第11話 SF SUGO
※この小説は「スーパーGTに女性ドライバー登場」「続スーパーGTに女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。今回の前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。
ル・マンから1週間後、朱里はみちのくSUGOの地にいた。スーパーGTでは優勝したこともあるゲンの言いサーキットだが、SF(スーパーフォーミュラ)のタイムは芳しくない。
予選の土曜日は30度近い暑い日となった。天気予報では決勝日は雨模様だ。予選タイムが大いに影響する。午前の練習走行では、朱里は手こずっていた。他のマシンと2秒近いタイム差がある。朱里は最高速が伸びず、最終コーナーでブルーフラッグを振られる始末だった。SFでブルーフラッグがでることは滅多にない。特に決勝でブルーフラッグを振られることは周回遅れを意味する。2秒近いタイム差では完全に周回遅れになってしまう。1秒程度にしないと同一周回で走れない。チームの相棒である山木はトップから1秒以内にいるので、マシンの性能に問題はあるわけではない。
昼休み、監督と山木そしてチーフメカの高橋の4人でミーティングを行った。
「予選、タイヤをどうする?」
と監督が話を切り出す。
「やはりソフトでしょうね」
と高橋が応える。それに山木もうなずいている。朱里もそれしか考えられなかった。ところが監督が
「スーパーソフトは使えないか?」
と言い出した。高橋が
「この暑さでスーパーソフトを使ったら、ワンチャンスしかないですよ。山木さんはともかく、経験の少ない朱里さんは難しいんじゃ?」
と応える。監督と山木の視線が朱里に向けられる。
「朱里どうする?」
と山木にうながされる。朱里はしばらく考えて、
「このままだとビリは確定です。それよりはチャンスが少なくてもタイムが出せる方法があるならやってみたいです」
と応える。
「さすが、レーサーだ。その意気は大事だぞ」
と山木がほめてくれたが、モニターでの山木と朱里の走りのチェックでは厳しかった。
「ほら、最終コーナーに入るためのSPアウトのラインが悪すぎる。コースアウトを恐れるあまり、スピードがのっていない。ここはゼブラゾーンに右タイヤをのせるぐらいのラインでないと、最終コーナーのスピードがのらない。最終コーナーが伸びないとストレートでの最高速がでないということだ。最終コーナーは横Gを感じるところだが、それに耐えないとタイムはでない。できるか朱里?」
朱里は「やってみる」としか言えなかった。
午後の予選Q1。グループ1で山木が出走。持ち時間10分のうち、最初の5分間は捨てて、残り5分で走りだした。2周でタイヤをあたためて3周目にアタック。
1分7秒544で、トップから0.6秒遅れとなった。順位は7位でおしくもQ2にはすすめなかった。グループ2で朱里が登場。朱里は最初の5分にかけた。他のマシンがタイムアタックをしていない間をねらってタイムを出す作戦だ。もし失敗してもソフトタイヤで再アタックできる。問題は、他のマシンにじゃまされないポジションにいるかだ。
遅いマシンだから最後尾でピットアウト。他のマシンはタイムアタックせずにピットインしていく。そのタイミングを見て、タイムアタック。
第1・第2コーナーをひとつの円で曲がる。第3コーナーはアウトインアウトが決まる。第4コーナーのヘアピンで右横Gを感じる。S字はかまぼこ状のゼブラにのらないようにして抜ける。そして上りのショートストレート。アクセルを踏み過ぎると次の右コーナーでコースアウトする。コースぎりぎりで曲がり、次のレインボーコーナーとひとつのようなラインで曲がる。そして、バックストレッチ。最高速がだせる。パワー最大だ。そして100m看板で思いっきりブレーキ。3速まで落として馬の背の右コーナー。そして左のSPコーナー。スピードを出し過ぎるとコースアウトする要注意箇所だ。タコメーターとにらめっこをしてステアリングを小刻みにきる。SPアウトを無事抜けた。ここからは度胸試しだ。左横Gを感じながら最終コーナーを抜ける。でも10%勾配では加速を感じない。ダンロップブリッジを抜けるとフィニッシュラインだ。無線で
「Good !」
という声が聞こえた。タイムは1分7秒732だった。トップから0.8秒遅れ。このペースなら決勝で周回遅れにならずに済む。山木からの0.2秒差は上々のタイムだ。
その日、仙台のホテルにもどってから山木から夕食の誘いがあった。そこで、マネージャーの凛といっしょにホテル近くの牛タン料理店に出向いた。結構混んでいる。でも、レーサーの顔はあまり知られていない。山木はチャンピオン経験者なので、ある程度知られているので、伊達メガネをかけている。朱里も初の女性ドライバーで話題になっているのだが、ふだん着だとふつうの女の子にしか見えない。何も騒がれずに店に入ることができた。
山木が注文したのは、「牛タンのたたき」である。牛タンのまわりをあぶったもので、ふつうの牛タン焼きとはだいぶ違う。おそるおそる食べてみたが、まるでカツオのたたきみたいな味だった。上等な牛タンでないとできないということだ。
「これが牛タンなの?」
と思わず感嘆の声を上げてしまった。山木はニヤニヤしている。
「牛タンパワーで明日頑張ろうぜ」
と言ってくれた。
翌日、目を覚ますと雨だった。予報どおりだ。強い雨ではないが、傘をさす程度の量が降り続いている。SUGOに着くと、霧だった。メインストレートから第1コーナーは見えるが、いつも見える第6コーナーのハイポイントコーナーは霧におおわれている。
朝一番のフォーミュラライツのレースはほとんどがSCカー先導だった。レースをしたのは4周ほど。まさにスプリントレースだ。その後のSFのウォーミングアップランで事故発生。最終コーナーで1台がコースアウト。左にスリップしてガードレールにぶつかった。ドライバーの山元は無事だった。チャンピオン経験もある大ベテランでも難しいコンディションなのだ。ガードレール修理のため、このウォーミングアップランはキャンセルとなった。
午後の決勝。雨はいまだに降り続いている。前走車のテールランプだけが救いという状態だ。SC先導でレースが始まる。朱里はビリ2でスタートだ。順位はいつもと変わらないが、タイム差は縮んだのでやる気満々だが、前は見えない。感覚で走っている。
5周目、SCカーが滅灯をした。レースが始まる。先頭の野沢がSPアウトからペースを上げる。朱里もスピードをあげる。だが、最終コーナーで1台が左に流れていく。午前中に山元がぶつかったところのすぐ近くに今度は中嶋がクラッシュしていた。またもやSCカー導入だ。今度はタイヤバリヤーの修理だけなので、マシン撤去で再開だ。
11周目、レース再開。最終コーナーで大山がコースアウトしたが、ガードレールにぶつからずに、コースにもどってきた。やっとレースになった。朱里は前に走るマシンのテールランプだけを見て走っている。抜くことは困難だ。コースアウトしないことだけを考えている。
15周目、またもや最終コーナーでクラッシュ。今度はタイヤバリヤー先のガードレールにぶつかった。即、レース中断のレッドフラッグとなった。今度は坂田が餌食となった。1日で3台のマシンが同じコーナーでクラッシュとなった。これ以上の続行は無理と判断され、主催者はレース中止を決定した。会長が観客に向かってお詫びをし、「来年、SUGOでまた会いましょう」という言葉を残して終了となった。
朱里は、残念だった。ビリ2とはいえ、前のマシンにくらいついていけていた。雨がやめば抜けるチャンスはあったかもしれないと思っていた。今までの2レースとは違っていた。手ごたえがあったのである。
次のレースは3週間後のWECブラジル・サンパウロである。しばらく休みがとれる。チームメートの小田は1週間後にはヨーロッパにもどるという。朱里には2週間後でいいと言い残していった。それで朱里はSFのシミュレーションに精をだす日々を迎えることとなっていた。次のSFでステップアップするために・・。
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