第12話 そのうち出会うこともあるんだろうか?
「ところでなんであんなところにジャイアントインプなんてモンスターがいたんだろう……」
俺が聞くと、おじさんが答えてくれる。
「うむ、私もいろいろ聞いてまわって調べてみた。おそらく、すぐ北西にあるガルニアダンジョンから抜け出してきたようだ」
「ガルニアダンジョンって……あそこは人間の王国が出入口を見張っているんじゃ?」
「そうだったんだが、王都で政治的な対立が起こっているらしい。王太子と王女が反目しあっていたんだが、いよいよ軍事衝突も近いとのうわさだ。それで、辺境のダンジョンの警備兵も王都に駆り出されてあそこは今手薄になっているのだそうだ」
うーん、そろそろ歴史の波が俺たちに襲い掛かろうとしているな……。
だが今の俺の戦闘レベルでは力がなさ過ぎてなにもできない……。
そのうち王が病に倒れ、王太子は摂政になるも王女との対立は収まらず、決定的な実力を手にするためにゴッドドラゴンの右目……つまり、この家にあるシャイニングドラゴンクリスタルの引き渡しをおじさんに求める。
シャイニングドラゴンクリスタルは一族統合のシンボルであり宗教的なシンボルでもある。
おじさんは引き渡し要求をつっぱね、俺たちの一族は大虐殺される……。
「うう……我ももう少し成長していたら力になれたのに……我が右腕に潜む暗黒のパワーよ、はやく覚醒するのだ……」
メロはいつもの中二病セリフを呟いている。
その通りだ、お前の中には世界を破滅させるだけの力があるのだ。
だがその力の発動はだれも幸せにしない。
お前はいつまでも力のない女の子でいてほしい。
それには、まず俺が強くならなければ。
「おじさん、俺もメロを守れるようにもっと強くなりたい。実は、いつも早朝に自主訓練していたんだ。これからも続けたいと思う」
「うむ、そうだな、これからこんなことがいつ起きるとも限らん。それに、将来の族長の叔父として強さは必要だ。農作業に支障のでない範囲でならやるといい」
「うん、ありがとう。あとさ、エリシアにも手伝ってほしいんだ」
銀貨を愛おしそうに撫でているエリシアはそれを聞くと、目を銀貨から離さないままで、
「訓練にお付き合いするのはいいですけれど、その分労働時間が契約より長くなってしまいますわ……だんなさまのおやつやおつまみを作る時間がなくなってしまいます」
「ちょうどいいな」
と、おじさんは言った。
「君がこのあいだ作ってくれたあのドーナツ、おいしかった、おいしかったんだが……」
「嘘だぞ、我が父上はあの焦げた黒い輪っかをこっそり捨ててたぞ」
「こらメロやめなさい、とにかく君はいままで料理関係に使っていた時間はカルートの訓練に回してくれていい。聞くところによるとあのメイドギルドの将来のエース候補だそうじゃないか。一年でギルドに返してくれといって一年契約までしかできなかったからな。その分、戦闘能力は高いんだろう? メイドギルドで鍛えた本場の戦闘術をカルートに教えてやってくれ」
「まあ……いいですけど……」
「毎月の給金に加え、銀貨2枚をチップとして追加するぞ。それにカルートが十分に強くなったらさらに成功報酬として金貨一枚あげよう」
エリシアは急に背すじをピンと伸ばした。
「金貨! 金貨なんてみたこともない……。おほほほほほ! おまかせください! メイドギルドの師匠たちが私に教えてくださった技や魔法の数々を教えて差し上げますわ!」
★★★
そんなわけで、次の日の朝練からはエリシアも参加することになった。
「それはいいけど、なんでメロまでいるんだ?」
「くっくっく……我も強くならねばな……我が右手に眠る
いややめろ。
お前がそれを解放すると世界は滅亡に近づくんだ……。
しかもこのゲームの主人公に討伐されちゃうんだぞ。
そんなの、俺が許さない。
……ん?
このゲームの主人公?
そういやそいつはいまどこにいるんだろう。
ゲームスタートはまだ数年後だ。
今はまだ子供だろうが……。
プレイヤーキャラはキャラメイクできるので男か女か人間か亜人かすら今の時点ではわからない。
そのうち出会うこともあるんだろうか?
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