第7話 王都ヴァルムス

 ぶんちゃんはこれから早速レベリングを行うらしく早々に教会から出ていった。


「エーちゃん、私達も行こっか。」

「はいです!」


 私は肩に乗せたエーちゃんことピクシーのエーリルを連れて教会の外へ出ることにした。

 二メートルを超える大きな扉を押して開けると、そこには広大な街が広がっていた。

 高台に教会があるためか街が一望出来る様だ。

 時刻は丁度お昼頃、現実とリンクしているのだろう見上げると太陽は真上付近にある。

 遠くの森や地平線の先の山々まで見える。


「すごく大きな街!」

「はい、ここはヴァルムス王国最大の都市であり、ガラルシア大陸の中心に位置する王都ヴァルムスです!そして後ろを見て下さい!」

「後ろ?………ふぇ?」


 エーリルに言われるままに後ろを振り向くとそこには私の視界を埋め尽くすほどの巨大な木の幹があった。


「この巨大な木の名はユグドラシル。この大陸の丁度中心に存在し世界に一本しかない木です!」


 それは私の知る木と比較しても圧倒的にスケールが違う。

 一瞬、木の幹が壁かと思った程だ。

 見上げても生い茂る枝葉で埋め尽くされてっぺんが見えない。一部の枝葉に雲がかかっていることから雲よりも高い高度まで成長しているということだろう。


 あいはこのユグドラシルの木や王都の風景に圧倒されていた。

 現実では何処を探しても見られない風景がこの世界にはある。

 そしてまだ見ぬ場所や風景がこの世界にはあるのだ。それを写真や映像では無く自分の目で確かめたい。それが出来る世界だ。

 そんなことを考えるだけでわくわくしてきた。


 ななちゃんはこの世界を私に見せたかったのかな。


 そんな街や木を目の当たりにして、自分の悩みもちっぽけに感じる。

 私は小学校六年間飼育係でずっと動物たちのお世話をしてきた。それがとても楽しくて、中学生になっても飼育係になってうさぎさんのお世話をすることしか考えてなかった。

 しかしそれが叶わないと分かった時、目の前が真っ暗になり胸に穴が空いたような感覚になった。

 勝手に中学校に通う理由が無くなっちゃったなんて考えてた。

 でもこの世界にそれは違う事に気付かされたのだ。

 このユグユグの世界で見たことない風景を見たり、出会ったことの無い生き物に会うためには自分で探すしかない。

 それは現実でもそうなのだ。楽しみややりたい事が無くなったのなら自分で新たに見つければ良い、それだけなのだ。


 それでも見つけられなかったらななちゃんに相談しよう。きっと一緒に楽しいことを探してくれるはずだよね。


 心が軽くなれば、何故かじっとしていられなくなってきた。

 もうななちゃんはこの街を出てレベリングしてるのかな。


「エーちゃん、街を探索しよう!」

「はい、ご案内はおまかせ下さい。この街を隅から隅までくまなく見て回りましょう!」


 わくわくしながら歩き出した私の足取りは何時もより軽く感じた。



 ☆☆☆



「やっと見終わったよ〜、この街大き過ぎ!」

「お疲れ様でした、アイちゃん様。」


 この街を探索するのに一日を全て使うとは思わなかった。

 この街は五つの区画に分かれているようだ。

 ユグドラシルの幹をぐるっと囲むように立てられている巨大な城壁の内側にある王城。

 ユグドラシルの南側に貴族街、西側に商業区、東側に住居区、北側にスラム街というふうになっていた。そしてそれら全てを囲むように巨大な城壁がある。

 城壁の配置はまるでユグドラシルを守る様な配置だ。


 また、街には沢山の人々がいた。

 特に商業区には冒険者ギルドや商業者ギルド、闘技場など様々な施設があり人々がごった返していた。

 プレイヤーだけでなくNPCも沢山いたのだが、驚いたのはNPCとの会話を違和感なく出来ることだ。屋台のおっちゃんとの会話が違和感無さすぎてプレイヤーかと思った。

 NPCには頭上のネームプレートと共にNPCと書いてありそれを見ないと判別出来ない程だった。

 ちなみにエーリルの名前にもNPCは付いている。


「エーちゃん今日はもうログアウトしようかな。」

「分かりました、宿屋へ行きましょう!」


 宿屋に向かいながら気になったことをエーリルに聞いた。


「私がログアウトしてる間、エーちゃんは何してるの?」

「アイちゃん様が寝られている間は私も眠りにつきます。ただプレイヤー様は寝る時は姿が消えますが私はそれがが出来ません。」


 なるほど、ここもピクシーを付ける人の足枷ポイントかもしれない。

 プレイヤーはログアウトすれば姿は消えるため、宿屋に泊まらずとも大丈夫だけど、ピクシー付きだとピクシー一人取り残されてしまう。

 安全確保のためにもログアウト時にいちいち宿に泊まらないといけないのだ。


「そっか、でも待っている間寂しいよね……。」

「大丈夫です、待つのには慣れていますから!」


 心配するなと胸を張って答えてはいるが、あいはエーリルが寂しくならないように何か良い方法はないか考えているといつの間にか宿屋へ到着していた。

 チェックインを済ませ二階の一人部屋に入り一息ついた。


「今日はとても楽しかったなー、明日は冒険者登録をして街の外に出てみようかな。」

「いいですね、街の外のご案内もこのエーリルにお任せ下さい!」

「明日もよろしくね!」

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