第2話

ある人、朝の忙しきに、衣の乱れを言ひくたするに、詠みける


くびと 背縫い肩よせ 言喧ことさへく 唐鏡寄せよ わすれぐさ給へ



「貴女達、なんて恰好なのよ! いくら朝が忙しないといっても、きちんと身支度しなさいよ!! そもそも、あ・な・た・た・ち・は……くぁwせdrftgyふじこlp!」


「……何言ってんの、あれ」

「身だしなみ警察だねー」

「へえ。それなら、本人の方がよっぽどじゃない? ほら」

「ん? あー、確かに。鏡見せてあげたら?」

「ついでに忘れ草もあげよう。自分の顔見たら、恥ずかしくて記憶消したくなること必至でしょ」

「あはは、あんだけ頬っぺたに寝あとつけてちゃ、説得力ないよねぇ」



――――

言ひくたす:けなす、けちをつける

仰け領:抜き衣紋、襟元を後ろにずらして首筋が出るようにした着方

背縫い・肩よせ:上着の背中心が添っておらず、左右のどちらかに片寄っている状態

言喧く:枕詞。騒々しい、やかましい、「韓(から)」にかかる

唐鏡:上等な鏡

参考:「衣の背縫い、肩よせて着たる。また、仰頸したる」(枕草子 見苦しきもの)


※抜き衣紋は、結髪に干渉しないための発明とも言われますが、平安時代は垂髪のためか、習慣がありません。

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