第175話 暁を待つ三頭竜と夜を彷徨う蛇

 私たちアスタリスクの民の中で、太陽の戦士と呼ばれる特殊兵がいます。

 そして、その戦士たちが本当の暁を待つ三頭竜ドラウドなのです。

 私たち暁を待つ三頭竜ドラウドは、ある紋章を体に刻みます。

 かくいう私の体にも紋章があって、私は左肩の後ろにあります。

 ちなみにソフィア様にもありました。

 彼女は戦士ではありませんが、頭領なので紋章を持っていました。

 彼女の太ももの内側に紋章があります。

  

 紋章の絵柄は黄金の三つ首の竜です。

 たしか、首は左から、過去、現在、未来を表すと。

 三つの概念を表していると聞かされたような気がします。

 すみません。ここは曖昧であります。


 暁を待つ三頭竜ドラウドの紋章は、おそらくワルベント大陸にあったトゥーリーズ家の家紋とかだったのでしょう。

 詳しくは語られていませんが、この紋章が我々の誇りであります。


 二百年以上前。

 辺境伯になったソルヴァンスは、帝国でも重要な役職に就いたことに自分でも驚いていたようです。

 ですが、当時の皇帝フィシャーが、彼を自分の片腕にと、熱望した結果に起きた出来事が辺境伯となった経緯らしいです。

 当時の帝国は東半分の大国ではなく、現在の帝都よりも上。

 大陸北東部を支配する国でありました。

 まだ小さい国土の中でも、いくつかの反乱があり、大変なことになっていたそうです。

 そこに、たまたまソルヴァンスがやってきて、今のラーゼとバルナガンの間にあった大都市を掌握したので、帝国の内乱の勢いが止まることになったというのが、辺境伯になった経緯であります。

 彼の功績が多大なものになり、辺境伯とならざるを得なかったというのが当時の帝国の見解らしいです。

 

 そして、そこからのソルヴァンスが、帝国と因縁がある男となっています。


 辺境伯になったソルヴァンス。

 自分の部下に置いたのが元よりいた家臣たちだった。

 つまり、ワルベント大陸から一緒に逃げてきた仲間たちをそのまま家臣団にして、領地を治めました。

 彼が領主であったロベルトは順調に成長したそうです。

 当然です。

 元よりどこかの国の王か領主であったようなので、彼は統治者としての才覚があったのです。

 だから、ここから問題が起きました。

 それは彼が治めた領地が帝国の中でもずば抜けて強かったのです。

 家臣も、兵も、内政も、成長も。

 何もかもが帝国の中で優秀な位置に入ってしまい、他の者たちからの嫉妬の嵐にあいました。

 嫌がらせなども受けたのでしょう。

 ですが、幸いにもソルヴァンスは、皇帝フィシャーに気に入られていたので、誰も彼に手を出すことが出来なかったのです。

 つまり。皇帝の庇護が強かったのですね。

 

 しかし、そんなことをいつまでも許してはくれませんよね。

 いつの時代も貴族というものは見苦しい。

 フュン様が参加した貴族集会のような出来事が、当時は多々起きていたらしいのです。


 そこで、領地にあらゆる嫌がらせがきて、領土管理が上手くいかなくなり、しかも連絡手段などでも嫌がらせを受けてしまい、中央と地方での行き違いが生まれて、ソルヴァンスは帝国から離れるしかなくなったのです。

 これも苦渋の決断だったらしいです。

 そしてここで、彼は親友の為に、自分の優秀な部下たちを国に置いたそうです。

 それが、今の皇帝直下の諜報部隊暁を待つ三頭竜ドラウドとなっています。

 彼らを、皇帝に残してあげたことで、帝国の裏側を支える組織となったのです。


 しかし、この出来事で、別の組織が生まれてしまいました。

 自分たちが迫害を受けたのに、なぜ帝国に忠義を尽くさねばならないのか。

 こう考えた者たちの中から、夜を彷徨う蛇ナボルが生まれてしまいました。

 実は、あの闇は太陽から生まれたのです。

 彼らはソルヴァンスと別れて、独自で動くことになりました。

 ですから、夜を彷徨う蛇ナボルとは、暁を待つ三頭竜ドラウドやアスタリスクの民、又はロベルトの民から派生した組織であります。


 ソルヴァンスと別れた皇帝直下の暁を待つ三頭竜ドラウドは、帝国を守るために影に潜む者となり、皇帝を裏から支える者たちとなりました。

 ただし、皇帝は太陽の人ではありません。

 なので、こちらの暁を待つ三頭竜ドラウドたちは、本来の強さを出せません。

 太陽の人がいて、初めて暁を待つ三頭竜ドラウドは本当の力を発揮するからです。


 そして、夜を彷徨う蛇ナボルは、帝国の影に潜む者たち、帝国に復讐を誓った者たちで最初は構成されたのです。

 ですがこちらも太陽の人を失ったので真の力を失いました。

 それくらい太陽の人は重要なのです。

 それは分かって頂きたい。フュン様。

 実感がないでしょうが、あなたがその太陽の人なのです。



 ◇


 そして、それらが当時の彼らの考え方です。

 現在の夜を彷徨う蛇ナボル又は皇帝の暁を待つ三頭竜ドラウドたちが、どのような事を思っているのかは、わかりません。

 ですが基本はこのような事を考えているでしょう。

 それと両者は二百年の時が流れたことで、もはやこの歴史を知らずに行動を起こしている可能性があります。

 一時戦いの歴史が途切れた事実があり、互いに歴史の闇に隠れた時期がありますからね。

 互いの存在を知らない時期がありました。

 かくいう私も、若い頃は存在を知らず、ぶつかって初めて存在を知ったくらいですからね。


 そしてですが。ここでお伝えするのは、本来の暁を待つ三頭竜ドラウドです。

 本来、私たちは太陽の戦士と呼ばれる者たちなのです。

 皆の意識を統一して、体に刻んだ紋章を頼りに、当主である太陽の人を盛り立てながら、一緒になって戦う。

 それがワルベント大陸のアスタリスクの民たちの太陽の戦士。

 暁を待つ三頭竜ドラウドであります。

 だから、太陽の戦士は当主がいなければ、本当の力を発揮しません。

 私の太陽の技が強い理由は。

 私には、あなた様という太陽がいるからです。

 他の太陽の戦士は、あなたの存在を知りませんから、彼らが生きていたとしても、本来の力を発揮することはありません。

 ですが、あなたという太陽の人が生きていると、彼らが知れば、彼らもまた強くなります。

 思いの結びつきで力を発揮する戦士。それが太陽の戦士なんです。


 そして、夜を彷徨う蛇ナボルは、皇帝の暁を待つ三頭竜ドラウドも、真の暁を待つ三頭竜ドラウドの事もおそらく理解していません。

 本来の私たちというのは、皇帝とは別な組織なんです。

 太陽の力を得ている別大陸人の末裔なだけなんです。

 でも奴ら夜を彷徨う蛇ナボルにとってはどちらも目の敵。

 暁を待つ三頭竜ドラウドであれば、どれもこれもが敵だと思っている。

 皇帝の暁を待つ三頭竜ドラウドのことも、今やろくすっぽ知らないというのに、いっちょ前に私たちを殺そうとしてくるのですよ。

 それは何故か……私たちが、奴らの影に唯一対抗できる組織だからです。

 私たちの力はそれほど凄まじい。

 奴らが恐れるのは太陽の戦士。それも真の力を発揮した太陽の戦士です。

  

 だから、奴らが最重要人物として見つけ出したいのが・・・。



――――――――――


 「僕ですか!」

 「ええ。そうです。あなたが正統後継者ですからね。あなたが太陽の人であります。そして、太陽の戦士一人一人を結束させることが出来る人物だとして、間違いなく殺したいのでしょう」

 「な、なるほど・・・でも、僕が暁を待つ三頭竜ドラウドだと何故分かるのでしょうか!? 僕はただのサナリアの王子だった人間・・・正統後継者など気付くはずが・・」


 フュンは当たり前の疑問をレヴィにぶつけていた。


 「それは、気付かれてしまったのです。ソフィア様が暁を待つ三頭竜ドラウドの長であることを。そして、あなた様がそのお子であることをです」

 「・・・そ、そうなんですか」

 「ええ。それであなたは三度。命の危機が訪れていましたが。全てはこちらのお仲間の方たちで対処できる程度のものでした・・・ですが、これから先はそうもいかないでしょう。本格的に狙ってきます。あちらにも自信があるようでしてね。私も今まで影ながら潰していたのですが。そろそろ私も皆さんと連携して敵を潰さねばならないと思いまして。出てきた次第であります」


 レヴィは、周りの仲間たちの方を見た。

 皆の顔は決意ある顔で良き顔であると、レヴィは珍しく微笑んだ。

 フュンを守る気概を見せてくれている。


 「それとあなたたちは影の技と私の技を勘違いしている。私の技は、影に隠れる技ではないのです。これは太陽の中に溶け込む技なのです。サブロウ。あなたの技が、本当の影の技であります。あなたと私。似ているようで技が違うのです。あなたの影移動は、ヤマトの技。忍びと呼ばれる特殊傭兵が使用する技です」

 「忍びだと・・・なんぞそれ?」

 「知らないのですね。私の技は太陽の技。これは、暁を待つ三頭竜ドラウドが修練する技です。そして、太陽の技はこの存在を消す技以外にも、通常の剣技があるのです。太陽の剣技がです」

 

 フュンが呟く。


 「太陽の剣技? まさか、敵の剣技は・・・」

 「そうです。夜を彷徨う蛇ナボルの剣技も、元々は太陽の剣技です。おそらく向こうの剣技は少し邪道になっていると思いますが。暁を待つ三頭竜ドラウドから派生した流派ゆえに、剣技に華麗さがあるはずです」

 「・・・そうか、そういうことですか。なるほど、僕を殺そうとしてきた人たちの動きが華麗だったのは、そういうことですか。どこか暗殺術のような技じゃなかったんですよね。荒々しさがなかったのは、そういうことですか」

 「ええ。そうなのです。そして、暗殺術というのはどちらかというと、こちらのサブロウが持つ技です。彼の技が忍びの技ですからね。偽装術などの技もそちら側の技です。あれらは、太陽の技にはありません」


 レヴィが、サブロウの事を指さして発言していた。

 

 「お、おいらの技が・・・忍びの技・・・」

 「そうです。影の技です。ヤマトは傭兵集団。ワルベント大陸では傭兵家業をしていたと聞いています。ですが、この度こちらに来たということは、あちらの大陸で何らかの事が起きたのでしょうね」

 「たぶんそうぞな。ジジどもは、そこを何も教えてくれなかったのぞな」

 「ええ。たぶん辛い思いをしたのでしょう。言い伝えが残らない部分には、個人の感情が入る場合があります。我らアスタリスクの民も似たような部分がありますからね」


 アスタリスクの民にも、口伝以外で残して欲しかった歴史があるのだ。

 ある地点の歴史がない部分、そこにある無念さが伝わってくる。


 「つまり、夜を彷徨う蛇ナボルの使う技は太陽の技なんだけど、その技が不完全。だから、サブロウの影の技の方が真の技だから、相手はサブロウには勝てていなかった・・・ということですか? レヴィさん?」


 今までサブロウの実力が相手よりも上だった理由が判明した。

 敵の太陽の技が中途半端になった事と、サブロウ自身の才能が高かったことが相手の力を上回っている要因だったのだ。


 「そうです。フュン様。似ている技でありますが、根本が違います。だから、夜を彷徨う蛇ナボルの奴らは、自身の本流の技自体を勘違いしてます」

 「勘違い?」

 「はい。ここは私の推察が入りますが、夜を彷徨う蛇ナボルは、どこかでヤマトの民と融合したのかもしれません。彼らは、二つの力を得て技が混じり合って、複雑に力が働いているのかもしれません。今はサブロウが持つ技に近しくなり、影の力が働いているかもしれません。それでは完璧に消えることが出来ません。それにですね。奴らには太陽の人がいません。太陽の人がいて、初めて太陽の技は本領を発揮します。それと本来はこのようにして、消えるのですよ」


 フュンに向かって手を振り微笑んだレヴィが、光と共に消えていく。

 風景に溶け込んでいった。


 「な!?」

 「「「 え!?!? 」」」


 フュンの後に、皆も驚いた。

 自分たちの視界から消えるにしても、光と共に消えたからだ。


 「これが本来の太陽の技です。光によって、消えていくのです。太陽の人の加護があって初めて完璧に消えるのです。これは闇に乗じて消えるのではありません。ですから奴らは使い方がハッキリしていないから、気配を完全に消せないのです。まあ、それで私がフュン様のそばにいたことに気付かなかったのでしょうがね。でもそれは幹部クラスの人間ではないからでしょう。おそらくもっと強い者であれば、私の姿も見破られるはず・・・」

 「・・・・そういうことですか。だから今、レヴィさんは・・・」


 出現してくれたのだと、フュンは思った。

 自分を守るためには仲間が必要。

 そして仲間とするのならば、フュン自身の仲間が良いとの判断をしてくれたのだ。

 

 「ええ、そしてサブロウ。あなたの技は、ほぼ完成に近づいている。おそらくあなたはあちらの大陸の人間に近い実力者でしょう。完璧な忍びになりつつある。なので私の太陽の技を教えましょう。あなたはこれを理解した時、完璧な光と影になれる」

 「ん? 仕組みが違うのぞ? なんでそれでおいらが強くなれるのかいぞ」

 「太陽の技から、忍びが生まれたのです。光が強かった分、闇も強くなったのです。忍びたちは、自分たちが生き残るために、ヤマトを作ったとされています」

 「な、なるほど・・・おいらも勉強すれば、影の部分がまた強くなるということなのぞ?」

 「ええ。そういうことです。私の教えを受ければ、あなたは夜を彷徨う蛇ナボルのような中途半端な影の技には絶対に負けません。あれらは、中途半端なのです。太陽でもなく、完璧な影でもないのですから」


 二百年以上前に暁を待つ三頭竜ドラウドと別れたことにより、夜を彷徨う蛇ナボルの技は別なものに変わった。

 しかし、それでも闇に隠れるのが上手い。

 これより必要なのは情報戦であるからこそ、サブロウのレベルアップは急務である。


 「わかった。おいらだけがそれを受ければいいのか」

 「そうですね。あとは・・・数人教えたい人はいます。でもまずはあなたから。太陽の技は、一般人では無理で、戦いの素質が無いとできません。それと太陽の人を信頼する心が無いといけません。なので、努力だけでは会得不可なのですよ。それに反して、忍びの技はどんな人でも努力でいけます。彼らヤマトの血と汗と涙の努力の結晶が影の技であります」

 「そうかいぞ・・・わかったぞ。おいらがやろうぞ」

 「ええ」


 レヴィの提案をサブロウが受け入れた。


 「では最後に、フュン様」

 「はい」

 「最後のお話をします。あなた様の母君の事をお話しますね。昔話から、これらの事を詳細に語っていきたいと思います」

 「え?」

 「これは、私のお願いと話が繋がっている話なんです。私個人として、あなた様にこの話を聞いてもらいたい」

 「・・・わかりました。お聞きしましょう」

 「ありがとうございます。フュン様。お話します」


 レヴィは最後の話をすると言い、静かに語りだした。




―――あとがき―――


レヴィの説明会は終わります。

ここからは、彼女とソフィアの物語が始まります。

過去編はここからです。

レヴィの語りがベースで物語が進行します。

なので彼女の気持ちがちょくちょく入ります。


よろしくお願いします。


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