第6話 ピクシーとジョブ

「え?………あ、アイちゃん?」


 高い天井を見上げていると、横から声がかけられた。

 見ればななちゃん位の背丈で、しかしななちゃんがもつ幼さの残る雰囲気を消して美人ステータスに振った様な子がいた。


「ななちゃん?」

「やっぱりアイちゃんだ、というかどうしたのそのアバター!」

「ふぇ?どうしたのって、一時間かけて作った力作だよ!」


 腰に手を当て自慢げにアバターを見せびらかす。


「いやいやいや、現実リアルのあいちゃんそのまんまじゃん!それだと、現実のあいちゃん特定されてイタズラされちゃうよ、ネットの世界は怖いって小学生の時習ったでしょ!あと、この世界ではウチの名前はぶんたまね。」


 当時の担任の先生が、頼むからネットで間違いを犯さないでくれって言ってた。

 それはもう悲壮感たっぷりで、多分先生は経験者なのだろう


「た、確かに言ってた……。どどどうしようななちゃん!」

「だから名前!ぶんたま!」

「それどころじゃないよななちゃん!アバター変更の方法を探さないと!」

「ぶんたまー!」


「じゃあ、被り物を買いましょう!」


「そっか顔を隠せばバレないね………ふぇ、誰の声?」


 慌てふためいていると、聞き馴染みのない声が聞こえた。ななちゃんよりちょっとピッチが高めの凛とした声。

 だけど、辺りを見渡しても、ななちゃん以外に人影はない。


「下です!」

「した?」


 目線を下に向ければ、足元に手のひらサイズの小人の女の子が手を振っていた。しかし、二対の透明な羽が生えているから人ではないのかな?


「小人さん?」

「自己紹介がおくれました。私、チュートリアルピクシーのエーリルと申します!チュートリアル完了までアイちゃん様のお世話させて頂きます!」

「チュートリアルピクシー?……あ、ここに来る前に設定したやつだ、ちっちゃくて可愛い……!エーリルだからエーちゃんだね。」

「お好きなようにお呼び下さい!」


 エーリルはそう言ってパタパタと羽ばたくと、あいの肩まで飛び着地した。


「アイちゃんはチュートリアルピクシー付けたんだ。」

「ななちゃんは付けてないの?」

「だからここではぶんたまだって!ほら頭の上ウチの名前出てるでしょ?」


 確かにななちゃんの頭の上にはぶんたまと書いてある。

 呼び慣れていてついついななちゃんと呼んでしまうけど、身バレ?しないためにもちゃんとプレイヤーネームで呼んだ方が良いよね。多分これがネットエチケットてやつなのだ。


「分かったよ、じゃあぶんちゃんで良い?」

「ぶんたま様、よろしくお願いいたします!」


 エーリルはぺこりとお辞儀していた。


「まぁぶんちゃんでいいか。エーリルだっけ、アイちゃんのお世話よろしくね?」

「はい!おまかせ下さい!」

「ねぇねぇそれで、ぶんちゃんはなんでチュートリアルピクシーつけてないの?」

「んー……、ゲームの仕様も合わせて教えないといけないから話すとすごく長くなるかも、良い?」


 私が頷くとぶんちゃんは話し始めた。


 ユグユグの世界で個々の強さに直結する要素としてジョブというものがある。

 プレイヤーレベルはもちろんあり、レベルを上げれば確かに強くはなれるが、レベルアップ時のステータスアップ率は全プレイヤー共通であり個々の強さの差別化には成らない。

 そこで、分かりやすく強さの差別化が出来るジョブが重要になってくる。

 ジョブには専用スキルツリーというものがあり、ジョブの熟練度を上げることでジョブ専用スキルやステータスに影響を与えるアビリティなどが解放される。


「そうなんだ。でもそのジョブはどうやって貰えるの?」

「最初のジョブが貰えるのはレベル10になったら。AIがプレイヤーのジョブを決定しているみたい。攻略サイトの情報なんだけど、転送される前にある30の質問、レベル10まで上げるまでにかかった日数、使用武器、倒した生物、クエストクリア回数や所持金、プレイヤー自身の性格や関わったプレイヤーなど全ての要素を加味してジョブを決定してるっぽいんだよね。」

「な、なるほどね、難しい話になってきたね……。でもそれと、ピクシーを付けないのは関係あるの?」

「一部のプレイヤーは最初に貰えるジョブが気に入らなくてリセマラをして、気に入るジョブが出るまでやり続けている中で、回転効率を求めるとピクシーは付けない方が早いという結論になったらしいの。初心者専用クエストをピクシーから受けれるみたいなんだけど、それをやるくらいなら別のクエストやった方が経験値効率が良いみたい。」

「私は邪魔者扱いなのですか……。」


 エーリルが見るからにショックを受けていた。

 ぶんちゃんが慌ててフォローする。


「違うよエーリル!あくまで効率の話だから。ピクシーはプレイヤーにバフをくれたり魔法で援護してくれるし、分からないことも教えてくれるし初心者には心強いサポーターなんだから!」

「私はいらない子なのです………。」


 しゅんとしたエーリルを宥めるのに時間がかかったぶんたまなのであった。



 ☆☆☆



「とりあえず、レベル10まで上げれば良いんだね!」

「そうだね、そこでアイちゃんに相談なんだけど。」

「相談?」

「うん、レベル10になるまで別々に行動して、貰ったジョブを発表し合うのはどう?」

「おーいいね、面白そう!」

「決まりだね。別行動するけど悪い人について行ったらダメだからね?」

「エーちゃんと一緒だし大丈夫だよ!」

「おまかせ下さい、このエーリル命を賭してお守りします!」

「エーちゃん死なないでぇ!」


「この二人大丈夫かな……。」

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