第8話
俺は谷さんを備品置き場で休ませた後、急いで仕事を再開した。
作業中、ずっと考えていた。
俺がやったことは、果たして正しかったのだろうか。
自分のしたことで、谷さんが困ったことになったらどうしよう。
ただ言いたいことを言って、殴って。
それでスッキリした訳でもなく、モヤモヤはまだ残っている。
谷さんと話をしたい。
作業を終えた俺は、急いで備品置き場へ戻った。
「あそこのホールで学会があったらしくてな。それでこっちに来てたんやて」
目の縁がまだ少し赤い。
自販機で買った熱い緑茶を飲みながら、谷さんはぽつぽつと話してくれた。
「ここに泊まったんも、昔来たことあるのを思い出したからなんやて言うてた。いやほんま、ノックして扉開けたら先輩がおったから、息止まるか思たわ」
はははと笑って、続ける。
「先輩、一瞬泣きそうな顔してな。でも、バッと部屋に引っ張り込まれた上に押し倒されて『どないしよ』て思てたら、『あの時はごめんなぁ。あんな風に返すしかなかったんや』て」
は?
自分からとんでもないことして別れた相手に言う言葉か、それ。
「『ごめんなぁ』で止めといたらええのに、その後に『俺悪ないからわかってくれよ』みたいなこと言われて、今周りに気にするような人もおらんし、僕ら2人しかいてないのになんやねんそれ……て悲しなってもうて。そこに陸くんがバーン! て来るんやもん。ほんまびっくりしたわぁ」
谷さんは俺の顔を見てふふふと思い出し笑いをする。
「恰好良かったで」
「やめてよ。こっちは何か悪いことにでも巻き込まれたのかもって、必死だったんだから」
マスターキーに感謝だ。
「あ。でもアイツ、部屋であんなにひどいことポンポン言ったの、谷さんに謝ってないじゃん」
「なんで? 謝ってたやん」
「いつ?」
「最後。『元気でな』て言うたやろ。そこに『ごめん』の気持ちもちゃんとついとったで」
「それはわかんねぇわ! 『元気でな』は『元気でな』だろ」
「大人やからね。そういうのはわかるんよ」
俺は「何だよそれ」とこぼす。俺も谷さんぐらいの大人になれば、わかるようになるのだろうか。
「陸くん、今日はほんまにありがとう。また明日からよろしくな」
谷さんは立ち上がって大きく伸びをすると、笑った。
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