第5話

「寝たの?浩二と?」

「あぁ。結婚もしてた。でも、政略結婚で奥さんのこと愛してないって。俺を愛してるって。」


杏は浩二とのことを江美に話した。

江美は杏を否定しない。

そんなところが杏は信じられた。

浩二に対しても同様だった。


「そっか。良いんじゃない?やっと意中の相手と結ばれたってことで、良かったじゃん。」

「けど…不倫、になるよな?これって。」

「まぁね。でも、今の杏、女の顔になってる。」

「…それはそれで困るんだけど。」


杏は少し戸惑った。

女とロマンスを楽しんでいた時は自他共に認める男だったはず。

しかしながら久しぶりに男に抱かれて、それが浩二だったというだけで、女の顔になったという事実を杏は受け止めきれなかった。


「芸の肥やしになるんじゃないの?」

「それは遊びの時だけさ。…本気は、肥やしになんてならない。」

「杏、本当に浩二のことが好きなんだね。」

「あぁ、愛してる。こんなに恋焦がれてるのは浩二だけみたい。」

「…そっか。今の杏、輝いてる。」

「そうかな。君に褒められてるのか貶されてるのか分からないな。」


杏は上目で江美を見上げるとふっと笑った。

江美は杏がこんなに輝いた表情をすることに驚き戸惑い心ときめいてしまっている。

実を言うと江美はずっと前から杏に淡い恋心を持つようになっていた。

その感情が爆発するまで時間の問題だと、江美は思っている。


「…杏、わたしね、」

「…それはまた会った時にしてほしい。俺が泣くことになるかもしれないからね。じゃあ、また。」


そう言うと杏は江美に微笑みかけ店から出て行った。

江美は何故だか分からない涙が溢れている。

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