第81話 ササラ港海賊襲撃事件の真実 Ⅰ

 帝国歴517年9月25日。

 フュンの作戦。

 その第一段階は港に食料を集める事だった。

 その食糧たちが行く航路はシャルフと呼ばれる都市が予定されており、そこはドルフィン家が所有する都市だ。

 

 大型船の積み荷のチェックを終えてから、船は西へと進む。


 すると、フュンたちの思惑通りにしばらくすると海賊たちがササラを横切っていった。

 

 「あれが海賊船???」


 フュンは訓練で見た中型船や小型船とは違う。

 高速で動く船を見た。


 「速いですね。う~ん」

 「どうしたのさ。フュン」 

 「マルンさんが教えてくれた船の戦闘。あれを見ると、大型船が小型船と戦っても必ず勝つわけじゃないってのがよく分かりますね。あれは速すぎて、大砲などが当たらないですよ。中型船でもあちらの方が速いのかもしれませんよ」

 「そうかもな。あいつらの方が海になれてるのかもな」

 「ええ。でも船も違うのかも・・・技術が知りたいですね」


 フュンは至って冷静。なぜなら予測通りの動きを相手が見せると思っているのだ。


 ◇


 数時間後、交易の船は戻ってきた。

 物資全般を盗まれても、乗組員は無事である。

 それは以前と同じ結果だった。


 「やはり。必要なものだけが欲しい。そして、人を殺せばまた航海をしてくれなくなる恐れがあるから。人の命は取らない。この可能性が大ですね」

 「そうかもなのさ……フュン、やるのか?」

 「ええ。やってみましょう。あの食糧ではそんなに十分じゃないはず。どのくらい海賊がいるのかは知りませんが、食糧は足りないと見ていい」


 フュンは盗ませるために食料を少量だけ用意したのは、海賊たちにとっても少ないとみてもらうため。次の分でもう一度盗む際に警戒を薄める作戦であったのだ。


 ◇


 帝国歴517年10月4日。

 この日二度目の食料を用意した。

 大型船にドンドン詰め込まれる食糧。

 その中の一つ。

 木箱の下に隠し箱を用意したものがある。


 なんとその中には。


 「いやぁ。面白いですね」

 「はぁ。これのどこが面白いのぞ?? こんな大胆な策を思いつくお前さんが怖いのだぞ」

 「大丈夫ですよ。そんなに心配しないでも。サブロウさんとニールとルージュがいれば、怖くないでしょ。これは潜入ミッションですよ! 面白そうです」

 「殿下と」「潜入!」

 「ええ。がんばりましょう。ニール、ルージュ」

 「「頑張る!」」


 とまあ箱の中には四人がいるのである。

 盗まれる前提で、四人は木箱の中に隠れているのだ。


 

 積み荷が完了してから船は移動し始めた。

 木箱の中にいても揺れを感じ始める。


 「おお。揺れますね。船って初めて乗りましたよ」

 「これ、乗ったっていうのかぞ? なんで密入国みたいな乗り方が初めてなんぞ」

 「あははは。たしかに。乗り方、酷いですよね」

 「はぁ。いつも楽しそうぞな。フュンは」

 「ええ。未知なる出会いは好奇心をくすぐりますね・・・ん?」


 外から襲撃の音が聞こえてきた。

 何の音か分からない爆発音が聞こえてきて、すぐに賊らしき者どもが話す。


 「おい。荷物は置いておけ。そのまま何もしなければ命は取らない」

 「そうですわ。ワタクシたちの攻撃をまともに食らったら死んでしまいますわよ」

 

 男女の後に、乗組員の声が聞こえる。

 襲われることを了承している乗組員は素直に言う事を聞く。


 「わかった。どうすればいい。運べばいいのか」

 「いや、大人しくしてくれればいい。あいつの指示に従ってくれ。一か所にいてくれ」

 「皆さんは、ワタクシについてください。ワタクシの斧にお命を食べられたくなかったら、黙ってついてきてくださいな」


 乗組員はどこかへ連れて行かれ、荷物は運びこまれる。

 木箱の蓋を開けて中身をチェックする音は聞こえて、食べ物だと運べ。

 衣服などだと選別をし始めた。

 フュンはブドウの箱の隠し箱の中にいるので、すんなりと運びこまれたのである。

 

 おそらく移動が完了しただろうとフュンが会話を再開させる。


 「ほとんど揺れませんね。船の上なのに揺れが少ないです」

 「ああ。快適ぞな」

 「面白い船です。中を見たいですね」

 「そうぞな。おいらたちも使えたら、いいぞな」


 中でそんな話をしていると。


 「おい。今回はブドウメインらしいぞ」

 「へぇ。なんでだ」

 「なんでもシーラ村の名産らしい。それを届けようとしていたみたいだ」

 「ブドウか・・・もっと栄養がつく物が良かったんじゃないのか。大丈夫かな。あいつら」

 「ああ。心配だな」


 賊たちの不穏な会話が聞こえてきた。

 賊たちなりに何かの心配事があるようだ。


 ◇

 

 船での移動が終わった後。

 箱が持ち上がった。

 

 「なんか重いな」

 「そうだな。食べ物にしては重いわ」


 賊たちが四人がかりで箱を持ち上げたらしい。

 フュンは声と息遣いで数を確認した。

 

 船着き場のそばで、荷物は降ろされるのかと思いきや、どこかへ運び出しているみたいで、箱がまだ持ち上がった状態である。


 『どこに行くのでしょう。中々遠くまで運ばれていますね。港ならすぐ近くの倉庫などに運ぶのに』 


 フュンは冷静に事態を把握しようと耳も澄ませている。

 彼の聴力は発達しているので、状況把握にはうってつけなのだ。


 『ちょっとだけ反響する声、ここに来てからの温度の違い。おそらくここは洞窟ですね。ひんやりとした空気感が箱から伝わってきます』


 フュンがそんなことを考えていると、箱がどこかの地面に到着した様だ。

 ドンと。捨て置かれる形になり、四人は少々上に浮き上がった。

 

 『いたっ!? 食べ物が中にあるんですよ。傷んじゃいますよ!!!』


 自分のお尻よりも食べ物が気になるフュンであった。


 ◇


 人はまだこちらに来るようで、荷物は全てこの部屋に置かれる様だ。

 

 『まだ荷下ろしをしている最中ですね。時間にしてどれだけ経ったのか・・・そろそろ、始まるはずなんですがね・・・』


 フュンの計画第三段階。 

 それは軍船の出航である。

 アーリア東の沿岸のどこかが海賊の本拠地。

 ならばそこへ軍船が出てもおかしくない状況。

 盗まれた物資を取り戻そうと動き出してもおかしくはない。

 

 辺りから大声が聞こえてきた。


 「連絡が来た! 軍船がササラから出たらしいぞ! 皆、警戒しろ。入口に人を配置だ」

 「了解だ」

 「船の準備もですよ。私たちはいつでも出られるようにしなければ」

 「おお!」

 

 との声の後。

 

 「でもここの隠れ家が見つかったことないけどな……まあ念のためか」

 「そうだよな。ヴァンとララは真面目過ぎなんだよ」

 

 との愚痴まで聞こえてきた。



 ◇


 この慌ただしさにより、フュンらの周りには人がいなくなっていた。


 「今なら出られますね。外に行きますよ」


 四人は隠し箱の蓋を開けて箱から出た。

 外は。


 「うん。洞窟ですね。小部屋になってる。器用ですね。こちらの方々は」


 壁は洞窟だが入口には扉があり、部屋のようになっている。

 自然のものと融和させる作りの建物は、器用な人間でなければうまく作れないだろう。

 フュンはここに建築などの手先の器用なものがいると睨んだ。


 「サブロウさん。今から軍船の為の合図準備をお願いします」

 「了解ぞ。フュン。いいか。あまりウロチョロ動いて・・・まあ無理ぞな。お前さんならここを調べるかぞ」

 「ええ。調べちゃいますよ。僕にはニールとルージュがいますからね。ね。僕を守ってくれるよね」

 「まかせろ」「殿下!」

 「ええ。まかせます。それじゃあ、サブロウさん。お願いしますね」

 「おうぞ・・・なぁ。もうフュンもサブロウでいいぞ。おいらの姿を見ることが出来るまで成長したからぞな」

 「そうですか。では、サブロウ。お願いしますね。ミラ先生への合図。良きタイミングでお願いします。全てのタイミングは独断でいいですからね。サブロウ」

 「わかったぞな。まかせろ。いってくる」


 新たな弟子の成長に笑ったサブロウは影に消えた。

 

 「よし。ニール。ルージュ。警戒しながら中を探るよ。僕らは探検だ! レッツゴー」

 「「おおお」」

 

 三人は海賊の洞窟を探ることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る