第182話 太陽を沈ませない
「馬鹿者が!!!!!!!!」
耳が壊れるくらいの音量でソフィア様のお父上が、目の前にいるソフィア様を怒鳴った。
風が吹くくらいの風圧も感じました。
「どこに行ったのだ!」
「・・・・・・・・・」
怒った顔の長に、不貞腐れた顔のソフィア様。
「ここから出るなと言っていただろうが」
「・・・だ・・・だって」
「ん?」
「だってつまんないんだもん。こんな狭い所にいたら、つまんないんだもん」
「つまらんじゃないわ。何してんだ」
「じゃあ、なんでこんな場所に閉じ込められるのよ。つまんないに決まってんじゃん。私、太陽の人って言われたよ。なによそれ!」
「お前・・・それをどこで」
「なんなの。太陽の人って、知らないよ。そんなの」
「・・・そうか。わかった」
サンリーズ様が急に大人しくなった。
立ち上がって場所を変えようと言った。
「こっちに来い。レヴィ。お前もだ。お前にも聞いてほしい」
「わかりました。長・・・」
「うむ。お前がいれば安心だ。こ奴だけでは恐ろしい。ああ、今後が本当に怖いわ。胃が痛い」
「なによ。ひどいわね」
「うるさい。いちいち。うるさい。口を取ってしまえ。馬鹿娘」
「ふん!」
と言いながら、ソフィア様もサンリーズ様の後ろを歩いていた。
怒っていても素直に言う事を聞くあたりがソフィア様らしい。
会議室に到着すると、早速長が話しかけてきた。
「レヴィ。覚えておいて欲しい」
「はい。長」
「お前がなぜソフィアの従者なのか。そして、お前がなぜ太陽の技を覚えたのかをだ」
「え・・はい」
「いいか。これは本来。こ奴が長の自覚を得た時に教えられるものだ。他の者たちも太陽の戦士になった時に教えられるものだ・・・だがしかし、今回は特別だ。お前たちは会ってしまったのだな。別れたアスタリスクの民たちに・・・」
「アスタリスクの民?」
「そうだ。あちらではどのように伝承されているのかは知らないが。我々は別大陸から来た」
「それは知ってます」
「うむ。それは教えておる。ただ、我々は、本来アスタリスクの民と呼ばれる民なのだ。この刻まれし紋章に、意味がある」
長は、右腕にある紋章を私たちに見せた。
「それに何か意味があるのですね。私にもありますが」
「うむ。そうだ。お前もいずれ太陽の戦士になるから刻まれている。いいか、二人ともそこに座れ」
長の部屋に入って、私たちは長の前の席に座った。
「我らのなり立ちを説明しよう・・・」
長は私たちに多くを語ってくれた。
それは先程私がフュン様にお伝えした事とほぼ同様の事をです。
そして、最後の方はとある事実を述べてくれました。
「我らは、一度。戦っている」
「ん? 戦っている?」
私が聞くと、長は穏やかに私に教えてくれた。
長は、彼女に厳しいのですが、私には優しかったのです。
それと民に対してもお優しい方でした。
「そうだ。我らドラウドとナボルは、百五十年ほど前に、バルナガン付近のサナリア山脈の方で戦っているのだ。当時の戦力はこちらが五百。あちらが三千だ」
「ろ・・六倍!?」
「ああ。それでも、こちらが勝った。全滅させたようなのだ。奴らは太陽の技を完璧に使えなかったらしい。まあ、そうだろうな。奴らには太陽の人がいない。我らと別れて百年。あちらの技は影の技に近くなっているようなのだ」
「影の技?」
「ああ。影の技とは、アスタリスクの民の一部だと言われているヤマトの技だ。傭兵集団の忍びと呼ばれる者たちが使う技だ。あれらは、闇に乗じる技でな。隠れる以外に様々な技を使用する。偽装工作など、手が器用であるとも言われているな。当時の奴らは、太陽のなれの果て。ただな、奴らは数が多いのだ。気を付けるべきである。今もいるとしたら多いと思うぞ」
「・・そんな敵が・・・いるかもしれないと」
「そうだ。それでだ。お前たちが会ったという奴らに、蛇の刺青があったのだな」
「はい。ありました」
「・・・・・・・そうか。その特徴はもう・・・ナボルだな。もしかしたら、ここも狙われるか・・・念のため、移動を視野に入れねばならんか。どうするか。それをするには、あらかじめ大陸に派兵して、調査を・・・」
長は悩んでいた。
その悩み具合を見て私は、自分たちのせいで、この里も危険になったのだと、その時に反省と後悔をしました。
私は暗い表情になっていましたが、長は悩んでいても明るく話しかけてくれました。
「レヴィ。お前は戦えたか」
「はい。竜爪で、一人殺して、一人捕まえました」
「うむ。さすがは我らの中でも最強戦士格になる器よ。偉いぞ」
「いえ。そこまで褒められるわけには・・・」
「いいんだ。お前がいたおかげで、この馬鹿娘は・・・って、おい!」
やけに静かだなと思っていた私。
長が急に大声を出したので、隣をみると。
「zzzzz」
ソフィア様は寝ていた。
話が長すぎて、疲れたのであります。
それと、色んなことがラーゼでありましたから、疲れが溜まっていたのでしょう。
すやすやと眠っているのでした。
「はぁ。長。もうしわけありません。ソフィア様はお疲れのようです」
「そうみたいだな・・・すまないな。お前には迷惑ばかりをかける」
「いいえ。迷惑だとは思ってませんよ。私はソフィア様が好きですから」
「そうか。ありがたいな。お前のような者がそばにいてくれてな。ありがとうレヴィ。すまないがソフィアを頼んだ」
「はい。長。おまかせを・・・」
ニッコリ笑う長は、本当にソフィア様を愛していましたし。
私の事を信頼してくれていました。
とても度量のある。お優しい長でした。
もしかしたら、トゥーリーズの家の人たちは、このような家系なのかもしれません。
初代もこのような魅力で、ロベルトを統治したのかもしれません。
それにあなた様も……同じですフュン様。
あなたにもこういう魅力があります。人を魅了する力を持っているのです。
太陽の人は恐らく皆、同じ力を持っているのです。
人懐っこさという力です。
◇
ここから、数カ月後。
事件の始まりは、里の見張りの兵の声からでした。
「船団が来てる!? 何かが来ている長!」
「なに! 敵か・・・」
私とソフィア様も、見張り台から海を見てみました。
中型の船二十隻。
私たちのドノバンに向かってきました。
目の良い私たちは、その船の中から見つけました。
乗っていた兵士の中で、一人だけ見たことがある男。
それがビジューでした。
「あれは、ビジュー?」
「そうだ。あの時、ヒストリアのそばにいた」
「・・・待ってください。あの刺青・・・あれはまさか」
私は敵の印を見つけました。
ビジューや、その傍にいる奴らにも刺青がありました。
「ナボルか・・・しかしあの数。一隻に相当いるな・・・どれ・・・・ああ、約八千。ナボルとはこれほどの戦力を持っているのか」
長がそう言って焦っていたのが分かった。
ドノバンにいる人が四千でも、我々ドノバンが持つ戦力は六百程。
それも現役を退いた人が百はいる。
実質五百では、あの八千を止めることはできない。
「間違いない。あの数で攻撃をしてくるというのなら・・・我々の全滅が目的・・・ナボル。今の奴らはあれほどの戦力を持っているのか。移動先が見つからなかったのがまずかったな。しかし、どうする……でも、そうか。ここでほとんどを叩けば・・・」
長は深いため息と共に決意した。
私に向かって言ってきた。
「何があろうとも、ソフィアを頼む。レヴィ。よいな。ガルシュの指示に従え。脱出路を作り出すはずだ」
「だ、脱出路?」
私が慌てていると、長は続きを話し出した。
「二人ともここでさらばだ。ここから当主はソフィアだ。よいな。生きよ。太陽の意思さえ生きていれば、我らは再び集結できる。トゥーリーズの血が皆を呼ぶだろう。ガルシュの指示をもらえ。長が、Cプランを発動させたと言え。バラバラに逃げよと伝えよ」
「・・・わ、わかりました」
「ソフィア。生きるんだぞ」
「その言い方嫌。お父さん。死ぬ気なのね」
「ふっ。死なんぞ。儂の魂は死なん。常にお前のそばにいるぞ。新たな太陽のそばにな。さあ、いきなさい。ソフィア」
「いや。私も残るも・・・あ、れ。レヴィ・・なんで」
ここで私が手刀でソフィア様を気絶させました。
長も準備をしていましたが、それでは親子にとって良くないので、私が気絶させたのです。
「すまない。レヴィ。儂がやらねばならないことを」
「いいのです。ここは私が・・・長、ありがとうございました」
「ああ。ガルシュから指示をもらえ。父からな」
「はい。長、今までお世話になりました」
「うむ・・・レヴィ、頼んだぞ」
「・・・はい。長・・・」
泣きながら私は、ソフィア様を背負って、見張り台から降りました。
それが優しい長との最後の会話でありました。
◇
下に降りて作戦室にいた父。
私は挨拶をして会話に入る。
「父様」
「レヴィか」
「Cプランだと。長が。そしてバラバラになって逃げろと」
「そうか……わかった。小舟をすべて出す。住民をこちらにまとめろ」
「はい」
ガルシュ・ヴィンセント。
私の父にして、長の右腕。
厳格で自分に厳しい人でありますが、他人には厳しくありませんでした。
口数は少ないですが、里の人たちとは良好な関係を築いていました。
Cプラン。
Aは全面戦争。Bは退却戦争。Cは緊急退避である。
それもCプランの逃げる作戦は、重要人物の保護を基準とした脱出。
だから、この逃げる作戦はこうなる。
全ての船がバラバラの航路で出て行く中、大外を回って移動する私とソフィア様。
どれにソフィア様が乗っているのか分からないように敵の目を欺きながらの移動で、私たちは脱出しました。
船の上で私は煙が出るドノバンを見ました。
「里が燃えてます・・・皆さんが・・・」
私が悲しんでいると。
「んんん」
ソフィア様が起きた。
「あ・・・あ、里が!」
「ソフィア様!」
船から降りようとするので、私が止めました。
ソフィア様は動揺してました。
「わ、私のせいな・・・・・私があいつらを引き連れたんだ・・ビジューって奴が敵なら・・・全部行動が筒抜け・・・だったんだ」
「そうですね」
「な、なんで冷静なの・・・私のせいだよ。私が、お父さんも・・・おじさんも・・みんなも・・・あなたはなんで責めないの」
「大丈夫です。父も長も。立派に役目を果たします。そして、この住民たちもです。皆が生きることはないかもしれません。でも生き残れます。一人でも多くのドノバンの民が。必死に逃げているのです」
「・・・ぜ、全滅が避けられれば、それでいいの・・そんなのおかしいじゃない」
「おかしくありません! あなたが生きていれば、私たちは、大丈夫。それがドノバンの民。それがこれでしょう。
私はソフィア様の紋章に指を指しました。
あなたはこれを持つ、皆の当主である。
立ってください。あなたが当主になるしかないのです。
という願いを込めて・・・。
「わ・・私にそんな価値ない。皆が死んでもいいなんて」
「あります。だから前を向いて歩きなさい。あなたは皆の太陽なのです。今日は沈んでも、明日は日の出とならねばなりません」
「・・・・・・」
里へと向かった敵二十隻の内。十八隻が上陸していた。
その敵の数は約八千ほど。それに対して里に残ったのが五百の戦士。
残り百の戦士は住民が逃げる際の囮役を買っていた。
敗北確実の戦で、私たちは戦っていた。
でも、島に上陸した十八隻の船が、私たちを追いかけることはなかった。
だから、長たちの奮戦があったと予想される。
そして敵の残り二隻の船だけが、こちらの住民たちの船を追い回して、次々と撃破していくのだが、こちらだってただではやられない。
ソフィア様が乗る船が分からないように移動しているのです。
太陽を守るため。
私たちは命を懸けてナボルに対抗しました。
船が一つ。二つとやられていく。
その姿を見るたびに、ソフィア様は泣いていました。
自分のせいで皆が死んだのだと・・・。
後悔の嵐に、身を引き裂かれたのでした。
しかし、こんなことで、彼女の魂は消えてはいけないのです。
彼女が皆の太陽なのですから、沈んではいけないのです。
必ず明日の日の出にならねばならないのです。
それが、太陽の人の宿命なのです。
―――あとがき―――
太陽の戦士は、かなり強いです。
ただし、太陽の人。
当主を良く思っていないと力を増幅できないので、当主の魅力や才能が重要になってきます。
まあ言ってしまえば、酷い当主だと太陽の戦士は弱いのであります。
現実の世界で言えば、酷い指揮官や上司にはついていけない。
個人のやる気に関わる問題ですね。
誰がこんな奴の言う事を聞くかと思った瞬間に力が出ない形です。
全体のモチベーションダウンは、仕事やスポーツでもハイパフォーマンスを出せないでしょう。
自分の力以上の力を引き出せない。
もしくは本来の力まで力を出せない。
ファンタジーの世界観ですが、そんなイメージです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます