デイジー

第6話

「俺が女役？」

「うん。今度僕が演出する舞台の相手役に杏、君を使いたい。」

「相手役ってことはまさか…」

「僕が君の相手役ってことだよ。不満？」

「そんな！不満だなんて！光栄なことだよ。ただ、公私混同だと思われないかな？それが心配なんだ。それに仕事に私情は挟みたくないんだ。自分がダメになりそうで…。」

杏は不安になった。

これほどにまで恋焦がれている相手が自分を必要としてくれている。愛してくれている。

だけれど、仕事に私情は持ち込みたくはなかった。

「君を女にしたい。悪いようにはしない。杏、君を必ず輝かせてみせる。それに、時に私情は人を輝かせることが出来る。僕たちが愛し合っているように。」

「…輝きたい。それに、浩二のこと、俺がもっと輝かせたい。今の浩二、輝いてるから嫉妬してるのかもしれないけど。」

「杏…」

「…実は友達に女の顔になってるって言われたんだ。言われた時、浩二のこと思い出した。そしたら嗚呼、このまま完全に女の顔になっても良いのかなって、思ったんだ。」

「男の君も愛したい。」

「わがまますぎない？」

杏は本当にそう思った。

けれど、そんな浩二を愛していることも事実であることに間違いはなかった。

浩二もそうだった。

それでいてわがままでもあった。

「愛した人の全部を僕は奪いたい。愛したい。」

「そういうこと、奥さんにも言うの？」

「言わないよ。彼女のことは何も思ってない。前に言ったでしょ？政略結婚だって。」

「それが本当なら…いや、何も言わないよ。」

「僕は杏しか愛してない。君は本当に狡い。君の方こそどうなんだ？僕のことを愛してくれているの？」

「ああ。身震いがする程に。」

「杏、愛してる」

「知ってるよ。」

2人は見つめ合ってどちらともなくキスをした。

そして、その場で愛し合った。

それは熱く求め合うように。