第3話
院の御隠れさせ給ひし頃、清げなる
君がため
いずこにありや
やぶかんぞう
雲居の庭ぞ
植へむとて
紐つげど
まこと心ぞ
浮き瀬のまにま
***
宮の感じさせ給ひて、女房に詠ませ給ひぬ反歌一首
はしきやし 人に捧げむ やぶかんぞう 袖の干るまで ゆめ
◇
諒闇である。
上は故院に遠慮なされて、宮のお召しもない。徒然を
「――思いの外、みやびでございましたわね」
苦笑する女房に、宮は頷かれる。
ご自身のお心を代弁したかのような歌であったのかもしれない。女法師が捧げてきた、
下衆の者に後れを取ってなるものかと、こちらの女房達は勇み足の騒ぎである。
その様子を鷹揚にご覧になっていらっしゃるが、内心では
宮の憂いを帯びたお顔に、憚りながら女房は心密かに拝察申し上げる。
「……あら、どうしたの?」
「いいえ、何もございませぬ」
「ふむ、余裕ね。ではそなたが詠め」
「承りました」
◇
――――
院:上皇
乞丐:物乞い
雲居:宮中
御衣:天皇・貴人の衣服
紐つげ(つぐ):紐でつなぐ
浮き瀬:辛い境遇、苦しい立場
まにま:他人の意思や成り行きに従うこと
はしきやし:ああ、いたわしい
袖の干る:涙で濡れる袖が乾く
ゆめ~打消し:決して~するな
長歌:『万葉集』に多数収録されるが、時代が下るとともに次第に姿を消す。五音・七音を三回以上繰り返し、最後は七音をつけて終わる
反歌:長歌に付随し、長歌の要約や、特に強調したい所、捕捉したい部分が歌われる。長歌と反歌は一対なので、本来は別の人物が歌うものではない。ここではただの見立ての遊び
※『枕草子』などには、宮中には何故か怪しげな人物が入り込んでも、普通に対応して交流する様子が描かれます。結構ガバガバ警備なのか、不思議です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます