第5話

(慎太郎side)


クリスマスの翌日、渚とデートをした。

そのとき、渚は泣いていた。

理由は分からない。

聞きたかったけど、聞けなかった。

あのあと、フードコートでご飯を食べ、また手を繋いで帰った。

あの日から、渚とは会っていない。

元日に渚から「明けましておめでとう。今年もよろしく」とラインがきて、俺も返事をしたくらい。

でも、新学期に入る前に会いたくて、渚の家に行くことにした。

渚からもらったマフラーをつけて。


隣だから、すぐ渚の家に着いてしまった。

家の前でウロウロしていたら、「慎ちゃん?」と声をかけられた。

渚のお母さんの理恵さんだ。

「理恵さん、こんにちは。今、渚は家にいますか?」

「いるわよ。上がってちょうだい」

「いいんですか?」

「喧嘩でもした?」

「クリスマスの次の日に、渚とショッピングセンターに行ったんです。そのときから、渚の様子がおかしくて…」

「やっぱりそうよね。慎ちゃん、心当たりない?」

「いえ…ごめんなさい…」

「慎ちゃんのせいじゃないわ。早く会いに行ってあげて。あの子、慎ちゃんにもらったブレスレット大事にしてるのよ」

「そうなんですか?嬉しいです。俺も渚にもらったこのマフラー大事にしてます」

「うん、よく似合ってる。慎ちゃん、顔が華やかだから、そういう色も似合うわね」

「ありがとうございます」

「お母さーん、誰か来てるのー?」

家の中から、渚の声が聞こえた。

「渚ー、慎ちゃんが来てくれたわよー」

そしたら、バタバタと階段を降りてくる音がした。

「慎太郎!!」

渚は俺にギュッと抱きついた。

「あらあら、渚。どうしたの、慎ちゃんに甘えちゃって」

「会いたかった。話がある。部屋に来て」

「理恵さん、上がっていいですか?」

「どうぞどうぞ」

理恵さんに促され、家に入った。

その間ずっと、渚は俺の手を握っていた。

部屋に入ったら、渚は泣き出してしまった。

「どうした?」

「高田さん…彼女がいる…」

渚の気持ちを考えると、俺は何も言えなくなった。

とてもショックだったんだろう。

渚が傷ついていることを分かっているのに、気の利いたことも言えず、抱きしめることもできない。

何てヘタレなんだ。

「私、バカだよね。高田さんに好きな人がいることは知ってたし、私のことは妹みたいな存在だっていうのも知ってた。でも、頑張れば何とかなると思ってた。でも、バカだった」

「渚はバカじゃない!渚を騙すようなことをした、あいつが悪いんだ!渚は悪くない」

そう言って、渚の手を握った。

それがやっとだった。

「バカだよ…。だって、私はまだ高田さんが好きなんだもん…」

「渚…俺じゃ駄目なのか…?」

そう言って、渚の顔を覗き込んだ。

「ごめん…。やっぱり私は高田さんが好きなの…」

「そうか…。でも、俺はずっと渚が好きだから。渚が俺を好きにならなくても、俺はずっと渚が好きだから」

「駄目だよ。私のこと嫌いになって…」

「嫌いになれるわけないだろ。俺は昔から渚が大好きなんだから」

渚の頭を優しく撫でた。

そしたら、ようやく渚は笑った。

「俺が渚を守ってやるから」

「慎太郎、クサイよ」

「うるせーな。慰めてやってるんだから、お前は笑ってろよ」

「ありがとう、慎太郎。元気出た。ごめんね、私の恋愛話なんて聞きたくなかったよね」

「一人で抱え込むより良いだろ」

「慎太郎はやさしいね」

「じゃあ、俺を好きになれよ」

「それはない」

「酷い奴!」

俺が笑うと、渚も笑った。

渚にはずっと笑顔でいてほしい。

だから、俺はあいつに会いに行くことにした。

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