02:意見交換:経済団体/地方団体

 続いて二回目の会議は経済団体、地方団体との意見交換。

 最初は経済団体からの発言。


『コロナは発生から2年以上が経過しております。既に正体不明のウイルスのときと同じ対策を取る必要はなく、ウイルスの特性に応じた科学的・合理的な対策に絞り込むことができるはずです。憲法で保障された移動や営業の自由を制限するからには、制限を受ける国民・事業者にとっても納得感のある、必要で合理的な範囲に対策を絞っていただきたいと思います。』


『現在、経済界の最大の関心事は水際規制の緩和です。経団連では一刻も早い国際的な往来の本格的な再開を求めておりますが、日本では出入国の保健衛生、検疫体制を一元的に管理する省庁が存在せず、外務省、法務省、厚労省、内閣官房、デジタル庁、経産省、国交省、観光庁に所掌がまたがっております。』


『コロナの闘いは世界共通の闘いであり、対策についても各国が足並みをそろえていくことが合理的です。各省庁で連携して、ぜひほかのG7諸国並みに、空港での検査体制を撤廃し、1日当たりの入国者数の上限を廃止するようお願いいたします。』


『「宿泊、飲食サービスに関する規制の在り方」でございます。特にこの業種につきましては景況が厳しい。これが続いておりました。これまで断続的に発令されました緊急事態宣言が3回、まん延防止が2回ということで、こういう業種に属する中小の事業者は全国的に疲弊しておるという状況でございます。また、直近、今年の4月の私どもの景気調査におきましても、コロナの影響を受けている飲食・宿泊事業者は95%超でありました。地域を支える老舗の飲食店等も廃業が増加しているという状況でございます。そこにある事例は、大変有名な地方の名店でございますけれども、これが倒れておりますし、直近では横浜の中華街でも人材が流出しておるということでございました。』


 続いては地方団体。


『一つ現場で聞こえてくる典型的なお話を申し上げますと、コロナにり患された方がお医者さんにかかりますと、入院治療費が無料となるが、そのために所得を見ることとなります。その所得を調べろという通達が厚労省にあるのです。例えば、日に1,000人、2,000人というふうに出てくるときに、その人たちの所得証明を取らなければいけない。しかも、御丁寧なことに、通知には家族のものも全部調べろとなっているのです。御家族は皆さんもう感染したり自分も濃厚接触者というときに、それを集めてこなければ無料にならないよと。これに保健所の人員を割かなければいけないということですよね。いろいろとナンセンスなことが起きているのです。』


『専門家の先生方はトータルのトレンドのお話に終始されるのです。エビデンスがどうだとおっしゃるわけです。エビデンスをつくるのに1年、2年かけている間にもう感染が終わってしまいますから、今必要な、例えば、あるスポーツでなぜか感染が多い、その対策を考えましょうということに集中して人的資源を使って、知恵を使ったほうがいいのではないかと思うのですね。そういう意味で、即応した立案が必要ではないかということです。』


『8歳の子供さんが新型コロナ感染症に感染して、熱があって吐いており、そのお母さんは妊婦さんなのですが、お母さんも感染して吐いている。家族でパニックになっており、どうするかという応用問題に直面したのです。現状だと、保健所に相談して、保健所が県に相談して、その上で結論が出るのです。結論が出るまでに相当な時間を要してしまい、結局入院させることができなくなったのです。私は小児科の医師と産婦人科の医師もいる新型コロナ感染症対応の病棟のある病院しかこの親子を対応できないと思ったのですが、結局、それができなかったのです。』


『よくテレビで、2類か5類かで分けて、5類だという話だけで単純化するのは議論としては正確性を欠くのではないかというのが現場感覚であります。』


『結局、学会だとエビデンスが固まらないと物が言えない。これは学者の先生方の良心だと思いますし、科学というのはそういうものだと思います。しかし、我々実務は目の前で実際に病気が起こっている、この病気を何とか収めなければいけない。そうなったら、理論とかはもう関係なしに、ちょっとここで遮断させてくださいと。それは隔離であったり、それから効くかどうか分からないですけれども、この薬を投与しましょうとか、ワクチンをやりましょうとか、そういうことをみんなで一斉に始める。これが実務だと思うのですね。だから、そこの齟齬があるのですが、そういう意味で、マクロの議論、しっかりとしたエビデンスを前提にして議論しなければいけない方々がいるというのは理解しなければいけないところだと思います。ですから、私どもの感染症対策はそれとは別の次元に立った制度設計が本来求められているのではないかなと考えております。』


『先ほど、新型コロナ感染症に関して敵だという話がありましたが、私はコロナ軍と思っています。コロナ軍がどうやって作戦を変更してくるか分からないところで、相当な警戒態勢のシステムが必要だろうと思っています。そのため、どういう形で進んでいくか分かりませんが、医療界、医療従事者というか、医療機関に全部お任せというのは、私は極めて危険なことになるのではないかということを申し上げておきます。』


 会議の内容は他にもハンドドライヤーの使用や補助金、酒類販売営業許可の第三者認証など、多岐にわたっていた。


 周辺は木々に天まで囲まれ、辺りは光届かぬ一面の闇。星空の下、その中をただただ歩みを進める。

 周囲のひんやりとした空気に向けて、吐息を吐く。きっと冬になれば真っ白にそれは浮かび上がるのであろう。

 吸い込む空気も心地よい。

 3回目の開催は医療関係団体から始まる。


『新型コロナの医療資源の確保の議論では、コロナ医療の充実のみの単眼的な論調になりがちになっています。命の重さはどちらの医療も、通常医療もコロナ医療も同じです。日本医師会はコロナ医療とコロナ以外の通常医療の両立を守りながら、政府の方針に全面的に協力してまいりました。』


『当時の菅首相は1日100万回接種を目標として掲げていましたが、1・2回の初回接種においては各医師会が底力を発揮して、1日約170万回接種を達成しています。刻々と変わる状況、限られた情報の中で、これまで政府は未知のウイルスの感染対策と社会経済活動の両立に迅速な対応を迫られてきました。政府はその時点での考えられる最良の対策を取ってきたと私は考えています。』


『現時点における日本の新型コロナウイルス感染症に関連した人口当たりの死亡者数は、G7諸国の中でも1桁少ない水準で抑えられています。これは我が国の医療提供体制が決して脆弱ではなく、それを維持するための医療従事者の献身的な努力と、日本国民の日頃からの公衆衛生意識の高さによるものと考えています。』


『これまでの政府の新型コロナの対応を今から振り返れば、必ずしもベストではなかったこともあるでしょう。あのときこうしておけばよりよかったということもあるかもしれませんが、現時点での知見を基準に批判的な評価をするのではなく、今後の対策に生かしていくことが大事であると思います。』


 続いては日本歯科医師会からの発言があり、主に感染防止の衛生用品の不足、訪問医療の困難化による弊害と対策。

 自治体に対応を委ねた結果、実情を反映する対応ができた反面、地域格差問題の顕在化。

 医療従事者へのワクチン接種に関しても歯科医療機関、歯科医師、歯科医療従事者等への扱いの違いが生じ、混乱が発生などの報告があった。


 議事録では、続いて日本薬剤師会からの報告。


『正しい情報がどれほどマスコミを通じて、あるいは薬剤師会等を通じて国民に伝えられるかということの、正しさあるいは今はやりでありますのがフェイクにならないような情報提供、地域の専門職、医師、歯科医師、薬剤師、看護師といったものについても、ぜひ御活用願いたい。』


 日本看護協会からの報告。


『今回、入院体制が取れなくなり、在宅での健康観察を余儀なくされたときに、訪問看護事業所に勤務する看護師が様々な形で対応いたしましたが、その活動はボランティアベースでございました。この形ではなく、有事の際に、ぜひ地域の看護提供体制を迅速かつ柔軟に切り替える仕組みの構築をお願いしたい。』


『今般の有事対応にあたり、Key-Net、HER-SYS、IHEATが構築されましたが、現場の大変な状況にあって、なかなか必要なデータが入力できなかったということがあり、必ずしも十分な活用がされていない状況にあります。有事の際に、各医療機関や施設等の状況、また健康観察の現状、必要な人材確保の状況等の情報が迅速に関係機関間で共有されていないという残念な状況にあります。平時から状況把握のためのシステムを稼働させ、併せて有事を想定した訓練等の実施が必要と考えております。』


 そして、日本病院会。


『コロナ禍の経験を経て、平時から感染症対応のために常態として確保する感染症病床数を増やすべきだという意見がありますが、これは合理的な考えとは言えないと思います。常態として確保する感染症指定医療機関の感染症病床は、感染症発生の初期にきちんと機能を果たすように常時確保・整備しておき、すぐに使用できるということが重要です。常態として確保している感染症病床数では対応が不能な場合、一般病床を感染症病床に転換して感染症病床を確保することが現実的な対応であります。一般病床の転換には3週間程度の期間が必要との声が多いことから、時間的猶予を考慮した病床変換指示を発出する司令塔が必要と考えます。』


 質疑応答における、日本医師会の発言に関して。


『病院も含めて日本医師会のスタンスというのは、コロナ医療とコロナ以外の通常医療は絶対に両立しなければならないという考えなのです。コロナが急速に広がっているから通常医療はちょっと我慢しなさいということではないのだろうと。例えばコロナで死ぬのは絶対に駄目だけれども、通常の病気であればしようがないねという極論もあったのですけれども、そうではないと。どちらの医療でも命の重さは同じだというスタンスで頑張ってきたのです。』


『47都道府県あれば、ネットワークのつくり方というのは47通りあるのです。一言で言うと、いわゆる地域の実情に応じて頑張ってきたのだと思います。決してばらばらに対応して、結果として不十分だったということではないと。もう本当に頻繁にネットワークの改善の努力をしてきたと私は思っています。』


『潜在看護師が役割をすぐに担えるかという点については御指摘のとおりであり、潜在して間もない、退職して1年も経過していないという方から、30年経過している方まで、様々であります。1年も経過していない方で若い方は、重症者施設に自分の持っている実践力を活用したいということで手挙げをしてくださった方もおります。30年ぐらい経過している方でも、県協会でワクチン接種の研修を受けて、ワクチン接種会場で大変活躍してくれたという事例もございます。』


『私たちの医療機関もそうだったのですけれども、実際に往診対応しているところはかなり負担が重くて、通常医療とコロナの患者さんの自宅療養の往診を両立するのはかなり大変だったのです。実はそういう有志の方が一生懸命努力して何とか対応してきたという事実があるかと思っています。恐らく全国でも似たような状況だと思っています。』


 金目当てで医療従事者はワクチンを打ち、コロナ医療を行っている。世間ではそう言われている中で、実際には感染の危険に晒されながら、大多数の不特定の人間に医療従事者はマスクやゴーグル、ガウンなどで防護しているとはいえ直接、接触している。

 お金だけで本当にできるものなのか。と疑問に思うのは、間違っている事なのだろうか。


『有事の実力は平時の余力だと私は申し上げてきたのですけれども、都道府県の医療計画の5疾病5事業にぜひ新興感染症対策事業を加えるべきだとお願いして、医療法を改正していただいたのです。』


『平時のときに、新興感染症が入ってきたときにばたばたするのではなくて、病院だけではなくて診療所も含めて、パンデミックが起こりそうなとき、新興感染症が入ってきそうだなというときにどうするかは、あらかじめ計画を決めておく。病床はどこの病院が何床かとか、人材はここから派遣するとか、防護具、人工呼吸器も含めて、どこにどのぐらい備蓄するのか、診療所の先生方はかかりつけ医としてどういう役割を果たすのかということを全部決めておいて、毎年更新するというふうにお願いして医療法を改正していただいたので、その点は前倒しで6事業目の計画を都道府県では進めていると思います。』


『検査・診療ができる医療機関数のことでございます。10%とか三十数%という発言がございましたけれども、事実関係で申し上げますと、本年4月22日時点では、全国で3万8000の医療機関で検査・診療ができると。オンライン診療と健康観察は2万2000ができるという状況になっております。病院が8000強、一般診療所が10万でございますので、率で言うと34%になるわけでありますけれども、そのうち例えば整形とか眼科とか耳鼻科とかは対象になりませんので、それからしますと、内科系診療所の相当部分が対応できているということが事実であるということについては申し上げておきたいと思います。』


 この第3回有識者会議の開催は令和4年5月20日のことである。

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