第11話 可能性

「ジャイアントインプに襲われたのか……こんな村の近くで……」


 おじさんがメロを抱きしめながら愕然として言った。


「わたくしも驚きましたわ……。あのレベルのモンスターは普通、ダンジョンや森や山の奥にしかいないものですから……」


 エリシアがそう言う。


「いやしかしよくやってくれた。ジャイアントインプなど、戦闘に慣れた大人たちがパーティを組んで討伐するものだ。それを、カルートとエリシアだけで三匹も討伐するとは……。さすが、大したものだ。カルート、よくやったな。メロを守ってくれてありがとう」

「いや、メロは俺にとっても大事な姪っ子だから守るのはあたりまえだよ」

「そうか、そうだな、しかし本当によくやってくれた、さすが私の弟だよ、誇りだ」


 うん、尊敬するおじさんに褒められると悪い気はしないな。

 しかしメロを守れて本当によかったよ。


「それに。エリシア」


 おじさんがエリシアに向き直る。


「本当にありがとう。戦闘に長けたメイドをオーダーした甲斐があった。今はいろいろきな臭い噂があるからな、メイドギルドに依頼して正解だったようだ。君にもお礼をしなければな」

「いえいえ……お礼?」


 エリシアの瞳がキラーンと光る。

 心なしか背筋が伸びているように見える。

 うん?

 よく見るとエリシアのエプロン、後ろの結び目がぐちゃぐちゃの縦結びになっているな、女の子なんだからもっとかわいく結べよ……。

 雑だなあ。

 おじさんはエリシアにうれしそうな顔で言う。


「ほんとによくやった、だからお礼をあげよう」


 エリシアの奴、顔はすました顔をしているが、身体がモジモジしている。

 かなり期待しやがっているな。


「ほら、私の妻が焼いたクッキーだ。これをあげよう」


 小さな紙の包みをエリシアに渡すおじさん。


「いえいえ、そんなお礼なんてわたくしは…………クッキー?」


 それを受け取るエリシア、その表情は明らかにがっかりしている。


「クッキー……ま、まあおいしそうですわ、おほほほほ……クッキー……」


 よく見るとエリシアの目じりには涙が……。

 よっぽどお礼に期待していたらしい、わかりやすくて面白い奴だなあ。

 このまま眺めているのも楽しそうだけど、かわいそうだから教えてやるか。


「エリシア、それはこの辺の風習だよ。その包み紙を開けて見な」


 中から出てきたのは普通においしそうなクッキーが一枚。


「クッキー……たったこれだけ……」

「だから、その包み紙の台紙をよく見てみ」

「ん……? あ、コインが……これは……銀貨!」

「そのまま渡すと下品だからな、謝礼はそうやって渡すのがこの辺の風習なんだ」

「銀貨! 銀貨! 二枚も入ってる! 銀貨! 銀貨!」


 エリシアはもう俺のセリフを聞いていない。

 ピョンピョンジャンプして小躍りして喜んでやがる、まさに文字通り現金なやつだ。


「カルート、お前にも同じのをあげよう、ご褒美だぞ。無駄遣いはするなよ」


 俺にもクッキーをくれるおじさん。

 やったぜ!

 メロを守れた喜びに勝るものでは全然ないけれど、銀貨二枚ももらえるとこれは嬉しい。

 町の屋台で売ってる、ひき肉をパンにはさんだ名物料理を100個は食えるぞ。

 それだとわかりづらいかもしれないけど銀貨二枚で日本で言うところの四万円くらいの価値はある。

 魔導書の一冊くらいは買えるかも……?


「ふふ……ふふふふ……銀貨二枚……うふふふふ」


 メロも助けられたし、エリシアの奴も喜んでいるし。

 そして、俺はエリシアの能力を見てひとつ、ひらめいたことがあった。

 このゲームのシステムを考えると、エリシアの能力は俺のレベルをとんでもないところに連れて行ってくれる可能性があるぞ……。


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