第3話 大脱走
二人並んでおしゃべりしながらてくてく歩けば、もう既に学校が目前にある。
始業時間よりも20分以上早く着いた。
「ななちゃん、飼育小屋に行ってみても良い?」
「もちろん!行ってみよう」
二人は到着するなり校舎には寄らずそのままの足でグラウンド脇の飼育小屋へ向かうことにした。
うさぎさん元気にしてるかな?
実は、あいは二度中学校の飼育小屋に来たことがある。
一回目は、昨年の夏休み期間に行われた体験授業の日に、その日も今日のようにななちゃんと一緒に来た。
二回目は、入学予定者の親に向けた説明会の日だった。
その為、中学校ではうさぎが五羽飼育されているのが分かってた。
飼育小屋が見えると、足早に近づいた。
「うさぎさーん………え?」
小声で呼びながら金網状の飼育小屋を覗けばそこにはうさぎ達は一羽もいなかった。
☆☆☆
「おーい、あいちゃーん。もう帰る時間だよー、聞こえてるー?」
「…ふぇ?聞こえてるよ。たこ焼きに天かす入れなきゃって話だよね?」
「そうそう、天かす入れるとコクが出るらしいよ。そもそもコクってなんだろうねって、そうじゃない!」
あー、ダメだこれ。
全然頭が働いていない。
今日の一限目からずっとあいちゃんはこの調子だ。
ぼけーっとしてるあいちゃんも可愛いけど、このままじゃだめだ。
こんな小動物的な可愛いらしさのあいちゃん、こんなんじゃ簡単に誘拐されちゃうよ!
あいちゃんがこんなになっちゃった原因をウチは知っている。
朝に飼育小屋を見に行ったあと、その足で担任の先生へ話を聞きに行ったんだ。
要約すると、昨年度まで飼育部というのがあったらしいんだけど、生徒一人だけの部活だったらしい。
だがその生徒は、昨年度に卒業してしまったそうだ。
お世話する人が居なくなったため、部活顧問の先生と数人の先生で持ち回りでお世話することになった。
しかし、誰かが飼育小屋の扉を開けっ放しで放置し、動物達が逃げて行ってしまったらしい。
うさぎには縄張り意識があるため、最初は学校周りを捜索したが見つからなかった。
自治体の協力を得て捜索したり、警察に遺失物届と捜索願を提出したが結局見つからずじまい。
また、学校側は新たに動物を飼うこともないという。
そして、今年度から飼育部は廃部とし飼育小屋も取り壊されるのが決定したと言う話だった。
話の途中で既にあいちゃんは放心状態だったから、ウチが教室まで連れて帰ってきたんだけど、それからずっとあいちゃんはこの調子だ。
新学期恒例、一限目の自己紹介タイムなんて散々だったなぁ。
ここはウチが一肌脱ぐしかないかな。
「おーい、あいちゃーん。早く帰ろーよ、お好み焼き作ってあげるよ?」
「……ふぇ?…ななちゃんのおこのみやき…たべる…じゅるり」
あとちょっとだ。
「あいちゃーん、可愛いよ」
「…かわいい……かわい…か、可愛い!?」
「お、復活した。」
「や、やめてよななちゃん、ここ学校だよ!」
「あいちゃんがぼけーっとしてるからいけないんだよ。」
顔を真っ赤にしたあいちゃんがプンプンしてる。
まだちょっと元気が無いけど、復活したみたい。良かった良かった。
「ほーら早く帰らないと、お好み焼きウチが全部食べちゃうよ。」
「あーまってよ!すぐ支度するから!」
あいちゃんを完全復活させるにはどうすればいいだろう。
そんな事を考えながら二人並んで帰路につくのだった。
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