第17話 WEC 富士

※この小説は「スーパーGTに女性ドライバー登場」「続スーパーGTに女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。今回の前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。 


 9月半ば、朱里は富士サーキットにやってきていた。いつものごとくだが、コースサイドのホテルから見える景色には心が休まる。日本に帰ってきたなという実感がわく。ホテルの裏手には富士山がそびえている。これまた故郷の山が自分を見守ってくれているような気持ちにさせてくれる。

 フリープラクティスを無難にこなし、予選はいつものごとく小田に任せた。2号車は平田が初めて予選を担当することになった。平田はこの富士を走り込んでいるので、フリープラクティスでもいいタイムを出せていたからである。

 BoP(Balance of Performance)は、ますますT社にきつくなり、一番重い1070kg。一番軽いPF社のマシンより30kg重い。出力もおさえられ、493KW。C社のマシンは520KWをもっている。苦戦が予想されたが、なんといってもホームコースである。無様な姿を観客に見せるわけにはいかない。ましてや5000人の大応援団を召集しているという。力を抜くわけにはいかない。チーム代表でもある小田は

「何がなんでも勝ちにいくぞ!」

 と檄をとばしている。


 予選は小田が先行し、トップタイムを出すなど早々にトップ10入りを決めた。平田も最終アタックでトップ10入りを決めた。

 そして、すぐにハイパーポールが始まる。ここでBoPの差が出た。ポールをとったのはC社のマシンであった。2番手には2号車の平田が入った。さすが富士マイスターと言われる平田である。1分28秒台に飛び込んだのはこの2台だけである。3位にはBoPがゆるいBM社のマシンが入った。そして4番目に小田が飛び込んだ。BoPがきついのにフロントロウとセカンドに入ったのはT社としては期待以上のできだった。それもどちらもアウトコースからのスタートということで、隊列をくんで第1コーナーに入ることができる。例年、何かしらのトラブルがある第1コーナーなので、他のマシンとせらなくていいのはいいかもしれない。

 予選を終えて、チーム代表の小田はドライバー5人を集めた。

「 Extreme heat is expectrd tomorrw . It will probably exceed 30℃ . I think the road surface temperature will exceed 40℃ . This time we will be battling the heat again . So in the first half , let's not push ourselves too hard and take care of our tires . Depending on the circumstances , we may be able to go without channging tires . It communicates wirelessy . Hirata and I will go last . Finally , it's time to catch up . 」

(明日は猛暑が予想されている。おそらく30℃を超えるだろう。路面温度も40℃を超えると思う。今回も暑さとの戦いになる。そこで、前半は無理をせず、タイヤを大事にしていこう。状況によっては、タイヤ交換なしでいくかもしれない。それは無線でやりとりをする。ラストは平田と私でいく。最後に追い上げだ)

 との言葉に気を引き締めた。その後、2号車の女性ドライバーであるカイルが朱里に寄ってきて、

「 We will be doing the same stint . This time car number 2 might be faster . Let's do our best for each together . 」

(同じスティントを走ることになるね。今回は2号車の方が速いかもしれない。お互いに頑張りましょう)

 と言ってきた。カイルが話しかけてくるのは珍しい。やっと朱里の実力を認めてくれたのかもしれない。


 決勝日。年々WECの人気は高くなっている。メインスタンドには多くの観客がつめかけ、それ以外のスタンドでは簡易テントをたてて見ている人もいる。アナウンサーは

「6万人の観客です」

 と叫んでいる。耐久レースなので、この暑さでは見る方もつらい。

 11時、レーススタート。1周目、T社の2台は縦に並んで第1コーナーを無難に抜ける。様子見をしながら走ったので、順位は4位と5位に落ちた。だが、2周目アクシデントが発生した。第1コーナーで前回優勝のF社のマシンがブレーキを遅らせたせいで、複数台のクラッシュが発生したのだ。後方集団でのトラブルだったので、T社の2台は巻き込まれなかったが、SCカー先導でしばらく走ることになってしまった。そういうこともあり、ミックはタイヤ温存策を実行することができた。ピットに入ってきたのは予定より15分オーバーしていた。

 12時15分、タイヤ4本を換えてミックはピットアウトしていった。順位は7位に落ちているが、慌てはしない。

 13時30分。2度目のピットイン。ここで朱里に交代。2号車のカイルは1周前にピットアウトしている。

 ミックはピットにもどってきて、代表の小田に

「 I drove for 2 hours and 30 minutes . 」

(2時間30分ドライブしたぞ)

 と意気盛んにアピールしていた。スタッフから

「 Good job ! 」(いい走りだった)

 と賞賛の言葉をあびていた。

 朱里がコースに出ると後ろから2号車のカイルが抜いていく。2号車の方がタイヤがあたたまっている。朱里は無理をせず、カイルについていくことにした。順位は暫定だが3位と4位だ。そのままアベック走法を続ける。トップはPD社、2位はBM社のマシンだ。カイルと朱里はたんたんと走りGT3のマシンを無難に抜いていく。前の2台とも少しずつ差をつめている。

 14時25分、もうじきピットイン。ここでチームはばくちをうった。小田が朱里に

「タイヤを換えないでいくぞ。大丈夫か」

 と無線で聞く。朱里は

「大丈夫。いけると思う」

「よし、あと30分そのタイヤでいくぞ」

 14時30分、朱里がピットイン。給油だけでピットアウトしていく。コースにでると前の周にピットインしていたカイルは最終コーナーにいた。彼女は左側2輪のタイヤ交換をしていた。スリップの後ろにいた朱里の方がタイヤにはやさしい走りだったのだ。トップの2台にだいぶせまっている。

 14時50分、最終コーナーで2位のBM社のマシンを抜く。スパッと抜くことができた。BM社の女性ドライバーは富士が初めて。サーキット経験では朱里が優位だ。トップのPD社のマシンに追いつく。後ろからずっとプレッシャーをかけ続ける。ドイツ人女性のドライバーも富士は初めてだ。やはり最終コーナーで抜く。そのままピットインを果たす。まずはトップで小田にチェンジすることができた。交代時に小田から背中をたたかれ

「よくやった」

 と誉められた。だが、このピット作業でつまずいた。右のリアタイヤがすぐに、はずせなかった。ナットがうまく入っていなかったのかもしれない。それで新しいナットに換えて出ていった。タイムロスが5秒ほどあった。小田がコースインすると7位に落ちていた。前はもう1台のPD社のマシンである。2号車の平田は4位を走っている。小田は朱里がトップで来てくれたのに・・という思いで追い上げをはかったのかもしれない。少し無理をした。

 15時40分、前のPD社のマシンに追いつく。第1コーナーでほぼ並ぶが、アウトだったのでPD社に先行を許す。そして問題の左コカ・コーラコーナー。小田はPD社の左後方を走ってインをさそうとした。が、インをおさえられた。ガツーン! 2台とも派手にぶつかってコースアウトした。どちらのマシンも損傷を受けている。小田のマシンは左のリアタイヤがバーストしている。あたってスピンした時にぶつかった時の損傷だ。小田は左リアタイヤなしでピットにもどってきた。ホイールだけで走ってきたようなものだ。ピットの中に入り、修復をはかる。小田はコクピットにおさまったままだ。PD社のマシンももどってきたが、早々にドライバーはマシンから降りている。インをあけなかった彼も悪いし、ブレーキをかけなかった小田にも非がある。結局はレーシングアクシデントだ。

 16時、小田はマシンを降りた。修復不可能とチーフメカから伝えられ、彼もあきらめた。その後、チームスタッフにねぎらいの言葉をかけていた。チーム代表の顔にもどったのである。

 2号車の平田は、3位争いをしていた。少しずつ差をつめている。

 16時30分。3位のA社のマシンを最終コーナーで抜く。富士マイスターと言われる平田らしい抜き方だった。

 16時45分。主催者から悪魔の宣告がだされた。平田にドライブスルーペナルティがでたのだ。トップのPD社にラップされた時にブルーフラッグを無視したというのだ。平田はまさか自分にブルーフラッグが振られたとは思っていなかったようだ。残り15分でのドライブスルーは過酷だ。T社の大応援団からは大きなため息がもれていた。結果、2号車は10位に終わった。

 優勝は、PD社の6号車。第1戦のカタールに続いての2勝目だ。ランキングもトップを守っている。2位は予選3位のBM社。堅実に走った結果だ。そして3位はA社。BoPがゆるいから、優位にレースをすすめ、初めてポデウィム(表彰台)に立つことができて喜んでいた。ちなみに予選1位のC社はレース後半にコントロールミスでクラッシュしていた。

 表彰式で面白かったのは、GT3の表彰である。二輪レースのレジェンドであるV・ルッシが3位の表彰台に立ったのである。彼のファンは大盛り上がりだ。昨年より1万人多い観客が入ったというが、そのほとんどはルッシファンだったかもしれない。そして優勝はF社のチーム。イタリア国歌の演奏があり、ルッシや彼のスタッフもいっしょに歌っていた。彼のチームはベルギーなのだが・・。GT3の表彰はルッシのためのもののように見えた。

 次戦は1週間後のSUGOでのスーパーGT。狭いコースで魔物がいるとも言われている。でも、国内移動だし、好きな牛タンも食べられる。マネージャーの凛さんとどこに行くか相談するのが楽しみだった。

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続 スーパーGTに女性ドライバー登場パート2 飛鳥竜二 @jaihara

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