第106話 まだ運が良い

 ラーゼ西。

 ガイナル山脈で待機していたのが、タツロウの仲間たちであった。

 潜水艇を付近に隠して、山の麓でタツロウを待っていた。


 「フュン殿。こちらがハリソン・マールックとミュウ・エッジです。俺の協力者の二人で、レガイア国に潜入しているアスタリスクの民であります。ちなみに影ではないです」

 

 白衣を着た男性ハリソンと、服の表側にポケットがたくさんある服を着用している女性のミュウが頭を下げた。


 「よろしくお願いします。ハリソンさん。ミュウさん」


 フュンも頭を下げる。 


 「お願いします」「お願いしま~す」

 

 二人とも挨拶はしっかりと返す人間だった。


 「ハリソン。ミュウ。こちらがフュン・メイダルフィアさん。この人が、太陽の人だった。俺たちの希望だ」

 「そうですか・・・へえ」


 ハリソンが素っ気なく答えると。


 「マジで。いたの。超ラッキーじゃん」


 ミュウは明るく返した。


 「おい。いつもの調子でいるなよ。俺たちの主だぞ」

 「それは知りませんよ。本物のトゥーリーズかどうかなんて。私たちにはわかりません」


 ハリソンは丸眼鏡をずらして、フュンを見つめた。


 「この人なんっしょ。超すげえ・・・本物?」

 

 ミュウはフュンの周りを歩いた。

 警戒しているレヴィはミュウを睨んでいるが、周りを歩かれているフュンは笑顔のままである。

 ミュウから敵意を感じないからだ。

 

 「この人、強そうに見えないけど」

 「ミュウ!! 失礼な事を言うな。余計な一言だぞ」


 失礼な態度だと、タツロウが諫める。


 「はい。強くはないですね。僕はそんなに戦えませんからね」

 「そうなんだぁ・・・でも何だか眩しいね。なんとなくだけど」

 「そうですか。僕って眩しいですかね?」

 「うん・・・なんとなくね」


 ミュウに流れるアスタリスクの民の血が、フュンを認めている。

 主であるのだとなんとなく思うらしい。


 「タツロウさん。この二人は何の技術を会得してるんですか?」

 「はい。ハリソンは技術者です。潜水艇の開発などをしています」

 「え? じゃあ、こちらを攻めるための・・・」

 

 困った表情をしたフュンにハリソンが答える。


 「そうです。しかし、私が開発をしなくても、その内に兵器が開発されるのであれば、構造を知っておきたいと思い潜入しました。あなた方の大陸に直接影響がある事をしなくてはならない。そういう部分では心苦しい所もありますが、内部で情報を手に入れるには、タツロウと連携しなくては上手くいきませんのでね。私が潜入するしかありませんでした」


 フュンはたしかにと頷いた。


 「みぃはね! 戦闘員!!」


 ミュウは手を挙げて答えた。


 「ミュウさんは元気ですね」

 「うん。みぃは、影の力は無理だったからレガイア国の戦闘員になったよ。イエーイ」


 ダブルピースっと言って両手でポージングもしていた。


 「そうですか。それで今回のあなたの任務は、偵察兵の護衛ですか?」

 「そう! よく分かったね」

 「それは、あなたの話を聞けば、大体理解できますよ」


 説明が少ないミュウを理解したことで、ハリソンが感心する。


 「凄いですね。フュンさんでしたね・・・このミュウの言っていることを理解するとは」

 「ん? ハリソンさんはわからないのですか?」

 「はい。言っている事の半分以上が意味不明です」

 「ひっど~~~い。ハリちゃん」

 「痛い」


 肩をどつかれてハリソンがふらついた。

 ミュウの方がパワーがあるらしい。


 「という感じで、俺の協力者たちは緊張感のない奴らでして。申し訳ないです」

 「ハハハ。明るくていいじゃないですか。暗いよりも断然いい・・・あ、そうだ。その他にもいらっしゃったんですよね?」

 「え。まあ、そうですね。消しましたよ。俺がね」


 タツロウは暗殺気味に味方を殺したらしい。

 気付かれない内にダガーで一人一人始末して、海に沈めたのだそうだ。 

 

 「そこまでさせて、申し訳ない。僕らの為ですね」

 「いいえ。これは俺たちの為でもあります」

 「ん?」


 ハリソンが続く。


 「そうです。私たちの為です。レガイア国では、アスタリスクの民。これは禁句のようなものなのです・・・そこにいれば迫害されるのですよ。もしくは、簡単に殺されます。扱いは虫けら以下です」

 「な!? そんな。昔の話で、あなたたちの責任になるのですか?」

 「そうです。アスタリスクの民の強さが怖いのかわかりませんがね。それに、民であるかもしれないという疑いの段階であっても、奴らは簡単に俺たちを踏んできますよ」

 「・・・・なんてことだ。酷すぎる」


 ミュウも続く。


 「そうだよ。みぃのお母さんもお父さんも、あっさり殺されたんだ。レガイア兵士にね・・・みぃだけ地下に隠れたから生きられたんだ」


 とにかく明るいミュウの半生は辛いものだった。

 反動で明るいのかもしれないとフュンは思った。


 「そんな・・・それも酷い」

 「だから、みぃは、アスタリスクの民の戦士になったんだ」

 「戦士?」

 「うん。レガイア国にアスタリスクの民の集落のようなものが何カ所かにあって、そこで皆レガイア人になるフリをする訓練をするの。そして、そこからレガイア国に潜入するんだ。いつか来る。みぃたちのチャンスが来るって、信じて頑張って来たんだよ」

 

 説明を詳しくするために、タツロウが出てきた。


 「ミュウの言う通りでありまして。昔にダイブック・ディーヴァ・スカイ様という方が作った組織がありましてね。そこをアスタリスクの里と呼んでいます。それが各地にあります。それで、今はライブック・ディーヴァ・スカイという方が里の運営を継承して、そしてレガイア国の外務大臣を担当しています」

 「え? そんなに上位の役職に、アスタリスクの民の方が?」

 「はい。ライブック様は身分を偽って潜入しているのです。あの三家と渡り歩きながら、見事に生き残った人物なんです。国の仕事をしている傍らで、皆を匿っているのです」

 「それは・・・敵の中にいながら、味方を守るという事ですね。なんともまあ凄い覚悟ですね」 

 「ええ。そうです。あの方は凄い方です」


 敵の中にいるのに、上位に入る役職に就いている。

 その道のりは、過酷なものであると容易に想像がつく。

 綱渡りのような人生を送り続けている男に、会ってみたいなとフュンは思ってしまった。

 自分もよく考えれば、敵の中に入った経験を持つ男だからだ。

 サナリアから見て、深く考えれば帝国は敵国と見てもいい。

 立場が悪い中で、大国の中に入る経験を持つ人間は少ない。

 自分と似たような人生を送る男はどのような男なのだろうか・・・。


 「それじゃあ、タツロウさんはその人の指示で?」

 「いいえ。指示じゃなくてですね。今回のは、俺がそもそも企画してライ様と協力して煮詰めた計画なんです。これが先ほどもお話したように、一人で帰って、ライ様に報告して、ライ様が各大臣を説得してくれるという流れの作戦になっています」

 「なるほど。それじゃあ、タツロウさんが危険になる事もないですかね?」

 「どうでしょう。危険には変わりないと思いますが、ライ様がいるので、即疑われるようなことはないという意味では、大丈夫であると思います。しかしですよ。この手が使えるのは恐らく」

 「そうですね。一回限りの初回だけ。だから今回が重要だったんですね」

 「はい。だからこそ、命懸けでこちらに来て、一か八かで探したんですよ。でも本当に見つけることが出来てよかった・・運が良かった。タイロー殿が救ってくれなかったら・・・ラーゼに来ていなかったら・・・こうも上手くはいかなかったでしょう」

 「ええ。本当ですね。僕らは運が良かった。あなたたちに会えた事。三人に感謝します。そしてライブックさんにも感謝します。ありがとうございます」


 フュンが三人に向かって頭を下げると、三人は顔を見合わせて困った。


 「感謝します。あなたたちのおかげで、アーリアはまだ負けないで済む」

 「「「え?」」」

 「僕たちは情報を得たんだ。それも重要な・・・」


 頭を上げたフュンの顔が自信に満ちていた。


 「実は相手を知らない。これが一番怖いことなんです。でも、あなたたちのおかげで、僕らは今。そちらの事を知ることが出来た。だから、頑張れる。相手が得体の知れない物から、強大なものに変わっただけだ。だったらまだ戦えるんだ。僕は、まだまだ諦めませんよ。僕らは・・・アーリアは、自由のために戦い。そしてここで生きる。レガイア国に負けつもりはありません。従属なんてしてやるものか。絶対に独立した大陸にしてみせる」


 最後。フュンが言葉を言い切った後。

 彼の笑顔から、眩いくらいの光が溢れた。

 直視できないくらいの太陽の光がここら一帯を照らしたように見えた。

 タツロウたちは、この時に、紛れもなくこの人が太陽なのだと確信したのだった。


 雲一つない青空表情の中での太陽笑顔

 三人は穏やかな光に包まれて体が温かくなった。


 太陽の人。

 それは実在した人間であった。



 

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