第22話 WEC 最終戦 バーレーン
※この小説は「スーパーGTに女性ドライバー登場」「続スーパーGTに女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。
WECの最終戦。ペルシャ湾の島国バーレーンにやってきた。カタールの隣国であるが、熱帯の国とは思えない。海に囲まれた島国だからかもしれない。連日30度~35度の気温で、東京の夏と大差ない。ホテルの中はエアコンがきいていて快適だ。マシンにのっている時だけがつらい。8時間レースなので、8スティント。2スティント連続は体力的につらい。
予選は、ミックと小田が担当。ミックはトップ10に入るタイムをだし、小田はハイパーポールで2位のタイムをたたきだした。ポールは2号車のハートリーがとった。T社のフロントロウ独占である。Bopは前回より多少緩くなった。だが、一番重いのには変わりない。ただライバルのPD社は前回の優勝で7kg重くなり、T社との差が21kgから9kgに縮まった。
予選を終えて、小田がドライバー5人を集めて作戦を明かした。
「This time we're going for the manufacturer championship . If either of them wins , they will become the champion , there is a chance if they can beat their rival PD machine . Therefore the pit timing of the two cars was staggered . Car
No.2 changes every hour . Medium tires will be the base , with hard tires used depending on the situation . Car No.1 will be running all hard tires . Then we adopt a fuel-efficient driving technique and make our final attack . 」
(今回はマニファクチャラーチャンピオンをとりにいくぞ。どちらかが優勝すればチャンピオンになるし、ライバルであるPD社のマシンに勝てば可能性はある。そこで2台のピットタイミングをずらす。2号車は1時間ごとにチェンジ。タイヤはミディアムを基本にし、状況によってハードを使う。1号車は全てハードタイヤでいく。そして燃費走法をとり、最後にアタックする)
そこにミックが質問をした。
「 What do you think about the driver's title ? 」
(ドライバーズタイトルは?)
そこで小田が答える。
「 If car No.6 gets any points , they will be the champions . I don't expect another team people to make mistakes . WEC is more about rhe manufacturer than the driver's title . 」
(6号車がポイントをとれば、彼らがチャンピオンだ。人のミスを期待することはしない。WECはドライバーズタイトルよりマニファクチャラーの方が大事だ)
決勝は土曜日の午後2時。イスラム圏では日曜日にレースはしない。安息日なのだ。朱里にとっては、日本に帰国する余裕がでるのでありがたいことだ。
スタートはミックの担当だ。他のマシンはミディアムタイヤをはいているので、ハードではダッシュできない。2周目には4位に後退していた。2号車はトップを快走中だ。
3時15分。小田にドライバーチェンジ。タイヤは左2輪だけ換えた。全部で26本しか使えないので、毎回4本ずつ換えるわけにはいかない。ミックは粘りの走りをして、ピット作業も順調にいったので3位でコース復帰した。2号車はGT3のマシンを抜いた後、コーナーで軽い追突をされ、ハーフスピンをしてしまった。それで4位に後退している。
4時。小田は他のマシンがピットインしている間にトップにでた。他のマシンがピットアウトしてきてもマージンはある。だが、トップになった途端ペースが落ちた。
「 There's a machine problem . I press the reset switch . 」
(マシントラブルだ。リセットスイッチをおす)
と無線で連絡してきた。PCUか何かのトラブルかもしれない。
4時15分。朱里の出番だ。ピットインの間に5位に後退してしまった。2号車は3位にあがっている。朱里は燃費走行で、淡々と走る。GT3マシンを無難に抜く。順位をキープすることだけを考えて走った。緊張でのどがかわく。ドリンクを飲むがチューブで飲むのでちびりちびりしか飲めない。ぐっと飲みたいところだ。
5時30分。またもや小田にチェンジ。ピット作業はうまくいって、小田は数周で2位にあがった。ところが、またもやペースが落ちた。すぐに復旧したが、なにかのトラブルをかかえている。2号車はピット回数が多いので、8位にまで落ちている。
6時30分。小田からミックにチェンジ。ミックにとっては今年最後のドライヴだ。快調に走り、3位をキープする。うまくいけばドライバーズタイトルがとれる。ライバルの6号車は不調なのかBopがきついのかポイント圏外を走っている。外は暗くなったが、照明は明るい。ルマンやスパのナイトレースと比べたら昼間と同じだ。
7時45分。朱里の最後のドライヴだ。だが、スピードが上がらない。
「 The engine won't start . 」
(エンジンがふけません)
と朱里が無線で言うと、小田から
「 Try resetting it . 」
(リセットをしてみろ)
と指示がきたが、やはりだめだった。
「 It will not be restored . 」
(復旧しません)
と言うと、
「 Be Pit in ! 」
(ピットインしろ)
と小田からの指示がでたので、朱里は仕方なくマシンをピットインさせた。マシンはガレージに入れられた。朱里は半分涙目でマシンから降りた。
「すみません。マシンを止めてしまいました」
と小田に言うと
「朱里のせいじゃない。マシンのせいだ。たまたま朱里の時に止まっただけのこと。あまり気にするな」
と小田からなぐさめの言葉をかけられた。
マシンのトラブルは燃料ポンプだった。2号車にも同様のトラブルがおきるかもしれない。朱里は着替えをしてからピット内のモニターで2号車の走りを見守った。
9時。残り1時間。2号車は平田のドライヴだ。2号車のペースはトップのPD社の5号車より0,5秒速い。残り40分で2号車は1号車に追いつき、4コーナーで抜いた。だが、接触をして抜いてしまったので、下手をするとペナルティを受ける。そこで小田が
「平田、ペースを落としてトップを一度譲れ。その後、また抜けばいい」
と無線で指示をする。そうしないと、ドライブスルーのペナルティを受ける可能性がある。そこで平田は一度トップを譲り、また抜き返した。そこからは平田の独走だった。後はトラブルがないことを願うのみだ。
残り10分。朱里をはじめT社のピットでは祈る姿が多く見られた。このままいけば2ポイント差で念願のマニファクチャラーチャンピオンだ。
10時。チェッカーフラッグが振られた。平田はマシンをピット側に寄せてパッシングで優勝をアピールする。ピットクルーは大騒ぎだ。ピットロードでハートリーとカイルを乗せて、ウィニングランをする。朱里の目には涙がこぼれていた。自分ではないけれど、チームで勝ち得たチャンピオンの称号だ。
一夜あけて、マネージャーの凛さんからうれしい知らせが入った。
「朱里さん、スーパーGTの結果ですが、3位表彰台だそうです」
「えっ、坪江さんは初参戦で初表彰台。すごいわね」
「それも優勝は36番の坪江さんのマシン」
「えっ! 夫婦で表彰台にあがったの。シャンパンかけあったのかな?」
「そのようですよ。奥さんの方に集中したようですけど・・」
とVTRで確認すると、満面の笑みを浮かべた山木と坪江さんがいた。
山木の顔を見て、朱里はうれしくもあり、坪江さんの活躍にジェラシーも感じた。朱里の前で、山木がこんなにうれしい顔を見せたことがないからだ。
その日の飛行機で、成田に向かった。少しでも早く日本に帰りたいと思う朱里であった。次戦は1週間後のSF鈴鹿である。
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