第16話 対大魔王(幼)戦

 メロの右腕はいまや巨大な大蛇と化していた。

 見るだけで恐怖心を煽る紫色のオーラに包まれたその大蛇の身体が10メートル以上伸び、俺たちを襲う。


 俺に噛みつこうとする大蛇の牙をなんとか剣で受け止める。


 ものすごいパワーだ、全く押し返せる気がしない。


 俺は大蛇の牙を剣で押すようにして後に飛び退く。

 やべえ、なんとか最初の一撃を防げたけど、朝練してなかったら今ので噛み殺されてた。


「シュッ!」


 エリシアがナイフを投げる。

 だけどそのナイフは大蛇の厚い皮膚に阻まれて突き刺さらず、跳ね返されて地面に落ちる。


「もう一本!」


 またもやナイフを投げるエリシア。

 今度はそのナイフが大蛇にあたる直前に叫ぶ。


着火イグナイテッド!!!」


 バァンッ! と爆発音とともにナイフが爆発するが、大蛇にはダメージが通っていない。

 皮膚が固すぎて、なんなら傷一つついていない。


「おるぁぁぁぁっ!」


 俺も剣を振り上げて大蛇に向かう。

 大蛇はすさまじいスピードで俺に噛みついてくる。

 くっそ、めっちゃこええ!

 だけど俺の狙いは大蛇ではなかった。

 まるでホームを狙う野球選手のようかボールを狙うサッカー選手のように思いっきりスライディングする。

 俺の身体は大蛇の真下を潜り抜けた。

 大蛇はその巨体ゆえ、小回りが利かず自らの胴体の真下に入った俺に噛みつくことができない。

 そのまま俺は立ち上がるとダッシュする。

 もちろん、目的はメロ本人だ。

 

「わたくしが時間稼ぎします!」


 エリシアが大蛇の頭部にナイフを投げ着火させる。

 俺の背後で、パァンッ! バァァンッ! というナイフが爆発する音が聞こえた。

 その間にも俺は走る。


 見るだけで恐ろしさを感じさせる暗黒のオーラを発しているメロ。 

 だけど、俺はその恐怖を抑え込む。

 なんたってそこにいるのは俺のかわいい姪っ子だからな。


 1メートルほど宙に浮いているメロに向かって、俺は叫んだ。


「おい、メロ! 俺だ! お前の叔父カルートだ! 目を覚ませ!」


 メロは感情のない赤い瞳で俺をギロリと睨むと、


「下等生物め……滅してやるぞ……」

「俺だってば、馬鹿!」


 だが俺のセリフを無視して、大蛇と化していない方の腕、つまり左腕を俺に向けて――。


「メロォーーーッ!」


「――死ね」


 そういってメロは何らかの魔法を俺に放とうとして、そして動きを止めた。


「……なんだこれは? 我が魂が……お前を殺すのをためらっている……?」


 あったり前だろ、メロが俺を殺せるわけがない!


 と、背後で「きゃあぁっ!」というエリシアの悲鳴が聞こえた。

 振り返ると、大蛇の頭に身体を吹っ飛ばされて地面に転がるエリシアが見えた。

 エリシアはすぐに立ち上がるが、せっかくのメイド服はあちこち破れて地肌が見えている。

 そこからは痛々しい傷が見えて血が流れている。

 とどめだといわんばかりにエリシアに襲い掛かる大蛇。


「よせ、メロ!」


 だが大蛇はふらふらのエリシアに噛みつきにいく、くそ、間に合わないか、どうするどうする?


召喚サモン召喚サモン召喚サモン召喚サモン召喚サモン!!」


 大蛇が大口を開け、エリシアを一飲みにしようとしたその瞬間、エリシアが召喚魔法を唱えた。

 同時にエリシアの右手からとんでもなく大量のスライムが生成された。

 ドバドバドバ! 

 まるでシャンプーの容器に水を入れてシャカシャカしたあと出てくる泡みたいにスライムが出てくる。

 100? 200? いや500匹はいるぞ。

 この一瞬でこれだけのスライムを召喚できるとは!


 毎日の訓練でエリシアの召喚魔法も強化されていたのだ。

 大蛇の巨大な口の中に次々と飛び込んで口中にはりついていくスライム。

 あっという間に大蛇の口の中はスライムでいっぱいになる。

 構わずエリシアに噛みつきにいくが、あまりに大量のスライムが次から次へと口の中へとびこんでくるのだ。

 さすがにうざったくなったのか、一度スライムをかみつぶす大蛇。

 やっぱりスライムは最弱モンスターなのでこの大蛇相手じゃ時間稼ぎくらいにしかならない。

 と思ったら。

 次の瞬間だった。


着火イグナイテッド!」


 エリシアが叫ぶと、スライムをかみつぶして閉じていた大蛇の口の中から、ポン! ポン! ポン! ポン! とくぐもった爆発音が聞こえた。

 エリシアは先ほどのスライムの中に自分のナイフを混ぜ込んでいたのだ。

 なるほど、その皮膚は固く頑丈でも、口中や食道まではそうはいかないだろう。


「グエエエェェェ!」


 苦しみの声をあげる大蛇。


「ほう、やるではないか……だがまだまだこんなものでは……」


 メロのセリフを俺は最後まで聞かなかった。


 宙に浮いているメロに、俺は飛びつくようにして抱き着いたのだ。

 禍々しいオーラをまとっているが、それごと抱きしめる。

 オーラ自体にもなんらかの力があるのか、俺の皮膚はジリジリと焼けこげてしまうが、関係ない。

 俺はおもいっきり最愛の姪っ子を抱きしめると、自分のほっぺたをメロのほっぺたにくっつけ、その耳もとで叫ぶ。

 

「やめろ、メロ! メロ! メロルラーナ! 俺はお前の大好きな叔父だぞ! お前を大好きな叔父だぞ! 目を覚ませ!」


「なにをする……我が……我が……」


「俺はダークネスドラゴンファイヤーデストロイヤー騎士団の副団長にしてお前の叔父だ! 団長! 団長が攻撃しているのは自分の部下だぞ!」

「部下……部下……? お前たちは我の部下だというのか……?」

「そうだ、忠実なる部下だ! 団長、部下を殺すのはやめてくれ!」


 俺が耳もとで叫ぶと、宙に浮いていたメロの身体がすとん、と地面に降りた。


 いつのまにかメロを覆っていた暗黒のオーラはおさまり、赤黒くおぞましい色をしていた髪の毛もふわふわの金髪に戻っている。


「あ、あ、あ……我が叔父……カルート君……ごめ……」


 そう言ったと思うと、メロの身体からくたりと力が抜け、俺の腕の中で失神した。



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