(3)――こういうのを、正常性バイアスというのだったか。

 目が覚めて、身支度を整え、リビングに行く。

 父は出勤済で、母も身支度を整え、出勤間近。

 私はテレビを見ながら母を見送る。

 朝食のメニューはずっと同じ。

 テレビでは、やはり見覚えしかない内容ばかりが放送されていた。

 学校へ来ても、時間割は昨日と同じ。

 悪口も一言一句同じ。

 これは、どちらがおかしいのだろう。

 疑問も抱かず昨日と同じ今日を過ごす周囲の人間か。

 混乱しつつも昨日と同じ今日を過ごそうとする私か。

 こういうのを、正常性バイアスというのだったか。つまりどちらかが、この繰り返される「今日」を正常の範囲であると歪んで認知していることになるのだが。

 間違いなく、それが働いているのは私なのだろうとは、思う。そうでなければ、社会はもっと混乱しているはずだからだ。

 あくまで、繰り返しの「今日」を認識しているのは、私一人だけ。

 何故?

 理由もなくこんなことに巻き込まれるわけがない、と思いたい。しかし、もしもこれが上位存在による無作為な選出であれば、その前提も瓦解する。いやいや、上位存在ってなんだ。駄目だ、混乱してしまっていて、頭がまともに動いてくれない。

 気がおかしくなりそうだ。

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