第190話 ダーレー軍 編成会議

 出立前のダーレー軍、幹部会。

 戦姫。

 そう呼ぶにふさわしい装束に身を包んだ彼女が前に立つ。


 「前回は、フュンが隊長のウォーカー隊で出撃しましたが。今回は。私に協力してもらいます。混成軍となったダーレー。幹部は特に混成となりました。我が軍の内訳を伝えます」


 彼女の言葉に皆が頷く。


 「私の本陣。ここは兵四千です。ハスラの兵でいきます」


 シルヴィア隊は兵四千。本陣。


 「次に左。ピカナさん。ササラの兵で一万二千」

 「一万二千……そうですねぇ。大軍で移動してきましたね」

 「お任せしますよ。左の局面」

 「ええ。お任せを。シルヴィ」


 ピカナ隊が兵一万二千。左翼隊。


 「次に右。ゼファー。ウォーカー隊で一万二千」

 「はっ」 

 「あなたにお任せします。右の局面」

 「はい。殿下の代わりにお守りします。奥方様」

 

 ゼファー隊が兵一万二千。右翼隊。


 「次に中央。ザンカ。ハスラの兵で一万二千です」

 「ええ。お嬢。お任せを」

 「いつものように頼りにします」

 「はい」


 ザンカ隊が兵一万二千。中央隊。


 「以上です。そこから、ピカナさん。あなたの下に。ミシェル。タイム。ヒザルス。この三人を派遣します」

 「はい。承知しましたよ」

 「次に。ゼファー。あなたの下にはリアリス。シュガ。この二人を派遣します」

 「承知」

 「最後にザンカ。あなたの下にはザイオン。エリナ。この二人が支えます」

 「了解。お嬢」


 各隊長の補佐が決まった。

 彼らが各部隊隊長を補佐する人物たちである。


 「最後に。私の軍の補佐は、クリス! あなたでいきます。よろしいですか」

 「・・・はい」

 

 漆黒の男は、シルヴィアと正反対の衣装に身を包んでいた。

 銀髪の髪にピンクと白が基調の戦闘服なのが戦姫で、漆黒の髪に戦闘服の全てが真っ黒な男性がクリスである。

 この時がクリスの初陣。

 戦争の中でもアージス大戦という大戦おおいくさがデビュー戦であった。


 「クリス。あなたを軍師として、私の隣に置きます。よろしいですか」

 「はい」

 「遠慮はいけませんよ。意見をどんどん言ってください」

 「わかりました。シルヴィア様」 

 「ええ。頼りにします。フュンも期待していますからね」

 「もちろんでございます。フュン様の期待を裏切りません。必ずや成果を残してみせましょう」


 フュン絡みになると俄然やる気を出すこの冷静な男クリス。

 今の一瞬で漆黒の瞳も光り輝いたように見えた。


 「では、どのように戦いましょうか・・・皆の意見。いえ、クリスに聞きましょうか」

 「私ですか」

 「ええ。軍師です。好きなように意見を」

 「それでは・・・」


 すでに意見を持つ男は迷うことなく立ち上がり答えた。


 「分析をするに、各軍互角です。おそらく膠着状態が長いと見ています」

 「ん? ここの部隊がですか?」

 「いいえ。各軍です。ダーレー軍。ドルフィン軍。ターク軍。三軍が膠着状態となります」

 「ほう。前回駄目だったドルフィンは耐えられるのかいな? 小僧よ」


 ザンカが聞いた。


 「はい。耐えます。しかし耐えるのは、ドルフィン家の数の影響じゃなく。フラム閣下の軍の動きの良さで相手を痺れさせると思います。それに中央軍はネアルでありますが、腹心のアスターネとパールマンがいません。おそらくこれは真ん中に来るのが以前のドルフィン家だと思っているからの余裕でしょう。だから中央軍も膠着すると思います」

 「そうなんですねぇ。あなたの予想……ズバリ当たりそうな感じですよね」


 穏やかなピカナはのんびりと答えた。


 「はい。そして、左翼。こちらのターク軍も膠着します。三万対四万の戦いになりますが、あのスクナロ様が黙って前回と同じように動くとは思えません。それに今回、レイエフ殿とナタリア殿があちらに従軍します。なのでこちらとの連携は取れますから、十分互角の戦いをするでしょう」

 「ほうほう。そいつら優秀なのか? 小僧」

 

 ザンカが再び聞く。


 「優秀です。この三年で、ミラ先生とルイス様の指導を受けて、元々優秀だったお二人もまた強くなりました。バランス型のレイエフさんに、情報分析のスペシャリストのナタリアさんがいます。スクナロ様の元々の決断力に力が足されるでしょう。それにあそこの兵たちは強いです。サナリア軍と比較してもまあまあ・・・引けは取らないでしょう」

 「ん? なんだ。その言い方だとサナリア軍が強いみたいな言い方だが・・」


 ザンカが疑問に思った。


 「サナリア軍は強いですよ。帝国一だと自負してます」

 「ほんとか。坊主。戦ってみてえな」


 大人しくしていたザイオンが騒いだ。


 「ええ、この三年。地獄の訓練をしてきましたからね。フュン様を尊敬する者だけで構成された、この大陸一の最強軍です。どこにも負けるはずがない」

 「へぇ。あいつのね・・・たしかに、フュンならばやりそうだな」

 

 エリナが椅子に深く腰かけながら、体を揺らして答えた。


 「そうですね。彼なら、やりかねない。僕とは違って非常に優秀な人で、人望がある子ですからね」 

  

 そう答えたピカナは、ニコニコな顔をしていた。

 子供の頃のフュンの優秀さと誠実さを思い出していた。


 「ピカナさんだって、人望はありますよ。私もジーク兄様も頼りにしてます」

 「そうですか。シルヴィア。嬉しいですけどね。僕は彼ほど優秀じゃありませんよ。ただ人を信じているおじさんなだけですよ。ハハハハ」


 ピカナの笑いに皆が笑顔になる中、一人難しい顔をザンカがしていた。


 「フュン・・あの時の小僧だな。サブロウが目をかけていた」

 「そうです。ザンカ。私の夫であります」

 「ええ。そうですね。さすがにそこまではわかってますよ。お嬢」

 「ザンカもそんなに仲間を疑わないで、この子を信じて。フュンが最も信頼する軍師です。我々を勝利に導きますから」

 「そうかい・・・わかった。お嬢がそこまで言うのならこの小僧を信じよう」

 「ええ。お願いします」


 二人が話し終えると、クリスが悠々と話し出す。


 「そしてこちらのダーレー軍の話に入ります。実は、ザンカさんと、ピカナさんの部隊が苦しい立場に入ります」

 「なに? 俺の部隊が?」「僕もそう思いますね。僕が大将なのが怖いですもん。あははは」


 対照的な受け答えの二人。

 自信のあるザンカが若干怒り。自信のないピカナは笑った。

 

 「ええ。それは、目の前の相手が強いです。パールマンとアスターネが相手となります。そこを抑えられるかが、勝利へのカギとなっています。お二人はかなり難しい立場です」

 「そいつらが強いと? そう思うのか小僧」

 「ええ。思います。あの二人はネアルの腹心で最強の軍隊長です。こちらも必死に戦わねば勝てません。前回。あの二人がネアルの率いた中央軍にいたから、こちらの中央軍が完敗したと思っています。あの二人さえいなければ、まだフラム閣下は戦えたでしょう」

 「それほどの奴らか・・・俺は大丈夫だが」


 ザンカは、ピカナを見た。

 へらへらと笑う彼に不安を覚える。


 「僕ですか。そうですね。僕としては心配してないですよ。僕の元には、ミシェル君にタイム君。それにヒザルスもいますからね。大丈夫大丈夫」

 「私がピカナさんをお守りします」

 「僕も同じくです」


 ミシェルとタイムが同時に言った。


 「は~~ははっはははは~。この俺。ヒザルスがいる限り、ピカナには傷を負わせませんよ。皆さん。私が魅せてあげましょう。この華麗な私が、華麗にピカナを守るとね!!!」


 俺なのか、私なのか。定まらないヒザルスは自由に発言した。


 「はぁ。相変わらずだな。ヒザルス」

 「ザンカ。お前も相変わらず心配性だ。オレンジの姫君に良く言われていたな」

 「なに!? 俺がか。どこが心配性だ」

 「心配性だぞ。お前はな。知らんのか自分の事を」

 「なんだと」

 「・・・お前はまだシルヴィアをお嬢、お嬢とか言って、そばを離れなかっただろ。子離れしろや。心配性」

 「んだと・・・貴様・・・」 

 「ほれ、それ以上は言い返せんだろ。お前はそうなの。いつもシルヴィアが心配で、そばを離れんかったのさ。ザイオン。エリナ。サブロウ。シゲマサ。あいつらはシルヴィアが一本立ちしていると思っているから離れたんだがな。お前とマールだけは心配し過ぎなんだよ」

 「なんだと」

 「はいはい。やめなさい。ヒザルス。ザンカ。口喧嘩はここまでです」


 シルヴィアが制止したことで喧嘩が止んだ。

 睨み合っている二人を置いて話は進んでいく。


 「二人とも、クリスの話がまだですよ。クリス。続きをどうぞ」

 「はい。シルヴィア様。再開します」

 

 ごたごたがあったのに、クリスは冷静に続きを話し出す。


 「なので、お二人の正面軍が厳しいために、ここはゼファー殿にお任せして欲しいです。主攻はゼファー部隊。これで相手を倒す機会を待ちます。それと狙います。タイミングをね」

 「狙う?」

 「ええ。膠着することが予想されるのであれば、あらかじめ膠着するのだと思っている方がいいです。いいですか。こちらはその膠着状態をあらかじめ頭に入れておくことで、その状態になった時に当たり前の事象だと納得するのです。そうなれば、私たちは緊張状態を維持できます。しかし、相手がそこを考えていない場合、相手は油断はしなくとも緊張状態が切れると思うのです。戦争中、戦っている最中に気を抜く。これが一番の隙を生みます。この隙のタイミングで、ゼファー殿が出撃します。目の前の部隊をぶち破り、相手を急襲する策を取るのです。そのタイミングは、こちらの本陣がやります。シルヴィア様が上げる狼煙をよく見てください。それで決着を着けます」


 クリスの案を聞いた皆が頷く。

 策としてはシンプル。

 命令が複雑じゃない分、混成軍になったダーレー軍にとっては好都合である。

 

 「そうですか・・・クリス。それ以外の策は」

 「当然あります。ですが、ここでお伝えすることもありません。状況が変化する次第で可変するのです。今全てをお伝えして、皆さんを混乱状態にするのは良くない。今は一番勝てる手をお伝えして、一番わかりやすい策であるこの策を提案したのです」

 「なるほど。わかりましたよ。クリスありがとう」

 「はい」


 淡々と話していたクリスが後ろに下がった。


 「では皆さん、よろしくお願いします。我が軍は、この戦いで魅せねばなりませんよ。帝国にダーレーありと! だから勝ちましょうね。皆さんの力で! いいですね!」

 「「「「おう!!」」」」


 ダーレーの隊長たちは荒々しく返事を返したのだった。

 戦いはもうすぐそこまで来ている。


 

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