(2)――そんな非現実的なことが起きてたまるか。

 いつも通り目を覚まし、身支度を整え、階下のリビングに行き、朝食を摂る。

 父は出勤済で、母も身支度を整え、出勤間近だ。

 私はテレビを見ながら母を見送る。

 テレビでは、相変わらず代わり映えしない内容が報道されていた。

 が。

 これはあまりにも昨日と内容が同じ過ぎやしないだろうか、なんて疑念が脳を過る。いや、考え過ぎか。きっとデジャブとかいうやつだろう。毎日飽きもせずに、似たような話題ばかり取り上げているテレビ番組が悪い。

 気にせず、今日も今日とて同じメニューだった朝食を食べ終えると、戸締まりをしっかりして、私は学校へ向かった。

 しかし、時間割を勘違いしていて、ものの見事に大半の教科書を忘れてしまっていた。おかしいな、変更はないと思っていたのだけれど。これじゃあまるで、昨日の時間割と同じではないか。

 果たして、そんな偶然があり得るのか?

 首を傾げた私に、しかし、遂に決定打が突きつけられる。

「ねえ、さっきの狐井さんの態度見た? マジありえんし」

「先生も気を利かせてるってわかんないのかね」

「あれで表情ひとつ変わんないとか、もう機械なんじゃね?」

 聞こえてくる悪口が昨日と全く同一なんてことは、流石に有り得ないだろう。彼ら彼女らの語彙は無駄に豊富で、昨日と一言一句同じことを言うなんて娯楽に欠ける真似は、しそうにない。

 まさか。

 まさか、そんな。

 そんなことが、起こり得るのだろうか。

 吐き気に似た感情を抱えながら、私は一日の授業を全て乗り切り、帰路に着いた。

 もしかしたら、昨日と同じ一日を繰り返しているなんて、そんな非現実的なことが起きてたまるか。そんなのはフィクションの中でだけ起こる現象だ。

 気の所為。

 全部、気の所為だ。

 そうやって自分を説得し、その日、私は早めに床についたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る