第263話 皇帝の子らの新たな地位

 「なに、入って来てもらうだと・・・・な!?」


 ウィルベルが扉の方にいる二人を見た。


 「あ、あなた……もういいのよ。諦めて」

 「父上……本当の事だったんですね。フュン様の話。半分信じてませんでしたけど、やっぱり帝国を裏切っていたのですね。本当の事だったんだ」


 この部屋にやって来たのは、ウィルベル・ドルフィンの妻シャイナと、その息子バルナであった。


 「貴様、二人を・・・人質か・・・。非道な奴め。家族までもを咎める気か」

 「いいえ。まったく違いますよ。お二人に来てもらったのは、あなたの最期を・・・・あなたの皇帝の子としての終わりを見届けてもらうためです」


 家族を大切にする男フュンの策が最も卑劣であった。

 ウィルベルにとって大事な家族を、すでに押さえていたのだ。

 あらゆる手を尽くすと決めたあの時から、フュンは二人を説得していた。

 

 そして話し合いの末、こちら側に二人を抱き込むことに成功している。

 というよりも、元々この二人はナボルと関連がなくて、話を聞いてもちんぷんかんな顔をしていた。

 その後、二人の話を細かく聞き、更に部下たちを調べ上げると分かったことがある。

 ナイロゼとその直属の部下以外の家臣は、ナボルに所属していないようなのだ。

 つまり、ドルフィン家に所属している者たちは、ナボルとはほぼ関係がなく、ウィルベル自身だけがナボルであった。

 その意図を考えてもよく分からない。

 フュンが調べた中で一番の謎がここであった。

 

 「あなたは帝国の裏切り者・・・・ですが、あなたは家族の裏切り者じゃないでしょ? あなたはどうやらお二人にはお優しいようですしね。お二人から話を聞くに、あなたの事を父として、夫として、とても信頼していましたよ。ああ、それが残念だ。お二人の信頼が勿体ない」

 「・・・・」

 「それでこのままあなたが、色々な事を認めないのであれば、お二人がどうなるかご存じですか」

 「……殺すとでも言うのか」

 「いいえ。殺しませんよ。僕的にはご家族で僕の刑を受けてもらおうかと思ってます」

 「・・・ん?」


 フュンは、紙を取り出した。

 ウィルベルの前に突き出す。


 「こちら、僕のサナリアのアーベンに入ってもらいます。こちらにある特殊牢獄。光の監獄に行きましょう。周りに人がいるのに絶界の場所となっています」

 「……ふ、二人もか」

 「ええ。そうです。でもこれは、お二人の方がこちらに行くと言ってくれました。二人ともあなたの罪を一緒に背負うと決意してくれたのです。あなたとは違い、本当に素晴らしいお二人だ。あなたの家は、本来ならば取り潰します。そしてお二人は死ぬはずです。それは免れない事でした。当然です。あなたのしたことは帝国を危険にしただけでなく、帝国そのものの存在すら危うくしたのですよ。それでは、納得してもらうために、最後の方を紹介します。どうぞ、入ってきてください」

 「わかりました」


 フュンがまた人を呼ぶ。

 返事をした男性が扉の向こうから現れる。

 

 「なに!? なぜだ。なぜお前も生きている!? 死人が生き返りすぎだ・・・どういうことだ」

 

 ウィルベルの前に現れたのは、アージス大戦で死んだはずのフラムだった。

 申し訳なさそうな顔で、皆の前まで歩く。


 「殿下。私はクリス殿から、情報をもらってからですね。アージス大戦で戦死したことにしたのです。そこから、内密にドルフィン家の資料を調べました。こちらを見てもらいたい。ベルナ様と協力して見つけたものです」


 フラムがまとめた資料は、軍の編成。そしてその金の流れ。取り仕切るナイロゼの動きの証拠。

 それら全てに、ウィルベルの押印があった。

 彼は、裏で証拠集めをしていたのである。 

 

 「な・・・わ、私の部屋に入ったのか」

 「ええ。奥の秘密の部屋を見つけました・・・殿下。あなたはなぜ国を・・・裏切ったのですか」

 「・・・フュン・メイダルフィア・・・貴様、ここまでやるのか。あそこに入るのは、家族を突破しないと・・・」


 ウィルベルが睨みつけて言った。


 「ええ。やります。あなたがどれだけ怒っても。あなたがどれだけ家族を大切にしていても。僕はナボルだけは許さない。一生浮かばれない組織にしてやります。それがこの青い煙です。さっきも言いましたが、これは年一回必ず大陸で焚きます。これであなた方が、毎年のように部下を用意しようとも、毒のある彼らは常に捕まっていきます。今後は幹部数名だけの組織になりますよ。たったそれぽっちでは、ただの馬鹿の集まりでしょ。国家を牛耳るに、数人では不可能だ。ただの無能集団と変わりない」

 「・・・貴様・・・そこまで・・・」

 「ええ。全てを懸けて僕はあなたたちを潰すと思っていましたからね。これが完璧なあなたたちの潰し方だ。残りのセロ。シンコ。シエテ。これらがどこにいるかをこちらが知らなくても関係ない。組織が成り立たないですからね。それにあと、彼らがやることは一つとなるでしょう」

 

 三人しかいない組織に意味はない。

 集まる意味すら与えない二段構えの作戦がこのフュンの青い煙に込められた意味だった。

 アルバの文字通り、皆に太陽を与える煙である。


 「僕を殺すこと。これくらいしかやることがありません。でもその人数では出来ません。今の僕はですね。あなたたち如きでは、殺せませんよ。ここにいる皆さんが僕の仲間だから……どうです。皇帝の子らが全員味方になっています。それに太陽の戦士も復活しています。だから僕を殺す事は不可能だ。あなたたちの目標は何もないですよ。帝国や王国。大陸を支配することだって無理だ。何を企もうが意味がない。人間は一人や二人じゃ何もできないです。ナボルは、多くの人間が群がっている癖に、実情は一人一人がバラバラだ。あのスカーレットも一人でやろうとしていましたからね。あなたたちはもっと協力してやるべきでした。一番良かったのはラーゼの時くらいですかね。あれらが最もこちらが苦しかったです」


 ウィルベルが下を向く。

 敗北は決まっている事、ここからの逆転などない。

 全ての証拠が、揃っている現状で足掻くのは不格好。

 だが・・・。

 ここで反乱するしかないのが今の現状でもある。

 皇帝の座を狙うには、殺す相手が揃った今だけ。

 しかし、この場に家族がいてしまっている。

 人質に変わりない二人である。 

 いくら偽りの仮面を被っていたとしても、家族と過ごした日々に偽りはない。

 だから、ここでウィルベルが足掻くのは不可能だった。

 それすらも見越した男が、フュン・メイダルフィアである。


 「ウィルベル。あなたには入ってもらおう。光の監獄にね。こちらのお二人だけは、僕が責任を持って、融通の利く。特別待遇に落とし込みます。一緒に暮らせるようにしてあげますよ」

 「き・・・貴様」


 皇帝がウィルベルに近づいた。


 「すまないな。お前がこうなっているとはな、まさかな。余も、バルナ同様。半分は信じてなかった。だがこうして見ると、やはり敵か。しかしこれは、父の責任だ。ウィルベルよ。それほど皇帝になりたかったか・・・ナボルに協力を仰いでまで」

 「父上・・・」

 「お前は自分で比べてしまったのだな。ヒストリアとエステロとな。あ奴らは、天才だったのだ。お前は、亡くなった二人との差を余計に感じたのだな。でもお前も十分優秀だったのだぞ。戦えなくともよかったのだ。我が子らは必ず戦えないといけない決まりなどなかったのだよ。アン。サティ。リナ。ヌロ。皆戦っていないじゃないか。それとすまないな。ウィルベルよ。もっと早くに対処すればよかったのだな。余の愛が足りなかったのだな……ウィルベル」

 「・・ち。父上?」


 皇帝はウィルベルを抱きしめた。

 優しくそっと。

 

 「ベルナが死んだと思い、ナボルとなったのか? お前は弟想いだったからな。だから自分の子にバルナと名付けたのだものな。ああ、優しい子だったのにな。余が悪かった。すまない。ウィルベル」

 「・・・ち、父上・・・私は・・・・」

 

 二人が抱きしめ合っていると。


 「…ドス。それでいいのか。貴様は、お涙頂戴などで、今までの苦労を捨てる気か」


 ナイロゼが急に叫び、太陽の戦士を振り切った。

 走りながら隠し武器を取り出したナイロゼは、一直線にフュンを目指す。

 やはりここでの狙いはフュンであった。

 思わぬ出来事でもフュンは余裕の態度を崩さない。

 

 「ナイロゼ。悪あがきですよ。やめておきなさい」

 「ここで貴様を玉砕覚悟・・・で・・」


 ナイロゼが、フュンに飛び掛かろうとした瞬間、槍の一閃が光った。

 稲妻のように鋭い一撃がナイロゼの脇腹に入りかける。


 「なんだ。これは」

 「殿下に何をする気だった。貴様」

  

 腹の部分の服が切れる。

 はらりと端切れとなった物が落ちていく間に、ナイロゼのへそ周りが紫色に腫れあがった。

 槍が掠っただけで内出血を起こしていたのだ。


 「ぐはっ・・・なんだこの一撃は・・・お。重い」

 「貴様如きでは、殿下に危害を加えるなんて不可能だぞ。我が殿下のそばにいる限り。殿下は、ナボルの手にはかからん!」

 「ちっ。こいつが・・例の」

 

 ゼファーがフュンの前に立ち、ナイロゼを威圧し始める。

 あふれだす太陽の戦士の力が、ゼファーをより最強へと変化させていた。


 「ゼファー。殺してはいけません。捕らえなさい」

 「殿下。今回はどのような姿でもよろしいのですか」

 「んんん。出来たらそのままがいいです。ラルハンの時とは違う罰を与えたいので」

 「わかりました」


 成長した二人は、どのような状態で捕らえるかまでの余裕があった。

 ゼファーも場数を踏んできている。

 皇帝とその子らの前という緊張感ある場面でも、彼は程良い精神状態であった。

 

 「それではいくぞ。ナイロゼとかいう男。我にかかって来い」 

 「貴様なんぞ、若造に・・・」


 ゼファーと槍が一つも動かない。時が止まったようにして相手の前に立つ。

 今までの彼とは違う。

 落ち着いた戦闘姿勢だった。

 だが、これが逆に妙なプレッシャーを与えていた。

 スクナロ。シルヴィア。ジーク。

 三人の達人もこの構えには舌を巻く。

 自分たちが相手をしていたらと思うと……。

 三人は畏怖していた。

 

 「来ないのか?」

 「・・くっ・・・」

 「こちらから行った方が良いのか?」

 

 ゼファーは槍の構えを解く。

 無防備な直立姿勢になってから。

 

 「それでは、動く!」


 ゆっくりと歩く。

 だらりとした右手に納まる槍は、ゆらりと揺れている。

 先程までのキビキビとした動きとは違い、定まらない動きの槍に、貴様は俺を馬鹿にしているのかとナイロゼが叫ぶ。


 「・・死ね!」


 ナイロゼが自身最速の動きでゼファーの横を取った。

 手を伸ばした先の暗器が、彼の脇の下から心臓を目指す。


 「遅い」


 影にしても動きが良かったナイロゼ。しかし、その動きの全てを見切っているゼファーは、ナイロゼの伸ばした腕を掴む。


 「ぐあっ。貴様」

 「遅すぎるぞ。ナイロゼ」

  

 ゼファーの腕力はナイロゼの上を行く。

 彼の武器が前に進まなくなった。


 「貴様らの剣技・・・人を殺すにしては鮮やかすぎる。太陽の剣技もどきを磨くにしては、綺麗なのだ。しかし、貴様らの剣技は、真の美しさを体現していない。太陽の技とはこういうことを意味する」

 

 ゼファーは槍を捨て、右手でナイロゼのこめかみを正確に殴った。

 そこから殴打の嵐で、ナイロゼの意識をもぎ取る。


 「ば、ごはっ・・・な、なんだこの強さ」


 美しさの中にある暴力性。

 それが太陽の技である。

 人の急所を確実に攻撃するのが特徴で、タイローの龍舞にもそのような恐ろしい面がある。


 「殿下を殺そうとする者。それは万死に値する邪悪な者。だから本来は殺してもいいのだが、殿下が殺すなとおっしゃるのでな。この程度にしておこう」


 ボコボコに顔が腫れあがったナイロゼの腹に。ゼファーがどっしりと座った。

 お尻で相手の体を封じこめる。


 「ぐはっ。い、息が・・」

 

 ナイロゼは呼吸がしにくい状態までいく。

 

 「はいはい。終わりましたね」


 フュンがナイロゼの上から話しかけた。


 「ナイロゼ。あなたの役割。ご苦労様でした。あなたは調略係。当然、残りの人たちの事も知っていますよね。セロとシンコとシエテです。あれらは誰ですか?」

 「知るか」

 「本当に? 知らないのに協力関係なんですか?」

 「我らは互いの事を詳しくは知らん。どこが主な活動域であるのかは、知っているがな。本人がどういった人物になっているのかは一部知らんのだ」

 「嘘でしょ。じゃあ、皇子とスカーレットは? 皆が知っているのでしょう?」

 「ああ、奴らは私が決めた二人だからだ。帝国を乗っ取るために、皆に紹介したから、知っているに決まっている」


 ナイロゼは観念していたらしい。

 内部事情を話していた。


 「じゃあ、他は? シスなどは?」

 「奴らの事は知らん。私の管轄ではない」 

 「そうですか。こいつ使えないですね。かなりの役立たずだ! なんだ。仲間を調べていないのか。とんだ期待外れな男だな」

 

 フュンにしては珍しく思いっきり馬鹿にした。


 「組織に長くいる癖にそんなだったら意味ないですね。まったく、幹部とは言えないほどに間抜けだ・・・んん。違うか。こいつら。仲間を信頼してないんだ。自分の素性を出来るだけ知られたくないんだな・・・それじゃあ、僕に勝てるわけないな。心の内を話せない仲間たちならば、僕の仲間に勝つなんて到底不可能だ・・・まあいいや。とりあえず、罰は与えておきましょうかね」


 色々悩んでいたがフュンは右近を取り出す。

 会話をするのかと思いきや、戦闘態勢に入った。


 「ゼファー。口を!」

 「はっ。殿下」

 

 ゼファーは両足で、ナイロゼの両腕の付け根を踏みつけて、両手でナイロゼの口を開けた。


 「あが? がががが」


 顎が外れそうになるナイロゼは必死に口を閉じようとするがゼファーの力に負け続ける。


 「それじゃあ、もう話す意味もないようですし。今後、その口で誰かを貶めないために、あなたは生涯お話しできないようにしましょうね」


 フュンが、華麗に舌だけを切り落とす。

 その所業は悪魔の所業なのに、斬る瞬間まで穏やかな声だった。

 血が返らない鮮やかな剣技で、舌だけが消える。


 「ごはっ。ごあ」

 「ほい」

 「あああああああああ」


 止血用の棒で地面を擦り火を出して、すぐに消す。

 熱くなった棒の部分で傷口を焼いた。

 存外手荒いフュンである。


 「僕はですね。ナボルには容赦がないのですよ。そう決めているんです。でも殺しはしませんよ。死んだほうがマシだと思う生活をさせてあげます」

 「ぐあああ・・・ごああああ」


 口を焼かれたナイロゼはもう二度と話せない。

 でも生きてはいる。

 フュンは簡単には人を殺さない。

 その選択肢を取る悪魔な天使なのである。


 「あなたは、ウィルベル様と一緒にアーベンに行ってもらいます。ただし、あなたは下層です」


 焼き切った後に、ナイロゼにはそう告げた。

 そして、フュンは別の話も展開。


 「それでは、ドルフィン家の本家は廃します。バルナ様。シャイナ様もアーベンへと輸送します。お二人の決意を尊重するので、ここは願いを聞き入れましょうか」


 バルナとシャイナは本心からウィルベルと暮らしたいと言っていたのだ。


 「なので、ご家族も光の監獄にいきます。ただこちらには段階があるので、あなた方はいちばん人目に触れない。上層に入れますのでご安心を」


 光の監獄。

 それはアーベンにある牢獄で、あの元サナリアの王妃カミラたちがいる場所である。

 カミラたちが入った当時。

 そこは非常に小さな作りであったのだが、現在は拡張されていて。

 広さは二倍以上を誇っている。

 下層。中層。上層。の三種で、段々畑の山のようになっている。

 人々に晒され続ける生活をするのが、一番外側の下層。

 地面の高さが平地と同じ。

 次に真ん中の中層が、やや高い位置にあり。

 そして中心部の上層というと、外からだと見上げるような形なので、下からは見えない作りになっている。

 

 ここは各層で交流が出来るようになっていて、各層は完全な密閉空間にしていない。

 それと現在捕まっている人間たちで上層にいる者はいない。

 カミラやサナリアの大臣たちは、下層の一番人の目に触れる場所で延々と監視されながら生活しているのである。

 中々ハードな生活をしている。

 フュンの刑は、強烈であったのだ。

 それのおかげで、今の彼女らは別人のようになっている。



 ◇


 フュンは、皆に宣言するために体を向けた。

 

 「それでは、皆さんにお伝えします。今ここに全ての王家が集まりました。なので、ここからの帝国を宣言したいと思います。よろしいですか。陛下」

 「うむ。婿殿頼む」


 二人は事前に、今後の帝国についてを話していたのだ。

 全てをフュンに任せていた陛下は、彼に自分の思いを託していた。


 「皇帝から分離した形となっていた王家は一つになります。皇族となります。ですが、王家の名称はそのままとします。皇族が増えるのは忍びないので、皇帝以外のご兄弟は、最大貴族という形で発展させます。まず、ドルフィン家。ここから、ウィルベル様を廃すので、現在の家は無くなりますが、ドルフィン家はもう一つ存在しています。リナ様。こちらを本家とします。よろしいですか」

 「わ。私ですか。ですが、私は、帝国では死んだ・・・となっていますが・・・」

 

 死んだはずの自分が当主になんてなれない。

 リナの先入観が、彼女の柔軟な思考に蓋をしていた。


 「現段階ではそうなっています。ですが、ここからナボル関連の話は、全て公表します。事実を民に知らせますので、リナ様は、敵との戦いの為に、一時死んだふりをしたと周知させます。帝国最大の敵ナボルの殲滅。これの功労者として、リナ様の復活を帝国で宣言します」

 「・・・わ、わかりました。あなた様がそう言うのであれば、従います」

 「はい。お願いします」


 リナ・ドルフィン。

 ドルフィン家の当主となる。


 「次にターク家。ここはスクナロ様が当然に当主です。良いでしょうか」

 「ああ。それはいいのだが」


 スクナロはヌロを見た。

 微笑むヌロに以前のような生意気な態度が無いと見ていた。

 昔とは違い良い男になっていた。


 「ええ。ヌロ様は、お戻りになります。ですが、ヌロ様は裏切り者としての印象が強い。なので、このままレイエフで、スクナロ様の片腕にしてもらえませんか。ターク家の切り盛りをしましょう」

 「・・・いいのか。ヌロ。別名で俺の下につくのか」 

 「ええ。いいですよ。私は、これからもずっと兄上の為に生きます」

 「そうか・・・そうか・・・そうか。そうか」


 スクナロはそれ以上何も言えなかった。天を見上げて、涙をこらえていた。

 これにてターク家の当主はスクナロのままとなる。


 「次にビクトニー家。ブライト家。両家には復帰してもらいます。アン様。サティ様。よろしいでしょうか」

 「え?」「私たちがですか」

 「そうです。内政の家として、ビクトニー。ブライト。ドルフィン。この三家で内政を賄ってほしいからです。僕たちは協力するのです。兄弟の力を合わせて、家族として、帝国を確固たる真の帝国にするのです」


 フュンの真っ直ぐな眼差しに、サティとアンは決意した。


 「わかりましたわ。わたしもやりましょう」

 「うん。ボクもやるよ」

 「ありがとうございます」


 これにて、ビクトニー家とブライト家は、王家復帰となり、皇族となる。

 そしてフュンは次にジークに体を向けた。


 「次に。ダーレー。ここをジーク様とします」

 「俺? いや、シルヴィが」

 「いいえ。ここはジーク様がダーレーの当主とします。ターク。ダーレー。この二つが軍事の家になります」

 「俺とスクナロ兄上がか」

 「はい。この二つに優秀な軍部の者が多い。僕らは、それを大編成して、帝国人として協力し合います」

 「・・・そうか。じゃあ、もしかして君は・・」

 「ええ。まかせてください。ジーク様」

 「わかった。俺が当主となろう」


 ジークは頷いた。

 これにてジークがダーレー家の当主となる。


 「では最後に、シルヴィア」

 「え? は、はい」

 「あなたが、皇帝です。あなたが、ヴィセニアを継ぎます」

 「・・・え? 私が!?」

 「そうです。あなたがヴィセニアです」


 フュンは、シルヴィアに近づいて、目の前で跪いた。


 「シルヴィア・ヘイロー・ヴィセニア。あなた様には、第三十二代ガルナズン帝国の皇帝陛下になってもらいます。この国で初の女性の皇帝です。シルヴィア陛下」


 フュン・メイダルフィアの忠誠に、この場にいた皇帝の子らは驚いた。

 新たなる皇帝は、我が妻シルヴィア・ダーレーである。

 

 

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