デイジー
花福秋
第1話
華麗な舞台の世界から身を引いて5年。
後悔はない。
ただ、何かが物足りない。
彼女は女。
女も男も愛せるバイセクシュアルだ。
「男はもう懲り懲り。でも、女は飽きが来ない。別れはすぐ来るけど、キャッチアンドリリース感覚だから。」と、小泉杏は語るように言った。
杏自体が何人もの女性とのロマンスを楽しんでいた。
今はその中の一人と語っていた。
別れ話とでもいうものか。
「あなたが良いのは顔だけだったのね。それと…」
「テクニック?」
「…最低」
「最低か。良いじゃないか」
「そうやってまだ男役を演じてるのね」
「役は余計だな」
「…女のくせに」
また一人、杏の中から女が消えた。
「女のくせに」だなんて何回も言われてきている言葉だ。
そんな言葉がさらに杏を男にしていく。
男になりたいわけでではない。
男役でありたい。
長い劇団生活が杏をそうさせたのだろう。
杏はそこに強くこだわり続けた。
そんな折、劇団の同期会の知らせが届いた。
同時に電話が鳴る。
「もしもし…」
「もしもし、杏?同期会の招待状、届いた?」
「うん、届いたよ。」
杏は少し胸を撫で下ろした。
電話の相手が同期生の高木江美だった。
江美は杏の数少ない理解者の一人だ。
杏にとって電話は過去に何度もいたずらをされたことで恐怖心があった。
「女の子ハントばっかしてないで、来れば?たまには同期と語り合うのもいいものだよ?」
「女の子ハントって…。分かったよ。つまらなかったら帰るから」
杏は全く期待していなかった。
どうせつまらないだろうと乗り気ではないのだ。
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