第三章 シーラ村武装蜂起編

第54話 成長促進会議

 翌日。ヒザルスの屋敷にて。


 「タルスコさん・・・じゃなかった。ルイス様は、なぜヒザルス様の執事さんになっていたのですか」

 「ええ。私としてはですね。まあ、隠居生活を楽しく暮らそうとですね。まあ、道楽ですね」

 「そ、そうなんですか」


 フュンが納得すると。

 その隣にいたヒザルスが肩をすくめた。


 「いやはや、ルイス様。普通の道楽にして欲しいです。今の道楽は勘弁願いたいのですよ。私ね。気合いを入れないと出来ないような役柄を務めるのは、まったくもって嫌ですね。この先、続くのも本当に嫌ですね」

 「あははは。なんとなく僕もその気持ちわかりますよ。こんなにも偉い方に、あの命令口調で話さないといけないなんて・・・ヒザルス様・・・針のむしろ。いや、蟻地獄の中にいて、出られないような気分ですね。あははは」


 中々的確な意見を言ってくれたので、ヒザルスの目が輝く。


 「フュン様、あなたは……俺の気持ちを分かってくれるなんて素晴らしい方だ。あのジークの屑がべた褒めするもんだから、てっきり俺はかなり酷い奴なのかなと思ったら、こんなにもお優しい方だったとは……うんうん。あいつ、人を見る目だけはいいですな。目以外は腐ってるけど」

 「ヒザルスさんって、ジーク様と仲が良いのですか? そんなにスラスラと悪口が出るなんて、仲が良い証拠ですよね」

 「え? ありえないありえない。あいつと仲が良いなんてね。あいつと仲良くなるくらいなら、地獄の番人と仲良くなった方がいいですよ」

 「そ、そうなんですか。僕はてっきり・・・仲が良いのかと」


 予想が外れたとがっかりしたフュンに、ルイスが訂正する。


 「フュン様。あなたの想像通り。こやつとジークは仲が良いですよ。ええ」

 「ですよね。あははは」

 

 二人で笑うと、文句を言いたげなヒザルスが片方の眉をあげた。

 言い返したくても相手が偉すぎて、流石のヒザルスでも言い返せないのだ。



 ◇


 「ところで真面目な話になりますが、フュン様はジークに帰順されるのですな」

 「はい。そうしたいですね。それでルイス様は、ダーレー家におられるのでしょうか?」

 「いえいえ。私は今。貴族の地位などではありませんので、どこにも肩入れしておりません」

 「そうなんですか。伝説の方だとお聞きしたんでね。てっきり御三家の誰かに」

 「はははは。伝説じゃありませんよ。ただの普通のジジイです」

 

 軽く爺ジョークを言うと。


 「どこが普通だよ。超人化け物ジジイだよ。この人は」


 誰にも聞こえないような声でヒザルスはぼそっと言ったのに。


 「おい、聞こえておるぞ、ヒザルス。誰が超人化け物ジジイだ」


 思いっきり聞こえていた。


 「・・え?・・・何がでしょう・・・はて?」


 爺の癖に耳が良い。

 地獄耳の爺だと思ったヒザルスは必死にとぼけた。


 「まあよい。話を戻して、フュン様! ダーレー家に帰順するという事は苦難ばかりになりますぞ。それでもよろしいのですかな」

 「ええ。まあ。いいです。僕の事を最初から受け入れていてくれたのはあのお二人ですし、それに僕は、お二人のことが好きですしね。まあ、それで、サナリアが苦境になるかもしれませんがね。僕がなんとかします。御三家最弱でも少しでもお二人の力になって、勝っていけるような陣営になるよう努力しますよ。あははは。不安ですけどね。あははは」


 不安があっても笑う余裕だけはある。

 フュンとはそんな変わった男である。


 「面白い。自信があるのかないのか。分からないのが面白いですな。はははは」

 「まったく、ルイス様の言う通りですね。は~~~はは~~」


 三人の笑顔はしばらく続き。

 もう一度、ルイスから話が始まる。


 「そうですな。では、私はあなたにお仕えしようかな。残り少ない人生。楽しめる人物のそばにいようかと思います」

 「残り少ないって・・・いつ死ぬんだよ、このジジイ」

 「おい、ヒザルス。聞こえているぞ」

 「え? ピューピュー」


 ヒザルスはまたとぼけた。


 「・・・・え?・・・・え?」


 その彼の隣でフュンは、突然のことに脳が処理しきれていなかった。

 

 「今は貴族でもないですが、あなた様の旗下に加わりたい。私はあなたの端の一席にでも座らせてもらえればいいのですよ。私の肩書を上手く利用してくださいな」

 「・・・ふぇ。いやいやいやいや、僕はただの属国の王子で、あなた様は帝国でも伝説の貴族様・・・釣り合いが取れないです・・・」

 「はははは。いいのですよ。そんなに堅苦しく考えずとも、あなたの背中で、私がいると判断してもらえるように立ち回りますから、あなたは、あなたの道を歩めばよいのです。誰にも縛られることはない。それに私が勝手にお守りする形でいますから」

 「・・・そ、それもまた、恐縮する感じが」


 こうして、帝国の伝説の元貴族ルイス・コスタがフュンの背中を守る事となった。

 これは異例中の異例の出来事。

 あの帝国の御三家だって、喉から手が出るほどに欲しい人間なのに、何故かそれを属国の王子如きが手に入れてしまうのでした。

 ルイスとは大局を描く天才で、それはミランダやサブロウの戦争の戦略戦術の天才とは違い、新たな視点を持つ人物。

 だからフュンは、この人物のおかげで大局を見極める力を養うのでした。

 人を支えたいと願う青年は人に支えられて成長していくのです。


 「それでは、畑でもやりますか! フュン様!」

 「ええ。そうですね。それは、ぜひぜひ。一緒にやりましょう!」

 「こちらの話だといい笑顔ですな。まったく面白い人だ。はははは」

 

 フュンはこちらの方の話になるとすぐに元気になった。

 二人並んで畑の作業をして、様々な作物の手入れをして、フュンは残り三日ほどの滞在を楽しんだのでした。


 ◇


 里ラメンテにて。


 「そろそろ本格的に計画性のある訓練を課そうと思うのさ……つうことであんたら、意見くれ。あたしの計画に力を貸してくれ」


 ミランダは、里ラメンテの会議室に、ザイオン。エリナ。サブロウ。ジークを呼んだ。

 彼女が打ち出した計画とは次世代育成プロジェクトである。

 主にフュンとゼファーを軸に、ミシェルや双子などの力も引き上げようとしていた。


 「ほう。俺は面白いから力を貸すけどよ。武のみだぞ。他は無理だぞ。俺はよ」

 「あたいも~~。単純な物しか教えられんわ」

 「そんなこったぁ。わかってるわ。お前らにそれ以上は望まんのさ。そんで、サブロウの許可は得てるからよ。ジークはどうだ?」

 「俺か。まあ、賛成に決まってるよな。俺は彼には辺境伯になってほしいと心から願っている。でもそれよりも、この帝国で絶対に生き残って欲しいという気持ちの方が強いな。そのためには訓練をしっかりしなきゃ、彼は生き残れない。仕方がないが、彼には強くなってもらおう! お前に預けるのは心苦しいがな」

 「そうか・・・うし。ではあたしの計画を・・・って、なんであたしで不安になんだよ!」


 文句たらたらでもミランダは会議室の一番大きい壁に紙をでかでかと貼り付けた。

 どうだと言わんばかりに両手でアピールする。


 「これでどうよ。まず一人一人説明する。最初にミシェル。彼女の武は引き続きザイオンだ。しかし彼女は頭がいい。全てをザイオンに任せんのは駄目だ。アホだからな。もったいねぇ。マジで!」

 「おい、ミラ・・・ぶっとばすぞ」

 「なははは。やってみっか!」


 二人は喧嘩腰になるが、サブロウが入る。


 「そこのアホ二人ぞ。喧嘩しとる暇はないぞ。次の指示ぞ。ミラ」

 「おう。んで、彼女には将たる者として、指揮訓練をやらせたいから、そん時は彼女はあたしんところだ。みっちり鍛えてやる。ちゃんとした副将としてな。んで、もうひとり。エリナんところにいる。えっと、リアリス!」

 「ああ。いるな。あの生意気娘な」


 エリナは煙草をふかしながら答えた。

 頭に浮かぶ彼女の姿は、弓を片手に、ナイフを片手に、山で狩りをしまくる勇ましい姿だ。


 「あいつも副将候補だ。あたしが鍛える。でも武はお前だ! いいな」

 「あいつか・・・ちょいと面倒だな。生意気でな・・・面倒だなぁ」


 エリナが二回も面倒だと言った。

 彼女がそう言う程ならば、よほどの人物なのだ。

 

 「ならお前にちょうどいいだろうが。お前も生意気なんだから」

 「んだと。ミラ! あたいと一戦、やろうってか!」

 

 今度はジークが間に立つ。


 「はぁ。お前らは喧嘩しか出来んのか。相変わらずそこらの野盗と変わらんだろ」

 「てめえ。このシスコン皇子が。てめえも大体にして野盗と変わらんは」

 「俺は隠しても隠し切れない品があるからな。お前らとは出来が違うのよ」

 「がははは。エリナ…シスコンに攻撃がかわされてるぞ」

 

 挑発に乗らないジークにブツブツ文句を言いながらエリナは煙草を吸った。


 「いいか。話が脱線してっけどよ。まだ説明するからさ・・・」


 ちょっと寂しくなったミランダがもう一度話を戻す。


 「ええっと。リアリスまでいったな。次はこいつか。タイムだ。この男は、努力型の真面目な奴だ。だとすると、この里で暮して鍛えても勿体ない。外で鍛える。お嬢の脇にいるハスラの将の隣に立たせてやってくれ。出来るかジーク?」

 「ああ。わかった。その子をハスラに向かわせればいいんだな」

 「ああ。頼んだ」

 「おう。任せとけ」

 

 各人を適正な場所に置こうとしていた。


 「ええっと、あとはカゲロイだな。カゲロイはそのままサブロウでいい。お前の片腕位まで育てろ。シゲマサ並みにしな」

 「・・・んんん。シゲマサ並みか・・・ちと難しいぞ。あいつは優秀だったぞな」

 「まあ。いずれでいいわ。んで、お前の所に双子を送る。カゲロイと同じようにお前の技を仕込んでくれ。あいつらはいずれな。フュンの影にする」

 「おお。なるほどぞ。それは名案ぞな」


 双子の教育はサブロウが担当することとなる。


 「そんでメインだ。まず、ゼファー。こいつを最強格の男にする。あたしらの武以上に仕上げたい。絶対的な強者にしてやんぜ。つうことで、エリナ! ザイオン! サブロウ! この三人とあたしで、たらい回しにして鍛える。地獄の訓練を、あいつには受けてもらうことにする」

 「「なに!?」」


 ザイオンとエリナが驚き、サブロウは黙って頷く。


 「少々無理があろうが、ちょいとハードに仕上げていくことにする。あいつは、何でも吸収できるタイプの人間だ。素直さ。武人気質。負けず嫌い。そして、フュンへの忠誠心。あいつの基礎は完璧だから、それを上塗りするようにベタベタにあたしらの色で塗ってやって、あとはその上に自分の色を自分で塗ってもらおう。要するに早めにあたしらの技を覚えてもらうってことさ」

 「そいつは賛成だ。俺もその方針はありと見る」

 「だろ。ジークは話が早いのさ」


 二人で大きな声で笑っているとサブロウが本題を振った。


 「フュンはどうするぞ。あいつこそがおいらたちの・・・シゲマサの希望ぞ」

 「ああ。あいつはな。あたしとジークとお嬢が鍛える。そんで、あのクソジジイも協力するって言ってきたからな。フュンは今とは全く違う。昔の知り合いが見たらビックリするような男にすんのさ。だから。見てろ。シゲマサ。あたしの計画じゃ・・・大体二年か・・・そこらへん。もうちょいかかるかもしれないが、必ず成長させてみせるぜ。くくくく。ナハハハ」  


 ミランダの高笑いを見て、皆は呆れた顔をした。

 こういう時のミランダは、悪だくみの顔をしているので、皆は心の中でフュンに手を合わせていた。


 【頑張れ。フュン】

  

 と密かに一言で応援していたのだった。

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