第321話 御三家戦乱終戦

 ルイスは悩んだ。

 御三家戦乱の初戦の勝利は予定通り。

 しかし、第二戦。

 勝手な振る舞いをした貴族らのせいで、大敗北を喫して、兵の大損失を起こした。

 これでむやみに兵力を落としたのである。

 でもそれは良いとする。

 なぜならそもそもが敗北してもらうことが前提なのだ。

 貴族としては最悪の結果でも、ルイスとしては良き結果である。

 だがここで、困った事になる。

 勝手に戦いに出て、勝手に負けたのに、貴族らは勝手に戦意を喪失しはじめたのだ。

 戦う意欲を失いつつある貴族の尻に、火をつける作業がとてもめんどくさいと思っても、ルイスは再び勝てるような策を提示しないといけない。

 なぜなら、戦いをすると決めておいて、途中で投げ出しそうになっているのだ。

 これくらいでそんなことを思う貴族らは、本当に要らない貴族たちである。

 最後まで戦う気概がないのなら、最初から戦うんじゃない。

 戦うという決意をするんじゃない。

 という思いを胸にしまいながら、ルイスは悩んでいたのだ。


 「どうしたものか。ここで終わらせないといけないのに・・・」


 自室で一人きりになり考える。

 計略や謀略が上手い彼でも、貴族らの勝手な振る舞いは想定外であるのだ。


 「逆転の一手だとして、次の一手を勝ちになるように見せねばならないな」

 

 勝てる要素を提示しなければ、この貴族たちは今からでも反帝国軍を離脱する。

 ルイスの策は、そのような希望に満ちた作戦でありながら、向こうに負けるという難しいものである。

 だから、ルイスは苦渋で苦肉の逆転の一手を出したのである。



 ◇


 帝国歴510年7月10日


 ミランダは、ウォーカー隊を中心にしてマールダ平原に布陣した。

 彼女が担当したの帝国軍右翼である。帝国軍右翼は、ウォーカー隊ミランダ部隊とハスラ兵シルヴィア部隊に別れていて、帝国軍の最右翼がシルヴィアとなっている。


 「クソジジイ。苦労したな・・・マジでさ。頭が上がらねえわ。足向けて寝られねえだろ。エイナルフのおっさんはさ」

 

 敵を目の前にして、ミランダは、ルイスの苦労をねぎらっていた。

 想像をするに相当頭を悩ませただろう。

 遠目から見ても、バラバラになっている布陣。

 兵を並べるだけでも彼の苦労を感じる。


 「ミラ。お嬢はあれでいいのか」


 ザイオンが話しかけると同時に、ミランダが右を向く。

 隣の部隊の指揮官がシルヴィアであるからだ。


 「ん? あれでいいって、お嬢のことか・・・」

 「補佐がザンカとエリナ。それにマールでいいのかって話さ」

 「十分だろ。むしろよ。今のお嬢はエリナだけで十分だ」

 「マジかよ」

 「マジだ。今回は、エリナに教わって欲しいと思って補佐につけたんだけどよ。ザンカが俺もってうるせえからさ。あっちに入れたのさ」

 「そうだったのか。心配性だなあいつ」

 「そうなんだよ。ザンカ・・・困ったもんだぜ。お嬢は独り立ちしても大丈夫だっつうんだよ。今はエリナのバランス戦闘を学習してもらおうとしてんのにさ。なんか事あるごとに手助けしそうじゃね?」

 「ガハハハ。ありえるわ!」

 「笑い事じゃねえよザイオン。あたしはよ。まだお嬢には、勉強して欲しい部分があんだよ」


 ミランダとザイオンは、ザンカの心配性を心配した。


 「ミラ。あっちにはシゲマサも置いたぞ」

 「おう。じゃあ、もう大丈夫だ。マサムネは?」

 「あいつは影にいれたぞ。それでシゲマサは表でサブロウ組の半分を率いてるぞ」

 「ああ。そうか。サブロウ組ね。じゃあ安心じゃねえか。何をあんなに心配してんだか」


 サブロウ組。

 この戦いから影部隊の中で表に出て、奇襲や先制攻撃をする部隊をサブロウ組とした。

 影の戦いも上手いのだが、表にも出れることで汎用性の高い部隊となる上に、サブロウ組を育てたのがシゲマサであったから、規律性も抜群で、ウォーカー隊で一番の連携具合を誇る部隊である。

 それを今、シルヴィアの近衛兵として配置したので、防御としても完璧であるのだ。

 なのに、それでもザンカは心配しているのである。


 「まあいい。これは・・・クソジジイが苦労して作った戦場だ。お前ら、暴れるぜ。この戦いは全滅が大事だ。いいな」

 「「おう」」


 ルイスが作った戦場。

 それがマールダ平原での大戦争である。

 帝都西、開けた部分での戦闘をすることになった。

 それは、ルイスが貴族らを説得して、この戦争を表向き上でも究極の宣言戦争に変えたのである。


 皇帝に直談判した内容は。

 自分たちが勝利した場合、新たな政治体制での帝国にすること。

 つまりは反帝国軍が帝国を乗っ取るである。

 そして、自分たちが敗北した場合、反帝国軍の解散と貴族特権の剥奪。

 これで、貴族らは大戦争の参加に納得した。


 ルイスが皇帝と話し合いをして実現した大戦争。

 しかし裏取引が最初からあるので交渉自体は確実になされるのだ。

 でも、関係ない者から見れば、凄い無理な交渉をしたように思うかもしれない。

 ここにルイスの素晴らしい戦略がある。 

 彼についていけば、大丈夫なのかもと、馬鹿な貴族共は思ってしまったのだ。

 

 ルイスの巧みな戦略修正により、この戦争が最後となる。

 それにしても、解散と貴族の剥奪だけで済むと思っている貴族らは、想像力が足りない。

 これを思うのは、何もミランダだけじゃなく、交渉をしたルイス自体も思っている事だった。



 現在。反帝国軍は12万、帝国軍は10万の戦い。

 内訳は。

 帝国軍左翼ドルフィン軍5万。内フラムが2万。

 帝国軍中央ターク軍3万。内ヌロが1万。

 帝国軍右翼ダーレー軍2万。内シルヴィアが5千である。

 左から並べると。

 ウィルベル。フラム。スクナロ。ヌロ。ミランダ。シルヴィア。

 この六将が反帝国軍と戦う者たちだった。

 三軍の相手は全て4万の軍である。 

 数の不利があるのはターク軍とダーレー軍だった。

 でも、アージス平原での戦いとは違い。

 ほぼ隣り合わせのような戦いなので、数の有利不利は全体で感じるものだった。

 反帝国軍の部隊配置がそのような配置であるのだ。

 本来ならば、三軍がもう少し離れて戦った方が、各部隊が数の違いを実感できるというのに、頭を使わない配置はおそらく・・・。


 「クソジジイ。めちゃくちゃ苦労してんだよな・・・貴族らが言う事聞いてねえな。こりゃ・・・」


 ◇


 戦争はお昼過ぎに開幕。

 横陣同士の横並びで大激突。

 12万と10万の兵が何の考えもなしにぶつかる。

 だから、割を食うのは左右の端である。

 ウィルベル軍と、シルヴィア軍が最も難しい戦場になるのが通常の戦争であるのだが。

 

 ウィルベル・ドルフィンは巧みな指揮で相手の攻撃をいなし続けた。自分たちの左端から、数の違いが生まれて突撃して来る敵兵士たち。

 それでも、自分の軍の守備を維持できている。

 彼は戦いの指揮を取っても十分戦える男だった。

 

 それに対して、五千の指揮権しか持たない最右翼のシルヴィアは、彼女の指導を受けながらの指揮を取っていた。


 「お嬢。いいか。全体のバランスを見てな。どこが穴になりそうかを事前に予測しておくんだよ」

 「はい」

 「それで、今、ここで負けそうな箇所と、勝てる箇所を見て、そして次に、不安定な箇所を見る。いいか、この三点のバランスを持って戦場を見ると、攻防がきっちりできるようになるぞ」

 「はい。じゃあ、あそこですか。エリナ。あそこに兵を厚く持っていき、防御を構える形で?」

 「そうだ。お嬢見えてるぜ」

 「わかりました。シゲマサ。あそこに入ってください」

 「了解」


 シルヴィアの指示で動くシゲマサは、サブロウ組と共に味方の防御に参加した。

 敵を乱して味方の防衛を楽にする動きを繰り返す。

 するとシルヴィアが担当している場所は敵との戦闘で拮抗状態を維持した。


 「完璧だな。お嬢。出来るじゃねえか」

 「エリナ、ありがとうございます」

 「うんうん。さすがだぞ。お嬢」

 

 後ろにいるザンカが話した。


 「おい。ザンカ。お前何しにここに来たんだ? あたいがいれば、お嬢は十分なんだよ。なんで役にも立たねえ。お前がここにいんだよ」

 「は? 俺が役に立たないだと。俺は見守ってるんだ!」

 「アホか。お嬢に付く隊長は一人で十分なんだよ! あたいで十分なの」

 「俺もいないと。お前だけでは不安だ!」

 「はぁ・・・・こいつ。だめだめだな」


 二人が喧嘩をしていたその頃のミランダは・・・。



 ◇


 「馬鹿かこいつ! 引くなボケ!」


 ミランダは左の崩れた戦場が見えてしまった。

 それはヌロの戦場が押されに押されてしまい。後ろに下がってしまったのだ。

 これのせいで、主攻を務めるはずのスクナロ軍が前に出ることが出来ずにいた。


 この戦いの作戦は、最大火力のターク軍スクナロ部隊がど真ん中を破って、左右を完全包囲する作戦であるのだ。

 だから、中央が後ろに下がっていく形であると、そのスクナロがその位置から突出して進んでいくことが出来なくなるのだ。

 大事な場面に、ヌロのビビりの問題が出てきた。


 「ふぅ。あたしがやるしかないか。サブロウ。ヌロ側にいる敵兵を脅せ。お前の技で、かき乱して来い」

 「了解ぞ」

 「次にザイオン。ヌロの背後から回って、あいつごと前に押し出せ。あいつを先頭にだせ。士気を向上させるんだ。それによってあたしらはそちらの隊列に合わせて前に出る。押し上げることでスクナロが前に出やすいようにするわ」

 「ああ。わかった。いってくる」

 

 ミランダは、逆転の為の作戦を二人に出した。

 

 「クソ。なんであたしがあいつの尻拭いをしないといけないのさ。スクナロと違ってダメだな。あいつよ」


 ミランダは、お嬢のいる右のことは安心して見ていたのに、ヌロがいる左を向くと怒りが湧いてきていた。


 ◇


 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 ヌロは後ろから大声を聞いた。

 

 「ヌロおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 振り向くと大男が走ってくる。

 

 「ひえっ・・・ひええええええ」


 大男が左腕の中にヌロを入れ込んだ。

 すっぽり脇に嵌るヌロは自分に起きている現状を理解できない。


 「いくぞ。ヌロ部隊。前に出ろ。ほらよ。お前らの大将が果敢に前に出てんだよ」


 と言っているザイオンの腕に納まっているだけに見える。

 けど、実際にヌロが前にいるので、兵士たちもつられるようにして前に出た。

 戦列が押し上がると、サブロウの連続クナイ攻撃で、今度は隊列が乱れ始めた。


 「いけるぞ。ほれほれほれ。押せぇ! 隣のスクナロ部隊を支援しろぞ。お前らの兄貴の軍じゃないのかぞ」


 ヌロ軍の状況が好転すると、スクナロ軍が前に出れた。

 スクナロを先頭に、脇のハルクとヴァーザックが突出し始める。

 ヴァーザックは、本来。

 敵の立場であったが、こちらに寝返った人物。

 戦闘系統の家なので、タークが引き取る形になった。

 スクナロはあまり気にしないで引き受けたが、周りはあまりいい顔をしなかった。

 それとこの頃のスクナロは、ヴァーザックが少々変わった人物だなというくらいの印象だけだった。

 

 戦場のど真ん中を突き破ったスクナロ軍は、そこから半分に別れて、包囲に入る。

 すると12万もあった反帝国軍は一気に劣勢状態となり、大包囲戦へと移行してからはすぐであった。

 完全に戦闘意欲を失って、あっという間に降伏した。

 がしかし、御三家は、それを許さず加担した者たちを抹殺する動きをした。

 主要の貴族らを片っ端から殺したと思われた時に、戦場はやっと終わりを迎えた。

 反帝国軍の兵士が三万になってようやく戦いが終わったのである。


 これにて、御三家戦乱が終了となり、長きに渡る帝国の内乱の時代が終わりを告げたのである。

 エイナルフの治世の前からあった内乱は、ここで終わった。

 時代はここから完璧に御三家の時代になったのだ。


 

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