第38話 超ハイテンション

 強化スキルの同時使用により爆増したステータスは単純な戦闘力だけでなくアヤのテンションも上昇させた。


 「力がッ……力がみなぎる……ッ!!」


 Ckoではステータスに応じて表示されていない身体能力も上昇する。例えば、AGIを上げた時同時にプレイヤーの動体視力も微増させることによって肉体を動かしたときに生じる違和感を無くす。などである。つまりいきなりステータスが爆増すると、体が軽くなり、力が溢れ、視界も普段よりもクリアになることでプレイヤーに何とも得難い全能感をもたらすのだ。

 そしてこれはアヤにはわかりようもないことであるが、これより五分間アヤの身体能力はドゥルグ村の全真竜人の中でトップクラスまで跳ね上がった。



 「体が軽い」



 少し踏み込んだだけで今までにないくらいの加速力が生まれた。私最強。真竜人の前衛を超すスピードで鬼神に肉薄できた。私最強。踏み込みから放たれたナイフはその凄まじい膂力からか今まで出したことのない音とともに鬼神に迫る。


 「私最強ぉぉぉ!!」


 私の急激な変化に鬼神がわずかに驚いた顔をしたが、冷静に岩竜ナイフは避けられる。そしてカウンターを繰り出す鬼神の動きが先ほどよりもいくらか鮮明に見えた。というか、実はさっきまでほとんど見えていなかった。だがまあこれだけ見えるのならば対処のしようもある。

 私は左手の秋月のナイフで鬼神の爪をほんのわずかに逸らし、さらに体をひねることで回避する。その体勢から今度は私が攻撃を仕掛ける。








 「すご………」



 目の前では四大特異点の一つである鬼神と私の友達であるアヤが激戦を繰り広げていた。彼女は今朝村を出た時点では竜人だった。それが帰って来た時に真竜人になっていたのだから確実に真竜人になってから一日も経っていない。

 そのはずなのに、目の前では鬼神と………真竜人の、特に近接戦闘が得意な者10人で足止めをしていた鬼神とやりあっていた。もちろん身体能力だけでやりあえているのではないのだろう。アヤには出会ったときから妙な動きの洗練が感じられた。だが、それにしても目の前のこれは異常事態だ。あの化け物じみた身体能力は何だろう?アヤの見た目からして恐らく竜化をしているのだろうが、それにしても身体能力が上がりすぎだし。


 いや、そんなことを考えている暇はない。見るからにギリギリで鬼神とわたり合えているアヤをサポートしなければ。


 「み、皆!アヤが時間を稼いでるうちにの準備するよ!」









 ───右左右下上左上右下攻撃左右攻撃右上左右下


 「ああああぁぁぁあ!!」


 たまらず大きく後退して鬼神との距離を開ける。相手の攻撃に対処できるようになったのは良いのだが、ちょっと考えることが多くて脳がはち切れそうだ。もうあの鬼神さん腕が四本くらいあるんじゃないかと思うほどの速度で攻撃してくるのだ。

 そして、「憤怒」で上がるのがSTRとAGIのみのため相手の攻撃が私の命を削り取るのに必要な火力は変わっていないのがまた厳しい。

 いや、竜化でHPが減っているだろうから竜化バフ込みでも一撃で死ぬかもしれない。


 「いや………強すぎでしょ。バランスおかしくない………?」


 鬼神の一挙手一投足に注目して攻撃の起点を見逃さないようにしながら呼吸を整える。



 「よし………!」


 鬼神との距離を詰める。相手もそれに合わせてこちらに駆け出す。そして加速した思考の中で相手の攻撃の起こりを読み取り対処する。

 右からの攻撃を体をひねって避け、反撃を繰りだすが防がれ今度は相手が───


 「っづあぁ!」


 そして憤怒を使用して三分ほどたった頃、激しい戦闘による脳の疲労からとても乙女が出す声とは思えないような叫び声を上げながらも再び大きく距離を離した鬼神に、

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