第13話 SF 富士

※この小説は「スーパーGTに女性ドライバー登場」「続スーパーGTに女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。今回の前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。  


 サンパウロから20時間以上かけて日本にもどってきて、実家にもどることなく富士スピードウェイにやってきた。コースを見渡すホテルから見る景色は、日本のレース環境が成熟してきたことを感じる。

 金曜日のフリープラクティスでは1分25秒台で走る。とにかく暑い。ハードタイヤでもすぐにたれる感じがする。朱里にとって、富士は鬼門だ。WECで優勝したことはあるが、トップがガス欠をしての拾い物の勝利だった。それ以外のスーパーGTのレースではチェッカーを受けた覚えがない。何かしらのトラブルに見舞われている。もっとも箱車のレースで朱里のドライビングミスではないのだが、なにか緊張するサーキットなのだ。

 土曜日、予選Q1。グループ1でチームメートの山木が出たが、1分24秒244でQ2にはすすめなかった。グループ2で朱里が登場。アタックタイミングをずらして出たが、1分24秒940しかタイムはでなかった。予選最下位となってしまった。トップタイムとは2秒の差がついた。

 日曜日、決勝。気温32度。路面温度45度。昨日と同様に暑さとの戦いだ。朱里は予選最後尾からのスタートだが、1台マシントラブルでピットスタートとなった。

 朱里のスタートはうまくいった。1コーナーのアウトラインをとって、混乱に巻き込まれずにコーナーを抜け、3位ポジションアップした。だが、メインストレートで抜かれ最下位に落ちた。

 2周目の3コーナーで1台がスピードダウン。朱里は目の前に突然マシンがせまってびっくりしたが、うまく右に避けて抜くことができた。監督は朱里の成長を感じている。

 予選でトップから2秒差をつけられたので、41周のレースだと周回遅れになる可能性がある。朱里は監督と話し合って今日の目標は「同一周回で走る」にした。本当はもっと上の目標をたてたいのだが、現実を見ると高望みはできない。

 10周を過ぎると、ピットインが始まった。だが、朱里はなかなかピットに入らない。タイヤの負担を少しでも減らし、同一周回で走ることを念頭にペースを保つ。一時、6位まで上がったが、他のマシンがピットインしたためで、朱里の実力で上がったわけではない。朱里の前後には他のマシンがいなくなった。まるでフリープラクティス状態だ。マイペースで自分のラインだけを守って走る。レースをしている感じはないが、開発中のマシンを高めるためにはデータが必要だ。このがまんの走りが次にいかされることを信じて朱里は走った。

 22周目、ピットイン。タイヤ交換義務を果たす。トラブルなくピットアウトできた。予選トップの福田はタイヤ交換でミスった。一時8位まで落ちたが挽回して4位まで上がった。WECで朱里のチームメートである小田の相棒である。小田は10位に入ってポイントを獲得していた。朱里と同様に南米帰りで時差ボケ対策がつらかったと言っていたのに、さすがだ。

 レース後半、朱里はたんたんとマシンを走らせる。まるでメトロノームのごとく、同じようなタイムで周回をくりかえす。単独走なので、ペースをたもちやすい。

 結局19位でフィニッシュ。あと10秒で周回遅れになるところだったが、目標はクリアした。相棒の山木は14位フィニッシュだった。やはりマシンが熟成していないのは明らかだ。

 次は2週間後のスーパーGTの富士戦。相性の悪い富士が続く。相棒の山木は心に何かを秘めているようだった。

 SFは1ケ月後のMOTEGI。チームは少しでもマシンを改善しようと研究を強化している。朱里は予選タイムを上げるべく、シミュレーションに精をだす日々を過ごすことになる。

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