第12話… あの頃のように

 *・゚・*:.。.*.。.:




 → ダンススタジオ 鏡の前に立つアミ



 いよいよ お誕生会に披露する

 ダンスの練習をする



「僕、踊れるかな〜」

 心配そうに言うマサ先生に


「大丈夫よ!あの人 教え方は上手いから!

 でも、覚悟した方がいいよ!」


「え?」



 準備運動、ストレッチを入念に


 簡単なダンスの動き

 実際に音に合わせてやってみる



 "懐かしいなぁ…"



 自分でも

 顔がほころんでいるのがわかった



 鏡越しに のんと目が合う


 あの頃と変わらない優しい笑顔に

 思わず目を逸らした




 *・゚・*:.。.*.。.:




「マサ先生、脚 反対だよ」


「アミ!右腕は

 そうじゃない、こう!」



 ……ほらね、熱くなってきた



「アミ先生、のぞむ先生

 厳しくないですか?」


「容赦ないでしょ…」


「口、動かす前に 体動かして!」


「ひーん(_;´꒳`;):_」


「(*°∀°)・∴ブハッ!!w マサ先生、ファイティン」


「アミ、だいぶ鈍ってるな…

 それは年齢のせいかな?」


「何その言い方!腹立つわぁ〜!」




 このやり取りが懐かしくて

 なんとも言えない気分だった




 仲が良かった頃

 よく のんの練習に付き合わされた


 意外と体は覚えてるもんで…

 ある程度の動きは叩き込まれていた



 完璧主義ののん

 納得いかない動きがあると

 とことん追求し

 自分を追い込んで 完全体に仕上げる


 偉そうに意見することは出来ないから

 私は その練習に付き合って

 彼の気持ちを宥めてあげる


 当時の私たちは

 物事が上手くいかない時も

 共に寄り添って激励し合って

 上手に発散することが出来ていた



 切磋琢磨…この言葉がしっくりくる


 …異性でも 頼れる親友だった




 *・゚・*:.。.*.。.:




 熱血指導が続くダンススタジオ

 ステップを踏めば

 キュッキュッと 靴底の擦れる音が響く




「うわ〜少し休憩しましょうよぉ〜(_;´꒳`;):_」


 マサ先生の悲痛な叫びで

 我に返ったのん



「あ!ごめんね!…つい熱が…」


「熱すぎますよ、のぞむせんせぇ〜」


 _:(´-`」 ∠):_…



「にしても!アミ先生!

 ヒップホップは苦手だって

 言ってませんでした?

 動けてるじゃないですか!

 嘘つきぃぃ〜_(┐「ε:)_」


「ヒップホップは

 初めてじゃないからねぇ〜」


「もっとサクサク動けてたよな?」


「あれから何年経ってると思ってんのよ!」


「(* ̄m ̄)プッ」



 ←・・・(・-・。) ジーッ

 このやり取りを

 まじまじと見ているマサ先生



「元親友…お互いのこと

 知り尽くしてる…って感じですね」


「えっ…?そう?」


「あ!この辺にコンビニありますか?」


「あるよ!」


「今の練習で

 かなりのエネルギー消耗したので

 食べるもの 買ってきますね!」



 そう言って、マサ先生は

 スタジオを出て行った




 。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆




 懐かしいスタジオの香りは

 当時の仲良かった頃の私たちに

 勢いよく引き戻す



 のんが先に口を開いた



「ここの場所、すぐわかった?」


「何度も来てたから

 目を瞑ってでも来れそうだったよ!」


「ハハッ!だよな!」



 穏やかな空気感に助けられて

 私たちは 普通に会話してしまう




 スタジオの壁に 飾られている

 額に収められた

 ダンスインストラクターライセンスの証書


 ガラスのショーケースには

 トロフィーや盾も たくさん並んでいる




「凄いね!夢、叶えたんだね…」


「うん…」


「おめでとう!(*´꒳`*)

 たくさん苦労した甲斐があったね」


「…あの時 周りに反対されることが

 多かったから

 アミから前向きな言葉を

 かけてもらえなかったら

 留学も出来なかった…」


のんが影で

 たくさん練習してたのも知らないで

 勝手なことばかり言ってたもんね!

 まだまだ伸び代あるのに

 みんな、わかってなかったのよ!」



 皆に反対されてくすぶっていたのん

 留学を強く奨めたのは私だった


 今思えば

 もっと飛躍する彼を

 この目で見てみたいっていう

 私のエゴでもあったんだと思う



「あのさ、アミ…

 ずっと謝りたかったんだ…

 壮行会の日の…っ…」


「その話は もういいから…

 忘れたから謝らなくていい」


「・・・・・・」




 ガチャ…


「ただいまで〜す…"(ノ*>∀<)ノ」


 タイミング良く

 マサ先生がたくさん買い込んで

 戻ってきた


「あ、飲み物買ってくるのを

 忘れました( ¡º□º)ァァァ…」





 *・゚・*:.。.*.。.:



 食べ物にたかるハイエナの如く

 お腹が空いていたのか…3人で

 全て 食べ尽くした



「眠くなってきましたね…゚゚\(´O`/)°゜゚」


「そうだね!今日は初日だし

 練習もこの辺にして解散しようか」


「次は いつ練習を…」


「土日外すとして

 俺は毎日来てもらってもいいよ…」


「じゃあ、毎日通いましょ!

 あ、アミ先生のお迎え彼氏さんは

 大丈夫ですか?」


「え?…うん、大丈夫!言ってあるから」


「・・・・・・」


「じゃあ、のぞむ先生!

 明日からもよろしくお願いします!」



 私も挨拶しておこう…

「お世話になります(*・ω・)*_ _)ペコリ」


「こちらこそ…お役に立てて嬉しいよ!

 頑張りましょう٩(ˊᗜˋ*)و」



 私たちはスタジオを出た




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 → 再び スタジオにポツンとのぞむ



「楽しかったぁ…」



 でも…

 謝れなかった…




 「お迎え彼氏か…」



 もう、俺はじゃないから…

 心配されても迷惑なだけだよなぁ…




 前に進めてないのは 俺だけか…




 。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆



 2年前の あの日…

 俺の留学が決まって

 仲の良かったダチが発起人となって

 壮行会を開いてくれて

 たくさんの人が

 お祝いに駆け付けてくれた



 貸切居酒屋、笑い声が絶えない

 賑やかな壮行会で集まった人達が次々と

 声を掛けてくれた



「寂しくなるなぁ…

 ホントに行っちゃうんだ…」


「1年半は長いよなぁ…俺の事忘れるなよ?

 あ!水はペットボトルのものを飲めよ!

 水道水はお腹壊すらしいからな!」


「アハハ!それは大丈夫だよ!」


「アミも寂しがってるでしょ?

 アンタ達、すごく仲良いから…

 どうして 付き合わないのよ?」


「アミは そんなんじゃないよ!

 腹割って話せる親友だから(*´꒳`*)」


「親友って言ったって オンナだぞ?

 付き合いたいとか思わないのか?」


「ん〜…いつも一緒にいるしなぁ〜

 アミは"カノジョ"って柄でもないだろ?」


「確かにそうね!(´▽`*)アハハ

 …そういえば 彼氏が出来ても

 長く続かないって

 嘆いてたのを聞いたことあるし!」


「そうそう、アミは

 熱しやすくて冷やすいんだよなぁ…

 この前も 振られたって

 俺のところに報告くれたよ!」


「アミはのぞむのところに行って

 話を聞いてもらってるって言ってたわ!

 慰めるのも 一苦労よね(*´艸`)」


「アミは のぞむ

 頼りきってる感じだもんな」


「まぁ、唯一無二の親友だから

 面倒見てやってるのさ( *¯ ꒳¯*)ドヤッ」


「…そういえば、さっきから

 その親友のアミが見当たらないな…?

 どうしたんだ?」


「あら?さっきトイレに行くって

 席を立ってたわよ?」


「飲みすぎたのかな?のぞむ見てきたら?」


「…うん」



 。゜⋆。゜⋆




 トイレに行ってドア越しに

 声をかけても返答がなく

 中で倒れてるかもしれないと

 店員さんに頼んで

 トイレの中を確認してもらったけど

 誰も居なくて



「どこ行ったんだ?」



 店の外に出てみることにした




 。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆




「アミは、のぞむと付き合ってんの?」


「え?付き合ってないけど?」



 渋々参加したんだろう…

 俺の事をあまり良く思っていない友人が

 アミに話しかけていた



「じゃあ、俺と付き合ってよ!」


「なんでそうなるのよ!(´▽`*)アハハ

 私たち、そんなに話したことないよね?」


「これから仲良くなればいいじゃん!

 のぞむも居なくなることだしさ!」


「…何言ってるの?

 今日はのんの壮行会だよ!

 早く戻って祝ってあげないと」


「どいつも こいつも

 のぞむのぞむってよぉ!

 アイツのどこがいいんだよ!

 お前、やっぱりのぞむのこと

 好きなんだろ?」


「だから、のんは そんなんじゃないって!」





 ドクンッ…

 心臓が大きく跳ねる



 ── "そんなんじゃない…" ──



 俺も さっき同じことを言ったのに…





のんのことを祝えないなら

 もう帰れば?」


「最初から祝うつもりなんかねぇよ!!」



 ヤツは、店に戻ろうとしたアミの腕を

 グイッと掴んでじ上げた


「痛いっ!離してよっ!!」


「なぁ、壮行会なんか 抜けて

 どこか行こうぜ!」




 次の瞬間 俺は

 そいつからアミを奪って

 ヤツの胸ぐらを掴んで

 積み上げられたゴミの山に

 突き飛ばしていた



「……っ…の、のん?」


 驚いた顔で俺を見る アミの手を握り



「行こう、アミ…(*´꒳`*)」





 。゜⋆。゜⋆。゜⋆。゜⋆




 店に戻ると

「ごめん、俺 もう帰るよ」

 発起人に一言言うと また居酒屋から出た




「ちょっと、のん!」


「おい、主役のお前が帰ったら

 壮行会にならないだろ?」


「アミ!何があったのよっ!」


「ごめん!私、のんを連れ戻すから!

 あとで連絡する!」




 *.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜




 → 居酒屋から外に出たのぞむ



 冷たい風に吹かれ

 少し気持ちも落ち着いた



のん!待って!」


「おぉ〜アミ!来てくれた〜(*´꒳`*)」


「お店に戻ろうよ!みんな待ってるよ?」


「良いんだ…俺は もうすぐ

 みんなの前から居なくなるしぃ〜」


「な〜に、つれない事言ってんのよ!

 顔、真っ赤だよ!(´▽`*)アハハ

 普段飲まないのに

 飲み過ぎちゃったんでしょ!」



 肩を組んで 2人…フラフラと歩く



 アミの話す声が 耳に心地いい…

 留学したら…しばらく聞けないのか…



「なぁ、アミ…?」


「はい、何ですか?」


「俺が居なくなったら…寂しい?」


「え?寂しくないよ、ぜ〜んぜん(*´艸`)」


「ふ〜ん…」


「逆に楽しみだよ」


「楽しみ?」


「今ののんよりも さらに

 パワーアップして戻ってくるんだもん!

 楽しみで仕方ないよ!」


「そういうもんかねぇ〜」


「そういえば 引越しの準備、進んでる?」


「まだだよ…」


「えっ!ちょっと!

 早く荷造りしないと間に合わないじゃん!

 大丈夫なの?手伝おうか?」




 ヘタレな俺は…

 この時のアミの優しさを利用したんだ

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