第4話 VRMMO
入学式があった週の土曜日、私は午前中から外出の支度をしていた。下校の時にななちゃんに家に呼ばれたのだ。
どうやら私に見せたいものがあるらしい。
何だろう、お好み焼きの新メニューの試食かな?
私の勘は当たるんだよね。
ななちゃんちゃんの家は山渕お好み屋というお好み焼き屋さんなのだ。
山渕お好み屋は二十年続くお店で地元のみんなに愛されている。
私も結構な頻度でななちゃんちのお好み焼きを食べるし、今では私の大好物になった。
今日はどんなのが食べれるのかな、じゅるり。
まだ午前九時を過ぎたばかり、先程朝食を済ませたばかりだというのに何故かお腹が空く気がする。
それ程、ななちゃんちのお好み焼きが絶品だということだ。
特にななちゃんに焼いてもらったのが美味しい。
というか、ここ最近はななちゃんにしか焼いてもらったことが無い。完全に胃袋を掴まれてしまっていた。
もうななちゃん無しじゃ生きてけないかも…。
菜々子が聞いたら発狂しそうなことを考えながら支度を済ませた。
まだ四月の朝は肌寒いので、もこもこのアウターを着込みデニムのワイドパンツ姿だ。
家を出て、てくてく歩き十秒でななちゃんちに着く。
なんとお隣さんなのです。
ななちゃんちは一階がお店になっていて今はまだ閉まっているので、住まい用の玄関のインターホンを押した。
「ぴんぽーん。」
間も無く玄関が開きななちゃんが顔を出した。
「おはよ!新作メニューの試食に来たよ!」
「おはよー、なんで試食することになってんの。」
「ふぇ?私を呼んだ理由って試食じゃないの?この前はそうだったよ?」
「今回は違うよ!というか、もうあいちゃんに試食は頼まないよ。何作っても、美味しいとか最高とか天才しか言わないんだもん。」
なんてことを言うんだ!ちゃんと思ったことを言ってたのに。
「やだ!ちゃんとそれ以外の感想言うから、捨てないで!」
ななちゃんにしがみついた。
「はいはい捨てないから。もう、小さいのに食い意地はあるんだから…」
そんなやり取りをしつつ、家にお邪魔しました。もちろんななちゃんに引っ付いたままでね。
☆☆☆
「今日、ウチがあいちゃんを呼んだ訳はこれ!」
ななちゃんの部屋に入るなり、私に長方形の手のひらより少し大きめのパッケージを見せてきた。
「『ユグユグ』?このパッケージってゲームだよね。私ゲーム苦手だよ?」
あいはゲーム全般苦手だ。特に、スマ〇ラとかマ〇オカートとか戦うのはからっきしだった。
そんな中で唯一ハマったのがポ〇モンだ。
可愛いポ〇モンを育てるのが楽しいのだ。最推しはビ〇パ。絶対に進化させない。あの悲劇は繰り返してはならない。
「これはね、VRMMOといってゲームの中の世界に入って戦ったりお店を開いたり出来るんだけど、この『ユグユグ』は自由度が凄いらしいんだよ!」
ななちゃんが少し興奮気味に話している。
VRMMOというジャンルに去年一月に新たに発表されたのがこの『ユグユグ』。
このジャンル自体、新興ということもありタイトル発表当初はそこまで注目されていなかった。
しかし、昨年春頃行われたゲーム発表会で激震が起きた。
発表されたタイトルは一つでは無かった。なんとバージョン違いが同タイミングで四種も発表されたのだ。
一つ目は、『ユグユグ〜ガラルシア大陸〜』。
二つ目は、『ユグユグ〜ジーランド大陸〜』。
三つ目は、『ユグユグ〜大和戦国大陸〜』。
四つ目は、『ユグユグ〜アメリジア大陸〜』。
全てが異なる世界で、全てのタイトルで最高の自由度を誇り、それぞれの世界で新たに最高の人生を歩むことが出来る。
そして、もう一つこの『ユグユグ』には大きな特徴がある。それはゲームのバランス調整をAIが全てを担っていること。
この部分に関しては発表会では、詳しくは明かされなかった。
何故このような規模が可能なのか。
それはこれを発表した企業の親会社があのLimeを運営してる、莫大な資金力を誇り莫大な顧客データで他を圧倒するLime株式会社だからだと言われている。
そして正式にリリースされた今年一月から現在既に、プレイ人口は世界で五千万人を突破していた。
そんなこんなで熱く語っているななちゃんが手に持っているのは『ユグユグ〜ガラルシア大陸〜』のパッケージだった。
どうやらガラルシア大陸は剣と魔法の世界らしい。
「発売されてもう四ヶ月経つけど、どのソフトもずっと品切れ状態、ソフトだけならまだしもヘッドセットすら市場から無くなってるんだけど、やっと手に入れたんだ!はいこれあげる。」
ななちゃんはそう言って私にソフトとヘッドセットを渡してきた。
「えぇ、受け取れないよ!手に入れるのに苦労したんでしょ?」
「大丈夫、二つずつあるし。片方のは兄貴のだけど今年受験で一年間ゲーム禁止されてるし。一人でしてもつまらないでしょ?あいちゃんとやりたいな。」
確かに、ゲームは一人でやっても楽しいかもだけど私とななちゃんでやるともっと楽しいかもしれない。
「わかったよ、じゃあ一緒にやろう!」
☆☆☆
「これで良いのかな?」
自宅へ戻りななちゃんが教えてくれた通りにヘッドセットを準備した。
あとは電源を入れて装着するだけのはず。
どんな世界なんだろう、剣と魔法の世界って言ってたから戦うのは難しいかも。でも魔法がつかえるのかな?魔法ってどんな感じなんだろう。
そんなことを考えながらヘッドセットの電源を入れ装着した。
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