第15話 SF MOTEGI

※この小説は「スーパーGTに女性ドライバー登場」「続スーパーGTに女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。今回の前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。  


 8月の末、台風接近のニュースの中、朱里はMOTEGIにやってきた。SFにはプラクティス以外には乗ることができないので、なかなかマシンに慣れないでいる。練習はもっぱらシミュレーションマシンだ。

 今回、MOTEGIのホテルでミックに会った。今回のレースからT社のマシンに乗ることになった。朱里にハグしようとするので、思わず

「No thank you. This is JAPAN . 」

(結構です。ここは日本です)

 と彼女は遠慮申し上げた。そこに小田もやってきて、WEC1号車の3人がそろいぶみだ。お互いの健闘を誓った後、朱里は凛とともに大浴場に向かった。ここのお風呂は温泉ではないが、大きな露天風呂もあり気持ちいい。ジェットバスは快適だ。

 夕食後、チームの作戦会議だ。

 山木が口を開く。

「プラクティスのタイムを見ると、今回も後方になるのは目に見えている。朱里の予選タイムはオレの1秒以内がノルマだぞ。できるか?」

「やってみます」

「トップからは3秒以内でないと決勝で周回遅れになってしまう。それも頭に入れておけよ」

「はい、わかりました」

 そこでチーム監督から天気予報のニュースがもたらされた。

「明日も明後日も雨の可能性がある。もし、雨が降ったらどうする?」

 すると山木が

「雨が降ったらレインタイヤでいくだけだが・・問題は途中から降るかもしれないという時だな」

「その時は、バクチだな。スリックで走っていても前には行けない。だとしたら、粘れるだけ粘ってレインに交換だな。朱里それでいいか?」

 朱里はうなずくしかなかった。


 土曜日の予選。雨がいつ降ってもおかしくない天気だが、気温35度、路面温度45度と真夏の暑さだ。宇都宮あたりではゲリラ豪雨が降っているという。レーダーを見るとその雲は北に向かっているらしい。東にあるMOTEGIは雨を免れるかもしれない。

 Q1のグループ1が始まった。チームからは山木がでる。やはりタイムは伸びない。1分33秒262で終わった。トップのH社大山が1分32秒270だから1秒落ちだ。想定内といえばそれまでだ。

 グループ2が始まる。朱里はいつものように他のマシンが出てからピットアウトをする。「走るシケイン」と言われないようにするために、単独で走るようにしている。ミックは朱里の前を走っている。小田はグループ1で走り1分33秒台に終わっている。ミックはWEC以外にはヨーロッパのF2で活躍していた。優勝したこともある。いずれはF1にあがるだろうと言われている。そのミックの走りを見るのはいい勉強になる。だが、ミックはマシンにまだ慣れていない。ブレーキングポイントで苦労しているようだ。結果、朱里は1分34秒284で予選を終えた。山木のほぼ1秒落ちだ。グループ2のトップからは1秒8遅れ。何とか周回遅れにはならないタイムを出せた。ちなみにミックは1分33秒804。朱里との差は0.4秒差。さして変わらぬタイムで、ホテルで顔を合わせた時に、お互いに笑ってしまった。ポールはT社の山上。7年ぶりのポールだということだ。最近H社に負け続けていたので、久しぶりのT社のポール獲得となった。


 日曜日の決勝。空はどんよりとした雲がおおっている。いつ涙を流すかわからない。チーム監督はレーダーとにらめっこだ。だが、チームの方針は決まっている。スリックで走れるところまで粘る。勝負は後半だ。雨が降ったらレインに交換だ。

 決勝スタート。1台予選タイム無効のマシンがいたので、朱里は20番グリッドからスタート。スタートダッシュはうまくいった。1台出遅れたマシンがあったので、第1コーナーには19位で入ることができた。アクシデントはない。

 1周目のヘアピンでは朱里は最下位に落ちていた。後ろの2台にはコーナーで抜かれてしまった。だが焦ることはしない。マイペースで走る。2周目からは単独走になってしまった。

 2周目、1台がピットイン。マシンの不調のようだ。これで20位にもどったが、相変わらず単独走だ。小田は14位、ミックは16位、山木は18位といずれも中団後方を走っている。朱里だけが遅いわけではない。

 10周目、各マシンがピットインをし始めた。雨は降らないと判断したようだ。だが、あいかわらずどんよりとした雲が空全体をおおっている。小田とミックも雨を期待して粘っている。

 17周目、小田の相棒がマシントラブルで第4コーナー先でストップした。SCが出るかと思われたが、コーナーのインでストップしたので、危険性は少ないということで、イエローフラッグだけですんだ。この時にほとんどのマシンがピットインしてタイヤ交換を終えた。タイヤ交換を終えていないのは、小田とミック・山木そして朱里の4台だけである。朱里はこのままだと周回遅れになるかもしれない。トップのH社のマシンのペースがやたら速い。

 24周目、とうとうその時がやってきた。ぽつりぽつりと雨が降ってきたのだ。ここで4台がピットイン。レインタイヤに交換だ。だが、雨はぽつりぽつりで終わってしまった。トップグループはスリックのままで走り続ける。半数ほどが2度目のピットインでレインタイヤにしたが、スリックでも走れる雨の量と思われた。

 36周目、あと1周で終わりというところでトップのH社大山が90度コーナーでスピン。雨のせいかと思われたが実際はマシントラブルであった。そこで2位につけていたチームメートの牧田がトップになった。

 37周のレースが終わった。トップはH社の牧田。2位はポールをとったT社の山上。3位はランキングリーダーのH社野沢。そして4位には小田が入り、ミックは6位、山木は7位に入り、朱里は10位にはいり初ポイントを獲得することができた。チーム戦略の結果といえるが、笑顔で終わったレースとなった。だが、山木は渋い顔をしている。マシンの熟成がなされていないからである。予選で下位に落ち込んでいるのが納得いかないようだ。

 次のレースは1週間後のWECアメリカ。決勝の夜のアメリカ行きに飛び乗った。小田とミックも同じ便だった。二人ともすぐに眠りにはいっていた。時差ボケ解消のためには機内で寝ていた方がいい。着くのは日曜の午前。時計を巻き戻さなければならない。

 SFのレースは10月の富士2連戦。しばらく間があるので、山木はチームとともにマシンの熟成をする決意を固めていた。

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