第2話

同期会というやつは厄介だと杏は思った。

みんな幸せの自慢ばかりであるとも。


「杏、久しぶり!元気?」

「あぁ、うん。そっちも」


誰かだなんて覚えていなくて、適当に相槌を打つ時間が退屈にも程があった。

ここには遊べるような女は居ない。

そう思うとますます退屈に思う。


「杏、久しぶり。」

「誠一、相変わらずの活躍じゃないか。」


河合誠一は杏が劇団在団中から仲良くしていた仲間の一人。

今も名俳優として活躍している。

付き合っていた訳ではない。

あくまでも仲間である。


「聞いたぞ、また女泣かせたんだって?」

「泣いたのは俺の方さ。最低、女のくせに、って。いつものことだけど。」


杏は笑った。

誠一は少し心配そうな表情を浮かべている。


「それに、芸の肥やしになるっていうだろ?」

「大きな芸の肥やしにはならない。お前みたいな男役続けてる役者は特に。」

「役は余計だ、役は。」


杏は未だに舞台でも時にはメディアでも男役を演じていた。

私生活も一流の男役であり続けたいと強く思っている。

周りはそんな杏を笑っている。

そんな周りが杏をますます頑固にさせた。


「帰るよ。会えて良かった。」

「待てよ、杏!」


誠一の言葉を振り払って帰ろうとすると杏は人と肩がぶつかった。


「…すみません。…?」


顔は見たくなかった。

見たいんじゃない。

見れなかった。

その後ろ姿に見覚えがあったから。



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