胸に手の平をあてると、治癒魔法を唱える。


治癒キュア!」


 四回目の魔法を唱えたところで、メロは目を覚ました。


「あれ……? 私、どうしてたの……? カルート君……エリシア……?」


 ポヤーっとした表情であたりを見回すメロ。

 よかった。目を覚ましてくれた。

 ってか、こういうときは中二病言葉は使わないんだな、こいつ。


「……身体に異常はないみたいですね。お嬢様、わたくしがわかりますか? わたくしの顔は見えますか?」

「エリシア…………いや、我が部下暗黒メイド騎士ダークエリシア卿! どうした、その顔は!? すりむいているぞ! せっかくの綺麗な顔が……治癒魔法を使え! 早く!」

「大丈夫ですわ、ちゃんと自分に治癒魔法をかけますから……。よかった、元気になったみたいですね」


 俺もほっと胸をなでおろす。


「メロ、さっきのこと覚えているか?」

「…………さっきのこと? ……私、じゃない、我は寝ていたのか……? 夢の中でおぞましき姿になって敵をやっつけてた。気持ちよかった……」


 記憶はないみたいだ。

 あの魔王化したメロはメロ自身なのか、それともなにか悪いものに憑依されていたのか?

 検証したいが危険すぎるので今の段階ではどうすることもできんな。


「ああ、メロ、お前スライムにやられそうになって気を失っていたんだ。ま、メロは戦闘に向いてないみたいだな。ダークネスドラゴンファイヤーデストロイヤー騎士団の騎士団長はそのあふれるカリスマで騎士団を率いればいいさ。俺はお前に心酔する部下第一号だからな」

「そうか……我は弱かったのか……」


 そこにエリシアもやさしく言う。


「この純潔で純白のメイド騎士もお嬢様の部下第二号ですわ。ご心配なく。トップに立つものに必要なものは個人的な強さではなく強い部下の心をつかむこと、そして部下の力を十全に引き出す統率力ですから。お嬢様にはそれがあります」


「ほんとうか!? 我には統率力があるのか?」

「もちろん。さあ、今日はもう帰りましょう」


 ずたずたに破れたエリシアのメイド服と滲む血液を見て俺も言った。


「エリシア、すまないな、契約以上のことをさせちまった。ありがとう。感謝するぜ」


「いえ、そんな……わたくしは戦闘のために雇われた戦闘メイドですから。お気になさらずに」


「ああ、ほんとサンキューだぜ。さあ、今日はもう帰ろう。家に帰れば薬草もあるし、エリシアも手当してやらないとな……。俺ら、ボロボロだぜ……」


「そうですわね。メイド服も破れちゃいましたわ。メイドギルドに追加発注しないと……」


「大丈夫か、そのメイド服、けっこういい値段しそうだけど」


「その辺は料金に含まれておりますのでご心配なく。ちょうどよかったですわ、最近胸がきつくなってきていましたのでサイズを変えたいと思っていたのですわ。……見ます?」


 突然そんなことを言い出すもんだからドキッとしてしまった。


「な、なにを……?」

「結構、大きいんですわよ……。着やせするタイプですから」

「だ、だ、だからなにが……?」

「いやですわ、純潔で潔白のメイド乙女にそんなことを聞くなんて……」

「自分から言い出したんだろうが!」

「ケッ、これだから若い男というのは……」


 ま、まあ、実はけっこうでかいよなーとは思ってた。

 思ってたけどさ、それは言わないのが少年心のプライドってもんだろ?

 メイド服着ているときはシュッとしているんだけど、シャワー浴びた後なんかに薄い寝巻を着ている姿を見た時なんか、思わず見とれてしまうほどの綺麗ででかい……いやだめだだめだ、 今はそんなこと考えてる場合じゃない。


 とにかく、まだおじさんは寝ている時間だから、バレないようにこっそりと家に入ってシャワーを浴びよう……。おじさんが朝に弱くて助かったぜ。


 しかし、ほんとまだメロがこどもでよかった……。

 そういやこのゲームのラスボス戦――つまり大魔王メロルラーナ戦ではあの右腕、大蛇どころじゃなくてドラゴンだったしな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る